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57☆ケモナー

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「かおが、赤いので。体調、わるいですか?」

あんたのせいだよ!って即答しなかった自分を褒めてあげたい。
だって、唇をかみしめて、一歩下がるサフラとか。私は虐待師匠かよ。

んで、いうに事欠いて、

「・・・。後ろから、いきなり近づいて、すみません」

ってなにごと?
いや、あんた、師匠師匠って毎日抱っこで、いきなり背中よじ登って来るなんて、日常茶飯事だったでしょうが!

「たぶん、ユオの体が、僕に拒絶反応、しているんです」

ええええ?

「なんで?!」

「僕が、ユオにも、左手の彼女にも、ひどい事ばかりした、から」

割れた陶芸品みたいな声で、血が出そうなほど唇を噛んで、そのまま土下座しそうな悲壮な表情で、何を言うかと思えば・・・

ひどい事ってなんでしょうね。ひょっとして、うちの左手といちゃこらした時のあれやこれやですか?うちのが、おムコに行けないようなことさせましたか?!

『あー』

って、思い当たることがあるのかよ、この貞操観念の死んだ左手はぁ!
サフラがおムコに行けない、とか思っていたらどうしてくれるのよ。

『えっとぉ、エッチしてる時に、焼孔に手が当っちゃったんだよね、そのせいじゃないかな』

この左手、サフラを宥めろと言われて、間髪入れずにカラダで篭絡、とかぶちかましただけのことはある。自分の分身ながら、あけすけなやつ!

『ゆるしてあげなって。手があたったのは事故だし、他は気持ちよかったよ?』

ゆるすもなにも、怒ってる設定だって知ったのが数秒前だよ!
おまけに、客観的には違っても、主観的には私、清いカラダなんですけど?!

「サフラに拒絶反応とか、違うから!そうじゃなくて。みみ、弱いのよ、昔から!」

・・・

数秒黙ってから、サフラの赤面。
いや、我が弟子ながら、ほんと可愛いよな。
なんておもって、甘い顔したのが悪かった。

「マフラーも、嫌、ですか?」

「わ、や、こら、さふ、ら、やめ・・」

師匠やってた時気づかなかったなんて迂闊!この子、ひょっとしてケモナーだった?!

その耳当てなんて、ケモミミにしかみえませんよ?!イヤリングの先にサクランボを模したピンクなマラボーが揺れてるのもどうなんでしょうか?

手袋とかの防寒用品だけでなく、アクセサリーの類まで、ファーとマラボーとフェザーまみれとか、心底背筋が休まらない。

「邪な弟子、でした、ね。雪の中でユオのほっぺが赤くなるのが大好きで、一緒に外に出たくて、暖かそうな小物みると、集めていました。結局、渡せませんでしたけど」

「え、私、サフラのプレゼントに文句いったっけ?」

「密猟者にブチ切れましたよね。こういうのも、動物愛護の精神で、アウト、でしょ?」

あ。確かにブチ切れた。

だってあいつ等、何十発も弾打ち込んで嬲り殺した動物に、胆石がないっておしっこかけたり、出産頑張って赤ちゃんと冬眠している小動物の巣穴荒らして、赤ちゃんの柔らかい毛だけむしりまくったりしたんだもの。
なんの生き物だかわからなくなる程むしられて、瀕死でハゲタカにつつかれる赤ちゃんのために、大きな鳥に何度も体当たりして死ぬ親とかみちゃった日には、そりゃその恨み代わって晴らしてやろうかしら、って位には激高する。

けど、私達だって、魔獣を狩ってご飯頂いて来た自覚はあるし、ケモナー趣味のプレゼント全般に怒るとか、ないよ?

「中身、食べられる動物なら別に・・・寒いのつらいし」

「じゃ、つかってくれますか?」

「え゛」

話の流れ上、やだとも答えにくくて、固まると。

しゅる、しゅるしゅるっ

首に巻かれていたマフラーがゆっくり引き抜かれて、ぞわぞわに息を止める。

このバカ弟子~!

