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27. ミケの母とシェドの母
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ミケの家は、ド貧乏だった。
どこかをどうにか辿ると王族の端っこにあたるらしいが、末端の末端で、受け継がれるような領地や財産もなく、両親には商才も勤勉さもなく、まぁ幼い子どもの目からみても、ド貧乏順当では?と言いたくなる親だった。
それでも、王族の血が入っていれば、強弱はあっても、子どもに魔力が皆無な方が珍しい。
そして、貴族が魔力のある子どもを産むと、禄がもらえる。
だから、両親は子どもを望んだ。
ミケの母は、『母親』をするのがあまり上手ではなかった。
母が父とどこかへ遊びに行ってしまってご飯がないことはしょっちゅうだった。
病人には、大丈夫かと聞くことと、病院に行けと言う事が、世話をすることだと思っていた。
極悪人だった訳ではないと思う。
子どもを思いどおりにしようと強制したり、いら立って殴ったりということもなかったし、本人は自分が子どもを可愛がっていると信じていた。
だからミケは、チャドとシェドと暮らして、ものすごく驚いたのだ。
チャドは、毎日子供のためにご飯をつくる。朝昼晩と3食も。しかも決まった時間に。
あまりにひどいときは流石にミケが体を張ってとめたけれど、チャドは自分に熱があっても疲れていても、子どものご飯を抜こうとしない。
それから、すごくうれしそうな顔をしながら話を聞いてくれる。
ちょっとしたことで褒めまくり、シェドやミケが好きなものや食べたいものをゲットしようと頑張ってくれる。
シェドやミケが、風邪をひいて熱を出したら、なんと寄ってくる。
うつさないでよ、とか、絶対言わない。
おでこは冷やすわ、そばで寝るわ。寒いと言えば毛布でぐるぐる巻きにしたうえ抱っこ。
ご飯の時間に限らず、何度も食べやすい食事とか飲みものをもってうろうろ。
大丈夫じゃない時に大丈夫だと言ったら泣かれた。
チャドが特別な大人なのかと思ったら、まだ子どものはずのシェドもにたようなもので。
巣から落ちて足を折ったカラカラバトとか、棘ドングリを食べて動けなくなったパンダリスとか拾ってくると、チャドと同じように気合いのはいったお世話をする。
拾ってきた動物にダニがついていて、全身痒痒になった時も、捨てようとかする気配は一瞬たりともなかった。
朝が苦手で面倒くさがりなくせに、1日もかかさず早起きをして、怪我した仔に1時間ちかくかけて給餌していた。
彼らにとって、「可愛がる」というのは、「可愛いね」と伝えておしまい、ではない。
周囲の人から、「可愛いくて優秀なお子様ですね」とか羨ましがられたいのとも違う。
父はミケに「子どもは、動物の世話にすぐに飽きる」のだから、何も飼ってはいけないと言った。
母はミケに「子どもは、意志が弱くて我慢できない」のだから、大人に口答えはいけないと言った。
でも、違った。
あの「お世話」ができるかどうかは、子どもとか大人とかで決まるのではなくて、生き物として別なのだ。
ミケが、子どもにも、魔素ばかり多くて魔力が少ない女性にも、まず無理だと言われた治癒魔法の習得に必死になったのは、姉のためだった。
ミケの母は、頭を撫でて大丈夫かと聞いても治らないと不機嫌になるから、ミケの父は、医者の所に行っていいと言っても治らないと不機嫌になるから。
姉は大丈夫なふりをして、でも、どんどん悪くなって。
ミケは何度もぶっ倒れながら治癒魔法をがんばった。シェドの頑張り方を見ていたから、自分もそれができると思った。
子どもだったけれど、飽きることも我慢できないこともなかった。男の人に比べるとそれはもう微々たる治癒力だったけれど、姉の咳は止まった。
だからミケは、いつかチャドさんのような大人になれると信じたかった。
生き物として別でも、それは遺伝子だけでは決まらないと信じたかった。
自分がチャドやシェドと同じ生き物なのか気になってしかたがなかった。
