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第4章
2 協力依頼
しおりを挟む「二人とも、五十年前の問題については知っているわよね。そして、あの問題が未だに解決できていないことも。あの問題の所為で、人生に影を落とした人たちも多くいるわ。どんなに時が経とうと、どうしても黒い影が付いて回るの。五十年以上も前の話なのに、高位貴族家の間では、未だに尾を引いているわよね。私たち三人は、問題解決のために動いている外部の方々と一緒に、問題の真相を探っているの。生徒会活動という名目があれば、動ける範囲も広まるし、内容も三人だけに留める事ができるでしょう。先輩方の卒業後、生徒会が三人だけで活動している理由はその為なのよ。本当は、後輩たちを巻き込みたくないというのが本音だけどね」
「エマ、続きは私が話すわ」
エリザベスは、エマに声を掛けてから話し始めた。
「どうしても、私たちの世代であの問題を終わらせたいの。二人とも、淑女科に在籍していたから分かるでしょうけど、本来であれば、婚約を結んでいる子たちはもっと多いはずなのよ。あの問題が、家同士の繋がりを結びづらくさせている原因なのは言うまでもないわよね。私たちは、そういう歪みを正していきたいという気持ちで活動してきたわ。でも、私たちもこの女学院を卒業する年になってしまった。もちろん、卒業後も問題が解決するまでこの活動は続けていくつもりではいるのだけど、学院生の方が動きやすい場面もあるの。これから私たちの後を引き継ぐ生徒会入会予定の後輩たちには伝えるつもりはないのよ。
そこで、あなたたちに協力してほしいの。もちろん、危険なことをさせるつもりはないわ。どうかしら、お願いできるかしら」
ルイーズとエリーにとっては、思いつきもしない内容だったようだ。二人とも俯きながら考え込んでいる。それから数分後、ルイーズが顔を上げてエリザベスに尋ねた。
「二つほど伺ってもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
「まず、その活動は私たちにもできる事なのでしょうか? それから、先輩方の後を引き継ぐ予定の方々にお話しされない理由は何でしょうか?」
「この活動は、二人にもできる事よ。それに協力してもらえるなら、外部の方々との関わりは増えるけど、心配しないでほしいの。私たちの活動は、学院長と淑女科の一部の先生、それから修道院長もご存じよ。何か困ったことがあれば、私たち以外にも頼れる人たちがいるわ。だから安心してほしいの。それと……、生徒会を引き継ぐ予定の後輩たちだけど、メンバーの人数が増える予定なのよ。でも、この活動内容はなるべく少人数に留めたいと思っているわ。そこで、卒業後も頻繁に連絡を取り合うことが可能な二人に、お願いしたいと思ったの」
エリザベスの返答を聞いたルイーズは、エリーを見つめながら無言の確認を取る。ルイーズの表情から、気持ちが固まったことを察知したエリーは、小さくため息を吐きながら頷いた。
「私たちに何ができるのか、まだ分かりませんが。そのお話、お引き受けいたします」
「ルーちゃん、ありがとう。エリーも良いのね」
エマの問いかけに、頷きながら短い返事を返すエリー。
「良かったわ。それでは早速、修道院に行きましょう。いつが良いかしら」
「できれば、長期休暇前に頼む」
それまで黙って話を聞いていたレアが、エリザベスの提案にすぐさま答えた。
「修道院ですか」
疑問に思ったルイーズが聞き返すと、エリザベスが答えた。
「ええ、二人はまだ修道院長にお会いしたことはないわよね。これからお会いすることも増えるから、前もってご挨拶しておきましょう」
「分かりました。その時はよろしくお願いします」
「ありがとう、こちらこそよろしくお願いするわ」
「よろしくたのむ」
ルイーズとエリザベス、そしてレアの三人はお互い顔を見合わせて挨拶を交わした。そんな三人から少し離れたところでは、エリーとエマが何やら小声で話している。
「三人の行いは素晴らしいと思うわ。でも、ルイーズを危険が伴うようなことに巻き込まないでほしいの」
「危険が伴うことはないわ。それに、エリーも何となく気づいているのでしょう。ルーちゃんもこの問題の影響を受けていることに。ルーちゃん自身が動くことで、どんな影響を受けたのか分かるかもしれない。だから、エリーはあの場で反対しなかったし、ルーちゃんの意志に任せたほうが良いとも思ったのよね」
エマに言われたことは図星なのだろうか。何も言い返せないエリー。
「そうね、エマちゃんの言う通りよ。でも、強引には動かないでほしいの。心にどんな負担が掛かるか分からないわ」
「わかったわ。ルーちゃんの様子を見ながら動くから、そんなに心配しないで、エリー」
納得したのか、エマに頷き返すエリー。
その時、その場を仕切るようなエリザベスの声が聞こえてきた。
「それでは、次は修道院への挨拶のとき集まりましょう」
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