「わざとでしょっ、バレてるわよ?!」

ここで、押し切られてはいかん!とばかりに、顔をあげると、サフラの顔の方が首まで真っ赤で。

おまけになんなのよ、その初々しい乙女のように頬に手を当てたポーズは!!
どうせあんたが世界一可愛いわよ、うちの弟子が一番よ!わかっているわよ!
ほんと、いい加減可愛さセーブしないと、あんたにケモミミつけるわよ?!

私はそう思っただけなのに、左手が、勝手に上がっていく。
それから、すべすべのサフラのほっぺを、人差し指ですっとなでて、サフラのシャツのボタンを、ぴんっ、てはずすとか。

いい加減にしろよ、この痴女化左手――っ。

なんて、脳内ドタバタに落ちたのは私だけだった。

サフラのほうは、その瞬間フリーズして、筆舌に尽くしがたい半泣き顔になった。

大事なものを何度も何度も取り上げられて、とても苦しんで大人になった子の顔。
私が、この子を守れなかった最悪の時にだけ訪れると思っていた、苦しげな顔だ。

そんな半泣き顔を伏せようともせずに、震える指を私に向かって遠慮がちに伸ばそうとするとか。

だめ、これはだめだ。私は、耳のふちの数百倍サフラに弱い。
条件反射で、彼を抱きしめた。

一生懸命ぎゅうぎゅうして、さすさすして。やっとサフラのフリーズが解ける。

「・・・もう、焼孔の跡は、痛みませんか?」

「へ?ぜんぜん?」

この体はクレーム係さんが予算申請してくれた新品で、焼孔されてませんし?

「でも、彼女は、とても辛そうでした。僕は、彼女の傷に触れたんです。あんなに嫌がっていたのに。ひどいことばかりして。そうしたら、のたうち回って・・・」

あー、左手、私の過去の記憶の方に引きずられちゃったんだな。でも、少なくとも腎臓の方はそんな、髪が触れただけでのたうち回るとかいう程じゃなかった気がする。あれは死にかけてたからか?

「大丈夫、大丈夫。さわって試してもいいよ?」

「・・・触れても、いいんですか?」

ぱちくり
ん?
若干性的な響きを感じるのは、私だけ?

「よ、夜的な意味だった?」

「・・・『彼女』みたいに、言うんですね。捌け口、鬱憤、夜の相手・・・」

サフラの声は、思った以上に低かった。
ぐるぐる、ぐるぐる、思考が負のスパイラルしているときの声。

必要以上の後悔と、また失うかもしれない恐怖で、おかしくなりながら触れてたんだろうなって、予想がついてしまう。

手紙だった頃のユオが、サフラを、傷を抉って楽しめる人間だと思っていたとか、
鬱憤を晴らしているとしか思わず、きっとそう思ったまま消えてしまった、とか。
そんな渦に、溺れている。

「えーと、お手紙の語彙力については、その、申し訳ない、ですが、あの時の彼女も、私も、嫌とかではないので・・・」

「・・・嫌では、ない?」

こくこくこく
首ががくがくいう程頷いてみる。

「耳から垂れる程愛情洪水の手紙にしたつもりだったけど、伝わってなかったかぁ」

ちゃんと、私の救出よりサフラ宥めるほうを優先するように伝えてあったのよ?
まぁ、あの性格じゃ、かなり勝手しただろうけどさ。

「そういうのではなく・・

ちゅ

・・・こういうの、です」

サフラはもどかしそうな顔で、私の頬に唇をつける。

そんなに違うか? 

ちゅ

と、返して、どうちがうのさ、な、首傾げポーズ。

何はさておき「いつだって私はサフラが大好きで一番だよ」アピールが大事。

もう正直、サフラの心の安寧のためなら、左手の痴女化に乗っかってもいいや、という気分にすらなってきた。

我ながら本当にサフラに弱いと思う。
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