違ったらと思うと怖くて、怖くて、ためさずにはいられなかったのだ。
どこかをどうにか辿ると王族の端っこにあたるらしいが、末端の末端で、受け継がれるような領地や財産もなく、両親には商才も勤勉さもなく、まぁ幼い子どもの目からみても、ド貧乏順当では?と言いたくなる親だった。
それでも、王族の血が入っていれば、強弱はあっても、子どもに魔力が皆無な方が珍しい。
そして、貴族が魔力のある子どもを産むと、禄がもらえる。
だから、両親は子どもを望んだ。
ミケの母は、『母親』をするのがあまり上手ではなかった。
母が父とどこかへ遊びに行ってしまってご飯がないことはしょっちゅうだった。
病人には、大丈夫かと聞くことと、病院に行けと言う事が、世話をすることだと思っていた。
極悪人だった訳ではないと思う。
子どもを思いどおりにしようと強制したり、いら立って殴ったりということもなかったし、本人は自分が子どもを可愛がっていると信じていた。
だからミケは、チャドとシェドと暮らして、ものすごく驚いたのだ。
チャドは、毎日子供のためにご飯をつくる。朝昼晩と3食も。しかも決まった時間に。
あまりにひどいときは流石にミケが体を張ってとめたけれど、チャドは自分に熱があっても疲れていても、子どものご飯を抜こうとしない。
それから、すごくうれしそうな顔をしながら話を聞いてくれる。
ちょっとしたことで褒めまくり、シェドやミケが好きなものや食べたいものをゲットしようと頑張ってくれる。
シェドやミケが、風邪をひいて熱を出したら、なんと寄ってくる。
うつさないでよ、とか、絶対言わない。
おでこは冷やすわ、そばで寝るわ。寒いと言えば毛布でぐるぐる巻きにしたうえ抱っこ。
ご飯の時間に限らず、何度も食べやすい食事とか飲みものをもってうろうろ。
大丈夫じゃない時に大丈夫だと言ったら泣かれた。
チャドが特別な大人なのかと思ったら、まだ子どものはずのシェドもにたようなもので。
巣から落ちて足を折ったカラカラバトとか、棘ドングリを食べて動けなくなったパンダリスとか拾ってくると、チャドと同じように気合いのはいったお世話をする。
拾ってきた動物にダニがついていて、全身痒痒になった時も、捨てようとかする気配は一瞬たりともなかった。
朝が苦手で面倒くさがりなくせに、1日もかかさず早起きをして、怪我した仔に1時間ちかくかけて給餌していた。
彼らにとって、「可愛がる」というのは、「可愛いね」と伝えておしまい、ではない。
周囲の人から、「可愛いくて優秀なお子様ですね」とか羨ましがられたいのとも違う。
父はミケに「子どもは、動物の世話にすぐに飽きる」のだから、何も飼ってはいけないと言った。
母はミケに「子どもは、意志が弱くて我慢できない」のだから、大人に口答えはいけないと言った。
でも、違った。
あの「お世話」ができるかどうかは、子どもとか大人とかで決まるのではなくて、生き物として別なのだ。
ミケが、子どもにも、魔素ばかり多くて魔力が少ない女性にも、まず無理だと言われた治癒魔法の習得に必死になったのは、姉のためだった。
ミケの母は、頭を撫でて大丈夫かと聞いても治らないと不機嫌になるから、ミケの父は、医者の所に行っていいと言っても治らないと不機嫌になるから。
姉は大丈夫なふりをして、でも、どんどん悪くなって。
ミケは何度もぶっ倒れながら治癒魔法をがんばった。シェドの頑張り方を見ていたから、自分もそれができると思った。
子どもだったけれど、飽きることも我慢できないこともなかった。男の人に比べるとそれはもう微々たる治癒力だったけれど、姉の咳は止まった。
だからミケは、いつかチャドさんのような大人になれると信じたかった。
生き物として別でも、それは遺伝子だけでは決まらないと信じたかった。
自分がチャドやシェドと同じ生き物なのか気になってしかたがなかった。
違ったらと思うと怖くて、怖くて、ためさずにはいられなかったのだ。
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