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第1章
8 姉のような存在
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夕食の後、料理長のところへ向かうルイーズ。エリーからもらったフレッシュハーブを明日の食事の際に出してもらうためだ。
「料理長、今いいかしら」
「ルイーズお嬢様、いかがなさいましたか」
「今日友人からフレッシュハーブをもらったの。明日、食事の時に出してもらえたらと思って持ってきたの」
ルイーズは料理長に見てもらうために紙袋を差し出した。紙袋を受け取り、袋の中を覗く料理長。
「良い葉ですね。このミントとレモングラスは朝食の際にハーブウォーターとしてお出ししましょう」
「ありがとう。楽しみだわ」
♦
部屋に戻り学院の宿題をしていたルイーズ。その時、ノックをして入ってきた人物がいた。
「お嬢様、失礼いたします。
今日はお出迎えできずに申し訳ございませんでした」
ルイーズのお世話をしている侍女のローラだ。母親の専属侍女で侍女長でもあるマーサの娘で、幼少の頃から姉妹のように過ごしてきた。マーサは元々ルイーズの乳母であったため、ローラはルイーズの侍女となる前から、毎日一緒にいるのが当たり前の存在なのだ。今日は前々から休暇を取っており、同じ職場仲間であり見習い料理人のジョージとお出かけに行っていたはずだ。
「ローラ、大丈夫よ。それに今日は仕事もお休みのはずでしょ。ミシェルのお世話もしてくれているのだから、お休みの日ぐらいゆっくりしてほしいわ」
「それでも、私はお嬢様の《専属侍女》を自称しているのですから。侍女長はまだ認めてはくれませんが……」
「マーサも侍女としてのローラを認めてくれていると思うわ。でも、ミシェルの侍女が決まらないことにはね。それに、ミシェルのお世話を任せられるのはローラしかいないのよ」
「はい……。奥様と侍女長も、侍女の人数を増やすことや、ミシェルお嬢様の侍女に関してのお話し合いをなされていました」
「そう……そうよね」
「侍女としては、奥様と侍女長のご意向に従います。ですが、私個人としては、しばらくの間はこのままで様子を見ても良いのではないかと思っています。最近では、ミシェル様もご自身の思いを伝えることがお上手になってきましたしね」
「そうなのよね。今日も部屋に行けなかった私に『おへやでまってた』て言ってきたのよ。前はぐずるような仕草をしていたのに」
「えぇえぇ、分かります。その仕草もかわいすぎて、なんでもお願いを聞いて差し上げたくなってしまうのです。危険です、気を付けないとミシェルお嬢様の教育によろしくありません」
「フフッ……そうね。うん、気をつけないとね」
「さあ、お嬢様。明日はせっかく学院もお休みなのです。明日のお休みを楽しむためにも、宿題がお済みになったら、就寝の準備をなさいましょう。ところで、明日は何かご予定がございますか」
「何もないわ。一日家で過ごそうと思うの」
「かしこまりました。明日もお庭に出るようでしたら、朝早いお時間にお声をかけさせていただきますね」
「うん、そうしてもらえると助かるわ」
「かしこまりました。それではお嬢様、夜更かしなどせずに、早くお休みになられてくださいね」
「わかったわ。おやすみなさい」
「おやすみなさいませ、お嬢様」
ローラにミシェルのお世話も兼任してもらうようになってから、今までローラにしてもらっていた、お風呂から就寝前のやるべきことは自分ですることにした。
ローラの負担があまりにも大きいからだ。
(お母様もローラも、婚約が白紙になることをトーマスから聞いているはずなのに、話題に出さないでいてくれたわね。もし聞かれても、内容によっては返答に困るから、何も聞かずにいてくれてよかったわ)
♦
翌朝、早起きをしたルイーズは屋敷の庭園を見て回っていた。
季節は夏ということもあり、辺り一面には寒色系の花たちが咲き揃っている。庭師トムの力作である。
夏に合わせて植えられた東屋前のエリアでは、楚々たる風情の花たちが、清々しい朝の光に照らされている。
夏場は水やりの時間が早いため、朝早くからトムも作業をしていたようだ。トムのそばに行き、話かけるルイーズ。
「おはよう、トムさん」
「おはようございます、ルイーズお嬢様。何かご入用ですか」
「トムさん、この薄紫のカンパニュラをお母様の部屋に飾りたいの」
「わかりました。用意してマーサさんに渡しておきます」
「ありがとう。よろしくね。」
朝食の時間が近づいてきたため、ルイーズは食堂に向かう。食堂に入ると、母親が席に着いていた。顔色も良いため、ルイーズは安心したようだ。父親は仕事で、リアムとミシェルはまだ眠っているのだろう。
「お母様、おはようございます」
「おはよう、ルイーズ。今朝はきれいなカンパニュラをありがとう。部屋が明るくなったわ」
「それは良かったです」
「それから、このハーブウォーターも美味しいわね」
「昨日エリーから、フレッシュハーブを貰ったんです」
「そうなの。エリーちゃんにお礼を伝えてね」
