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第3章
10 生徒会室(お茶会終了後)②
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「やっぱり、有耶無耶にされると駄目だわ。エマ、本当に言えない内容なら、言わなくても良いのだけど、何故そこまであの二人をそっとしておけだなんて言うのかしら。何も知らない此方としては、とても気になるわ。私は、従姉妹だけれど、家族同然に思っているのよ。
あの忌々しい事件、ああ……問題ね。あの問題自体が、未だに謎だらけなのよ。あれを片付けるまでは、他の事に疑問を残すことはいやなの。ましてや、それが大切な友人の事なら尚更ね。だからもし、話せる内容なら教えてほしいわ」
「ごめんなさい。確かに、あんな言い方をしたら気になるわよね。でも、大したことではないのよ」
「…………」
エマが話を逸らそうとするも、今度は中々引き下がらないエリザベス。
観念したのか、エマは戸惑いながらも話し始めた。
「……、分かったわ、話すわ。あれは……、私が9歳になる前のことね。その日は、ブラン子爵夫人とルーちゃんが、うちに遊びに来ていたの。母親達は、いつも通り二人でお茶会をして、エリーとルーちゃんは、子供部屋で遊んでいたわ。その日は、私も屋敷にいたから子供部屋に向かったの。部屋では二人がおままごとをしていたけど、私は興味がなかったから、離れたところからその様子をただ見ていたわ。
その時、『……侍女になるね』『……なるわ!』なんて薄っすらと会話が聞こえたから、『二人は侍女にはなれないわよ』て声を掛けたの。あの頃の私は、友達なんて興味もなかったけど、ちょっとだけ羨ましかったのかな……。大泣きされたから覚えてるのだけど、その時は余計なことを言うのではなかったと反省したわ。今回、二人が侍女科に移ったでしょう?あの時のやり取りは本気だったのかと思って、エリーに聞いてみたの……」
次に続く言葉を言おうか躊躇う様子のエマに、エリザベスが穏やかな声で話しかけた。
「大丈夫よ、ゆっくりで良いから。話してみて」
エマは、頷きながらも、どの様に伝えれば良いのか迷っている様子だ。
「エリーは、二人で一緒に侍女科へ移れたことは、喜んでいたのよ。でも、『ルイーズは、あの頃のことを覚えていない』て言うのよ。あの子はそれ以外の事を教えてくれないし、その時は、子供の頃の記憶なんて、曖昧なこともあるかと思ったけど……。後から考えると、違和感があるのよね。ルーちゃんは、特に、思い出とか約束とかを大切にしそうなのに、覚えていないなんてことあるのかしらって。小さな頃の事を覚えていなくても、仕様がない……、で片づけてはいけないような……。ごめんなさい。話している私が分からないのに、理解するのは難しいわよね」
「そうね。でも、エマが違和感を覚える気持ちは理解できたわ。そういう違和感を、甘く見てはいけないのよね」
それまで、聞き役に徹していたレアが、話を切り出した。
「ルーちゃんの家名はブランだったか……、ブラン子爵家。確か、先代当主は端麗で剣のお強い方だった、という話を父から聞いたことがある。先代は、今も健在なのだろうか」
ブラン子爵家の先代当主について聞かれたエマは、昔のことを思い出しながら、考えを巡らせているようだ。
「そういえば、当主を引退してからは、諸外国を巡っていると聞いたことがあるわ。ルーちゃんが幼少の頃は、よく一緒に連れて歩いていたそうよ。歳の離れた弟がいるのだけど、その子が生まれるまでは、ルーちゃんを後継者として、育てていたのではないかしら」
「ねえ、エリーは他に何か言っていなかった?」
「子供の頃は、ルーちゃんの目はとても綺麗だって言っていたわ。『森の中ってあんな感じなのかしら』て聞かれたことがあるの。私の想像する森は暗い印象だから、『森は暗くて怖いわよ』と答えたのだけど……」
