上 下
15 / 43
第2章

6 始動

しおりを挟む
 
 両親に自身の決心を語った翌日には、父親から侍女科への転科を認める言葉を貰ったルイーズ。あの後、執務室で起こったであろうことを知らないルイーズは、少しばかり戸惑ったが、二人に感謝した。もちろん、トーマスにも御礼を伝えた。

 今日は普段より早い時間に学院へ到着したので、ルイーズは教室に向かい、授業の準備を整えてから事務室へ向かった。同じ階にあるため、始業時間までには戻ってこられるだろう。

 多くの日の光が差し込む教室と比べて、事務室へ続く廊下はガラスシェードの間接照明と、窓ガラスから差し込む控えめな光が、床のモザイク柄を照らしている。優し気なクリーム色の壁とダークブラウンの重厚なドアが相まって、凛とした空気を放っている。

 室内からは教員の声が聞こえてきた。

 ルイーズは昂ぶる気持ちを抑えつつ、ドアをノックした。

「お入りください」

 返事を聞き室内に入るルイーズ。

「失礼いたします」

「おはようございます。早い時間から申し訳ありません。本日は事務手続きに関する書類を頂きたく参りました」

 丁度よく、淑女科の教員がいたようだ。

「何の書類かしら」

「淑女科から侍女科に転科するための書類です」

 教員は、戸惑いながらルイーズに尋ねた。

「ブランさん、あなた確か婚約者がいたわよね」

「はい。まだ手続きの最中ですが、婚約は白紙になります」

「そうだったの……。それは残念だったわね。」

「先生、お気遣いありがとうございます。でも、私は大丈夫です。
……もしかして成績の関係で転科出来ないということもありますか」

「断定はできないけど、成績は大丈夫だと思うわ。後は面接ね。それから……このことを御両親はご存じなのかしら」

「はい、知っています。転科することにも、許可をもらえました」

「そう。それなら、面接だけど……侍女科の先生の予定を確認してからになるわね」

 そんなやり取りを、離れた場所から見ていた人物がいた。

「ソフィア先生、少しよろしいかしら」

「院長先生、どうされましたか」

「その面接、今から三人で行いましょう」

「よろしいのですか?他の先生方は……」

「大丈夫よ。成績はクリアしているのよね? それにしばらくの間、他の先生たちの予定が空かないと思うわ。」

「……。そうですね、分かりました。……それから、ブランさんの成績については大丈夫です」

 三人は部屋の隅にある対面のソファーに腰かけ、話し始めた。

 ルイーズは質問に対し、答えられることに関しては全てに答え、婚約が白紙になってから今日までのことを正直に打ち明けた。

 全て聞き終えた院長はルイーズに伝えた。

「そう、決意は固そうね。
それなら、私からは一つだけ……中々難しいことだけど、今の気持ちを持ち続けて。その気持ちを忘れなければ大丈夫よ」

「……はい」

 院長の温かな人柄に包まれ、安堵したルイーズ。

「それでは、侍女科への転科をお認めになるということでよろしいですね、院長先生」

「はい、許可します」

 ルイーズに伝え、ソフィア先生に頷く院長。

「かしこまりました。それではブランさん、そろそろ時間ですから、教室に戻るように」
「はい、ありがとうございました」

 二人にお辞儀をして、事務室を出るルイーズ。

 今日、ここで許可してもらえると思っていなかったルイーズは、胸の高鳴りを抑えられずにいた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

かわいそうな旦那様‥

みるみる
恋愛
侯爵令嬢リリアのもとに、公爵家の長男テオから婚約の申し込みがありました。ですが、テオはある未亡人に惚れ込んでいて、まだ若くて性的魅力のかけらもないリリアには、本当は全く異性として興味を持っていなかったのです。 そんなテオに、リリアはある提案をしました。 「‥白い結婚のまま、三年後に私と離縁して下さい。」 テオはその提案を承諾しました。 そんな二人の結婚生活は‥‥。 ※題名の「かわいそうな旦那様」については、客観的に見ていると、この旦那のどこが?となると思いますが、主人公の旦那に対する皮肉的な意味も込めて、あえてこの題名にしました。 ※小説家になろうにも投稿中 ※本編完結しましたが、補足したい話がある為番外編を少しだけ投稿しますm(_ _)m

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

約束しよう、今度は絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
白いドレスを身に纏った大切な友人は今日、結婚する。 友人の隣には永年愛した人がいて、その人物は友人を愛おしそうな眼差しを向けている。 私の横では泣いているような笑っているような表情で彼らを見ている人物がいて、その人物が何度目か分からぬ失恋をしたのだとすぐに分かった。 そしてそれは同時に私も何度目か分からぬ失恋をしたことを意味したのだった。 あれから14年の月日が経ち、私は変わらぬ日々を迎える筈だった、あの人物が現れるまでは。

【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る

恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。 父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。 5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。 基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。

捨てたのは、そちら

夏笆(なつは)
恋愛
 トルッツィ伯爵家の跡取り娘であるアダルジーザには、前世、前々世の記憶がある。  そして、その二回とも婚約者であったイラーリオ・サリーニ伯爵令息に、婚約を解消されていた。   理由は、イラーリオが、トルッツィ家よりも格上の家に婿入りを望まれたから。 「だったら、今回は最初から婚約しなければいいのよ!」  そう思い、イラーリオとの顔合わせに臨んだアダルジーザは、先手を取られ叫ばれる。 「トルッツィ伯爵令嬢。どうせ最後に捨てるのなら、最初から婚約などしないでいただきたい!」 「は?何を言っているの?サリーニ伯爵令息。捨てるのは、貴方の方じゃない!」  さて、この顔合わせ、どうなる?

【完結】今夜さよならをします

たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。 あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。 だったら婚約解消いたしましょう。 シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。 よくある婚約解消の話です。 そして新しい恋を見つける話。 なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!! ★すみません。 長編へと変更させていただきます。 書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。 いつも読んでいただきありがとうございます!

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...