「はい」
ハーブウォーターを飲みながら、昨日のことが嘘のように穏やかな朝だな、と平和な一日の始まりに感謝するルイーズだった。
「料理長、今いいかしら」
「ルイーズお嬢様、いかがなさいましたか」
「今日友人からフレッシュハーブをもらったの。明日、食事の時に出してもらえたらと思って持ってきたの」
ルイーズは料理長に見てもらうために紙袋を差し出した。紙袋を受け取り、袋の中を覗く料理長。
「良い葉ですね。このミントとレモングラスは朝食の際にハーブウォーターとしてお出ししましょう」
「ありがとう。楽しみだわ」
♦
部屋に戻り学院の宿題をしていたルイーズ。その時、ノックをして入ってきた人物がいた。
「お嬢様、失礼いたします。
今日はお出迎えできずに申し訳ございませんでした」
ルイーズのお世話をしている侍女のローラだ。母親の専属侍女で侍女長でもあるマーサの娘で、幼少の頃から姉妹のように過ごしてきた。マーサは元々ルイーズの乳母であったため、ローラはルイーズの侍女となる前から、毎日一緒にいるのが当たり前の存在なのだ。今日は前々から休暇を取っており、同じ職場仲間であり見習い料理人のジョージとお出かけに行っていたはずだ。
「ローラ、大丈夫よ。それに今日は仕事もお休みのはずでしょ。ミシェルのお世話もしてくれているのだから、お休みの日ぐらいゆっくりしてほしいわ」
「それでも、私はお嬢様の《専属侍女》を自称しているのですから。侍女長はまだ認めてはくれませんが……」
「マーサも侍女としてのローラを認めてくれていると思うわ。でも、ミシェルの侍女が決まらないことにはね。それに、ミシェルのお世話を任せられるのはローラしかいないのよ」
「はい……。奥様と侍女長も、侍女の人数を増やすことや、ミシェルお嬢様の侍女に関してのお話し合いをなされていました」
「そう……そうよね」
「侍女としては、奥様と侍女長のご意向に従います。ですが、私個人としては、しばらくの間はこのままで様子を見ても良いのではないかと思っています。最近では、ミシェル様もご自身の思いを伝えることがお上手になってきましたしね」
「そうなのよね。今日も部屋に行けなかった私に『おへやでまってた』て言ってきたのよ。前はぐずるような仕草をしていたのに」
「えぇえぇ、分かります。その仕草もかわいすぎて、なんでもお願いを聞いて差し上げたくなってしまうのです。危険です、気を付けないとミシェルお嬢様の教育によろしくありません」
「フフッ……そうね。うん、気をつけないとね」
「さあ、お嬢様。明日はせっかく学院もお休みなのです。明日のお休みを楽しむためにも、宿題がお済みになったら、就寝の準備をなさいましょう。ところで、明日は何かご予定がございますか」
「何もないわ。一日家で過ごそうと思うの」
「かしこまりました。明日もお庭に出るようでしたら、朝早いお時間にお声をかけさせていただきますね」
「うん、そうしてもらえると助かるわ」
「かしこまりました。それではお嬢様、夜更かしなどせずに、早くお休みになられてくださいね」
「わかったわ。おやすみなさい」
「おやすみなさいませ、お嬢様」
ローラにミシェルのお世話も兼任してもらうようになってから、今までローラにしてもらっていた、お風呂から就寝前のやるべきことは自分ですることにした。
ローラの負担があまりにも大きいからだ。
(お母様もローラも、婚約が白紙になることをトーマスから聞いているはずなのに、話題に出さないでいてくれたわね。もし聞かれても、内容によっては返答に困るから、何も聞かずにいてくれてよかったわ)
♦
翌朝、早起きをしたルイーズは屋敷の庭園を見て回っていた。
季節は夏ということもあり、辺り一面には寒色系の花たちが咲き揃っている。庭師トムの力作である。
夏に合わせて植えられた東屋前のエリアでは、楚々たる風情の花たちが、清々しい朝の光に照らされている。
夏場は水やりの時間が早いため、朝早くからトムも作業をしていたようだ。トムのそばに行き、話かけるルイーズ。
「おはよう、トムさん」
「おはようございます、ルイーズお嬢様。何かご入用ですか」
「トムさん、この薄紫のカンパニュラをお母様の部屋に飾りたいの」
「わかりました。用意してマーサさんに渡しておきます」
「ありがとう。よろしくね。」
朝食の時間が近づいてきたため、ルイーズは食堂に向かう。食堂に入ると、母親が席に着いていた。顔色も良いため、ルイーズは安心したようだ。父親は仕事で、リアムとミシェルはまだ眠っているのだろう。
「お母様、おはようございます」
「おはよう、ルイーズ。今朝はきれいなカンパニュラをありがとう。部屋が明るくなったわ」
「それは良かったです」
「それから、このハーブウォーターも美味しいわね」
「昨日エリーから、フレッシュハーブを貰ったんです」
「そうなの。エリーちゃんにお礼を伝えてね」
「はい」
ハーブウォーターを飲みながら、昨日のことが嘘のように穏やかな朝だな、と平和な一日の始まりに感謝するルイーズだった。
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