目を閉じて思考するエマを、エリザベスとレアが静かに見守っていると、気になることがあったのか、エマが二人に問いかけた。
「二人は、小さい頃に絵本や写本を見たり読んだりしたことはある?」
「もちろんあるわ」
「ないな」
エマの疑問に答えるエリザベスとレア。
「そう。それならリザに聞くけど、写本や絵本の色合いってどんな感じなの?」
「そうね、写本は煌びやかで色鮮やかな印象かしら。絵本はそれを〈子供向け〉にしたものかしらね」
エリザベスの返答を聞いたエマは、何かが腑に落ちたようだ。
「捉えかたの違い……。気づかなかったわ。エリーにとっての森は、新緑や木漏れ日?かしら。そうね、それだったら納得できるわ」
「エマ、どういうことか教えてくれる?」
一人で納得するエマに、エリザベスがその先に続く言葉を求めた。
「私が思う森の印象は、実際に見たことのある夜の暗い木々なの。だけど、エリーにとっての森は、新緑や木漏れ日のような明るい印象なのよ。エリーは、よく絵本を読んでいたけれど、私は挿絵のある本をあまり好まなかったから、気づかなかったわ」
「森の話は分かったわ。それで、何に納得していたの?」
「ルーちゃんの目の色よ。エリーと私の森の印象が全く違うのよ。二人の主観に違いがあったから、話しが嚙み合わなかったんだわ。幼い頃のルーちゃんの目の色は……、青緑?というのかしら。透き通った色でとても綺麗だったわ。でも、今は青より緑が強いのよね……、エッどういうこと?」
「こちらが聞きたいわよ……。ルーちゃんは貴族令嬢よね。毎日、野山を駆け回っていた訳でもないわよね。もし環境によって変化したのではないなら……、ご家族はどうなのかしら。エマらしくないわね、おかしいと思わなかったの?」
「劇的な変化があった訳ではないから……、そこまで真剣に考えなかったわ」
「確かに、劇的な変化はないのだけど、何かが引っかかるわね」
「…………」
「…………」
エリザベスの発言を、肯定するかのように黙り込むエマとレア。
「少し調べてみましょう」
三人は視線を合わせて頷いた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
久しぶりの投稿となります。
またお読みいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。
あの忌々しい事件、ああ……問題ね。あの問題自体が、未だに謎だらけなのよ。あれを片付けるまでは、他の事に疑問を残すことはいやなの。ましてや、それが大切な友人の事なら尚更ね。だからもし、話せる内容なら教えてほしいわ」
「ごめんなさい。確かに、あんな言い方をしたら気になるわよね。でも、大したことではないのよ」
「…………」
エマが話を逸らそうとするも、今度は中々引き下がらないエリザベス。
観念したのか、エマは戸惑いながらも話し始めた。
「……、分かったわ、話すわ。あれは……、私が9歳になる前のことね。その日は、ブラン子爵夫人とルーちゃんが、うちに遊びに来ていたの。母親達は、いつも通り二人でお茶会をして、エリーとルーちゃんは、子供部屋で遊んでいたわ。その日は、私も屋敷にいたから子供部屋に向かったの。部屋では二人がおままごとをしていたけど、私は興味がなかったから、離れたところからその様子をただ見ていたわ。
その時、『……侍女になるね』『……なるわ!』なんて薄っすらと会話が聞こえたから、『二人は侍女にはなれないわよ』て声を掛けたの。あの頃の私は、友達なんて興味もなかったけど、ちょっとだけ羨ましかったのかな……。大泣きされたから覚えてるのだけど、その時は余計なことを言うのではなかったと反省したわ。今回、二人が侍女科に移ったでしょう?あの時のやり取りは本気だったのかと思って、エリーに聞いてみたの……」
次に続く言葉を言おうか躊躇う様子のエマに、エリザベスが穏やかな声で話しかけた。
「大丈夫よ、ゆっくりで良いから。話してみて」
