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狂い咲き 十一

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「さあな。幽霊と入れ替わって、屋敷のなかをさまよっているのかもな」
「ははははは。ああ、でも本当に綺麗な肌だなぁ……」
 太い指で、桜の花びらが溶けこんだような竹弥の頬をつついた。
「うう……ん」
 かすかに竹弥が身じろぎすると同時に、枝から吊るされた紐縄が揺れ、また花びらが散る。どこか現実ばなれした光景だった。あまりにも幻想的で、美しく、艶冶えんやである。
(本当に桜の精か、幽霊のようだ……。もしかしたら、俺は本当に、それこそ泉鏡花の小説にでも出てくるような、人の形をした美しい化け物に魅入られてしまったのかもしれない。まぁ……それでもいいか。もうこのさき一生、こんなすごい相手とめぐり会えることもないだろうしな)
 仮に出会えたとしても、性の相手をしてくれるわけもない。これほど美しい男女は、浦部のことなど一顧だにしないだろう。
 内心で浦部は苦笑いした。
(金もあるわけでもないし、外見もぱっとしない俺だしな。おまけに変態趣味)
 浦部は自分を知っていた。
 浦部は三歳のときに工事現場の事故で工夫だった父を失った。幼い彼をつれて母は四十過ぎの公務員の男と再婚したが、あらたな父親には異常な趣味があった。
 おもてむきは連れ子を可愛がる慈父の顔をして、裏では母の目を盗んでは、いたいけな浦部に性的な悪戯をほどこしたのだ。いや、悪戯などではなく、それは――この当時はほとんど認識されていなかったが――虐待だった。  
 義父が母と再婚したのは、もしかしたら己の欲望のはけ口にできる幼児を手にいれたかったからかもしれない。
(もうちょっと可愛い顔だったらなぁ。まぁ、いい。ほら、咥えろ)
 今でも耳にその声がこびりついている。
 自分のされたことが異常なことだと理解することもできない頃から弄ばれつづけ、歳月を重ねながらも、養ってもらう代わりに自分の肉体を義父に差し出すしかなかった。そんな生活は浦部が中学に入るころまで続いた。重度の幼児愛好趣味だった義父は、中学生になって身体も成長してきた浦部には興味がなくなったのだろう。
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