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花の屍 七

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 からかうように早田は、白珠のような臀部の中央を割る下帯の紐を引いて、弾く。
「んっ……」
「くくくくく。演芸、興行には金がかかるんだよ。伝統や格式を重んじる分野では特にね。だが、時代変わって、最近は伝統芸能の興行は苦しい。まぁ、近江さんが映画役者もこなすようになったのは、先見の明があったといえるね。それでも、一生役者として生きていくからには、裏の仕事をまったくしないというわけにもいかないものだ。さらに近江家は代々の後援者というのを持たない新興一家だ。そうそう、なりふりかまっていられないのだよ。まぁ、それで後援者と強いつながりができて資金もあつまるのだから、正清にだって悪い話ではない」
 竹弥は叫んでいたか、泣いていたか。
「安心するがいい。正清が男に身を売ったのは十六のときのそのとき一度ぐらいだろう。彼は、もっぱら女の方が専門だよ。ここ数年は、国会議員の奥様とよろしくやっていてね。父親が大物政治家で、彼女自身も政・財界に顔が効く。彼女がついているかぎり、意に染まない相手とおつきあいすることもないだろう。もっとも、おかげで、私はとうとう彼を抱けずじまいだったが」
 最後の一言は、本当に残念そうだ。
 竹弥は混乱してうまく思考が働かない。
 兄正清は竹弥とはまたちがったおもむきをもつ美青年だ。役者としてもすでに名が売れている。けっして自分の容姿だけをたのみにしているわけではなく、素質も演技力も充分あるし、努力を惜しまない。実家にいたころは、父の指導のもと、冬でも汗みずくになるほど兄が舞台稽古に精を出している姿をよく見た。
 実をいうと竹弥が役者になりたいとさほど思わなくなったのは、そんな兄や父の過激なまでの稽古風景を見てきたからで、父や兄ほどに芝居への情熱が自分にはないことを早くに悟ったからだ。
 気性も兄は竹弥以上に潔癖で、一途だ。以前、「正清さんなら役なんて選び放題でしょう」とふざけ半分に記者から言われたときは、怒鳴りこそはしないものの、瞳に激しい怒りをみなぎらせて記者を睨みつけていた。
 どんな役を演じるときも、その役を得るために死ぬ気で頑張ってきたつもりです―ー。押し殺したような声でそう告げたときの兄の横顔は、竹弥が見たこともないほど苛烈なものを秘めて、青い炎につつまれているようだった。
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