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16☆魔物の出る国境に行こう

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「は、っぴゃく、ななじゅう、よんまん、ディル?!」

他人のかばんはのぞかない主義だと言って、緊急性もないのに、お茶を入れに部屋を出ていたサフラが、戻ってくるなりアイテムボックスの蓋を覗き込み、仰け反った。

その何とかディルがどれくらいの価値なのかわからないけれども、サフラにもらった短刀と干しダコ以外、カバンの中身は全部アイテムボックスにつっこんでしまったので、大掃除を終えたかのような爽快感がある。

「換金、できそう?」
「ぜ、ぜ、ぜ、全部?!」

「うん。足りない?」

「足りすぎるっ、けど、何を入れたらこんなに?!管理された格付け試験フィールドにそんな高額が付く魔物いないとおもうのだけれど?!」

コバルト・オクトパスの口1、マンティコアの毒針3、ここら辺は凄いけれど、まだわかる。
で、イヴ・レタリアの外殻4万・・・って、何?聞いたことがないよ?
さらに、フェニックスの尾羽16枚に、ミニ・ドラゴンの逆鱗18枚って、1年間にフィールドに放される上級者用の魔物の数より絶対に多いと思うんですけど?!
あとは、マントル・アコヤの蝶番が41個・・・って、地中深くに住むって噂の貝だよね、既に伝説では?!
   
「足りるなら良かった。で、何したかったんだっけ、旅費と武器代?サフラの装備は買えない?」

「買える、けど・・」

「けど?」

「まって、874万ディルだよ?!あと、126万ディル頑張って、1000ディルを国に払えば、ユオは奴隷じゃなくなる!」

「奴隷じゃなくなろうが女性だし、未成人だし、大して得ないよね?そんなの後回しです」

奴隷か否かに関係なく、保護者無し・金無し・装備なしで未成年が生きていける世界じゃないのに1000ディルに何の意味が?と、言わんばかりのユオの態度は一貫していて、すがすがしい程だ。

が、世の中の汚さは、とても組織的。
未婚女性や、奴隷の個人情報は保護されていないので、口座から賦与された財産、能力値まで、のぞきたい放題。それをもとに、妾によこせだの、その奴隷を売れだのの交渉が来る。
しかも僕には相続人がいないから、僕が死ねばユオは無主物になってしまうのだ。

「ええとね、奴隷のままだと、僕が、死んだら、ユオは無主物になって強引にでもユオを分捕った奴の物になっちゃうの!」

僕を殺したい奴がわんさかいる中、僕が死んだ後にユオを狩れば、ユオのお金は狩ったやつの物だ。
874万ディルは、装備一式の金額を上回る。
一般人にとっては別の人生が買える額なわけで、ユオを狩りたい便乗組が出る額でもある。

うっわ、チョロい賞金首が2人分。

さて、どうしよう。深刻な思案顔になった僕の前で、ユオは軽く両手を広げた。

「分かりました。今からさっさとサフラの装備と保存できる高級肉買って、国境への切符も買って、あまった分で遊んで、やばいヤツに目つけられる前に使い切りましょう」

・・・・
ええええ?!

使うの?この金額を?!さっさと? 考えつきませんでした!

「ユオ、放蕩癖ある?!」

「捨てるのが勿体ないから使いきろう、ってどっちかというと貧乏根性では?さぁ、換金性の低いものからいきましょう。レッツショッピング!」

おおう。散財。

ユオが、分捕られないように換金しにくいものから買おうというので、まず、私とユオに波長がチューニングされた念話のセットを買った。

僕の装備は、国境で中古品を買うことにした。契約を介さずに、即金で買えるから。

出発を急ぐために、ユオのアーマードスーツを特急仕上げにしてもらう。
一週間待てばできるのに、今晩中に受け取るために10万ディルも払うって、贅沢!

それから、国境まで馬車で行くのではなくて、贅沢に、転送装置で行くことにして、明日の朝一で出られる整理券を買った。

市場には高級魔物肉はほとんど出回っておらず、あっても人型。
ユオは、目先を変えて、フードドライヤーなるものを買った。国境で高級肉を狩って、僕用の保存食を作ってくれるのだそうだ。

うふふ、やさしい。
買えると思うと、これまで気に止めていなかったものまで視界に飛び込んでくる。

露店で並べられている、銀細工の髪留めとか、瑪瑙の指輪とか、ユオに似合いそう。
高額な貴金属とか宝石とか、財産にカウントされる程の物じゃなければ、ユオとおそろい、出来るかな、なんてね。

「どんなのが、好みですか?」

ユオは、僕に、欲しいものがあると、すぐに気づく。なんでわかるのか聞いたら、歩みがとろくなって、口が開くのだそうだ。
最初ははずかしかったが、『なにいってんですか、さっさと使わないと死ぬんですよ』とまで言われると、煩悩がはしゃいでしまう。

「おそろい!おそろいのアクセサリーが欲しい!」

好みがおそろいって・・と、ユオは一瞬しんみりした顔になったけれど、僕が笑うと、何も言わずに水晶玉のついた腕輪を二つ買ってくれた。
ちょうど形が良かったので、腕輪に念話装置を組み込んでもらった。

露店のご主人に迷子扱いされて、ユオのほっぺが少し膨らんだりもしたけれど、おおむね順調。

口座からは、10万ディル単位でしか引き出せないから、お釣り、というのがはばかられる大金がポケットにたまっていく。

この調子なら、国境で装備をばんばん買っているうちに、すっからかんになるな。それが楽しい自分にちょっとびっくりした。

その後の僕たちは、傍から見たらメンタルを心配されそうなイチャイチャ具合で過ごした。
僕は自分の年齢を忘れて、全身全霊でユオを過保護したかった。
虻とか蛭とかからすら全力で守りたかった。
ユオは、そんなことにいちいち『可愛い上に、カッコイイ!!』とか連呼してくれて、得意げな僕に嬉しそうに守られてくれる。

ただ、マンイーターな魔物とか、毒を吐く植物とか、ちょっと危険度が高いヤツが出ると、ユオの方が僕を体でかばったりしてくるから、気づいてはしまうのだけれど。守られてくれるのは、危なくない範囲だけで、守られてくれるのも子ども扱いのうちなんだなって。

でも、そんな毎日が、本当に、幸せだった。
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