エマは、頷きながらも、どの様に伝えれば良いのか迷っている様子だ。
「エリーは、二人で一緒に侍女科へ移れたことは、喜んでいたのよ。でも、『ルイーズは、あの頃のことを覚えていない』て言うのよ。あの子はそれ以外の事を教えてくれないし、その時は、子供の頃の記憶なんて、曖昧なこともあるかと思ったけど……。後から考えると、違和感があるのよね。ルーちゃんは、特に、思い出とか約束とかを大切にしそうなのに、覚えていないなんてことあるのかしらって。小さな頃の事を覚えていなくても、仕様がない……、で片づけてはいけないような……。ごめんなさい。話している私が分からないのに、理解するのは難しいわよね」
「そうね。でも、エマが違和感を覚える気持ちは理解できたわ。そういう違和感を、甘く見てはいけないのよね」
それまで、聞き役に徹していたレアが、話を切り出した。
「ルーちゃんの家名はブランだったか……、ブラン子爵家。確か、先代当主は端麗で剣のお強い方だった、という話を父から聞いたことがある。先代は、今も健在なのだろうか」
ブラン子爵家の先代当主について聞かれたエマは、昔のことを思い出しながら、考えを巡らせているようだ。
「そういえば、当主を引退してからは、諸外国を巡っていると聞いたことがあるわ。ルーちゃんが幼少の頃は、よく一緒に連れて歩いていたそうよ。歳の離れた弟がいるのだけど、その子が生まれるまでは、ルーちゃんを後継者として、育てていたのではないかしら」
「ねえ、エリーは他に何か言っていなかった?」
「子供の頃は、ルーちゃんの目はとても綺麗だって言っていたわ。『森の中ってあんな感じなのかしら』て聞かれたことがあるの。私の想像する森は暗い印象だから、『森は暗くて怖いわよ』と答えたのだけど……」
目を閉じて思考するエマを、エリザベスとレアが静かに見守っていると、気になることがあったのか、エマが二人に問いかけた。
「二人は、小さい頃に絵本や写本を見たり読んだりしたことはある?」
「もちろんあるわ」
「ないな」
エマの疑問に答えるエリザベスとレア。
「そう。それならリザに聞くけど、写本や絵本の色合いってどんな感じなの?」
「そうね、写本は煌びやかで色鮮やかな印象かしら。絵本はそれを〈子供向け〉にしたものかしらね」
エリザベスの返答を聞いたエマは、何かが腑に落ちたようだ。
「捉えかたの違い……。気づかなかったわ。エリーにとっての森は、新緑や木漏れ日?かしら。そうね、それだったら納得できるわ」
「エマ、どういうことか教えてくれる?」
一人で納得するエマに、エリザベスがその先に続く言葉を求めた。
「私が思う森の印象は、実際に見たことのある夜の暗い木々なの。だけど、エリーにとっての森は、新緑や木漏れ日のような明るい印象なのよ。エリーは、よく絵本を読んでいたけれど、私は挿絵のある本をあまり好まなかったから、気づかなかったわ」
「森の話は分かったわ。それで、何に納得していたの?」
「ルーちゃんの目の色よ。エリーと私の森の印象が全く違うのよ。二人の主観に違いがあったから、話しが嚙み合わなかったんだわ。幼い頃のルーちゃんの目の色は……、青緑?というのかしら。透き通った色でとても綺麗だったわ。でも、今は青より緑が強いのよね……、エッどういうこと?」
「こちらが聞きたいわよ……。ルーちゃんは貴族令嬢よね。毎日、野山を駆け回っていた訳でもないわよね。もし環境によって変化したのではないなら……、ご家族はどうなのかしら。エマらしくないわね、おかしいと思わなかったの?」
「劇的な変化があった訳ではないから……、そこまで真剣に考えなかったわ」
「確かに、劇的な変化はないのだけど、何かが引っかかるわね」
「…………」
「…………」
エリザベスの発言を、肯定するかのように黙り込むエマとレア。
「少し調べてみましょう」
三人は視線を合わせて頷いた。
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