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夜の稽古 五
しおりを挟む「竜樹、そんなに急ぐなよ」
言われても竜樹は止まることなく夜の庭を急ぐ。胸が熱く、頬が火照り、下肢が疼いてしかたないのだ。はやく部屋にもどりたい。
焦っていたので、背後からついてくる憎らしい男がなにか言いかけたとき、石灯篭の影にいたその人物とぶつかりそうになった。
「あっ、と……!」
「おい、あれ、ゆかり……さん?」
後ろで須藤が言うと、相手は恥じ入るようにお高祖頭巾につつまれた顔を伏せる。
「すいません、夜の庭があんまり綺麗なので散歩していたんです。ほら、竜樹、行くぞ」
如才なく言葉をつらねて須藤は竜樹の腕をひっぱった。
「あ、はい。失礼します」
竜樹は軽く頭を下げたものの、内心、奇妙なものを感じてしかたない。それは側の須藤も同様らしい。
しばらく歩いてから、ふと須藤は振り返った。松の木の近くにまだ見える。離れへ向かうその背中を遠目に見つめながら沈黙している須藤に竜樹は思わず思ったことを口にしていた。
「あの人は……、どれだけ屋敷の事情にくわしいんだろうね」
屋敷の事情というよりも、鈴希と小島の関係についてだろう。
「多分、口が聞けないから平然とあの人のまえで内密の話をしているんだろうな。瀧壺の所でのように」
「ちょっと、ゆかりさんに対して失礼だよね……でも、本当に小島さんは鈴希さんをあの人達に売りわたすつもりなのかな?」
楕円の月が鈍色の光を落としてくるなか、竜樹は眉を寄せてつぶやく。
「なにも小島さんが売るわけじゃない。この話には口出しするなよ」
「うん……」
とは言いつつも、あの堕ちた天女のような鈴希のあやしくも淫らに美しい姿を思いうかべると、あれほどの麗質をもった人が、先日見た貪欲そうな男たちの餌食にされるのが、竜樹にはいたたまれないのだ。
つい先ほど見た場面には、それでも――鈴希は絶対みとめないだろうが――奇妙な甘さがただよっていたことに竜樹は気づいている。それは竜樹自身も覚えのある、苦しさの底にある奇妙な甘さであり、そうそうたやすく得られるものではなく、それだけにいったんその禁断の蜜をあじわってしまった者はその楽しみを手放せなくなってしまう類のものだ。竜樹自身がそうだった。
(でも、それは相手が正二だからだ。……鈴希さんだって、嫌がりながらも相手が小島さんだからこそ耐えられるんだ……)
宴の夜、小島以外の男の手によって辱しめられれば、鈴希はどうなるのか。竜樹は他人ごとながら心配になってくる。
「ほら、行くぞ」
黙りこんでしまった竜樹になにを思うのか、須藤がその細い手をにぎった。にぎられた箇所がひどく熱い。
「うん……」
竜樹はそのまま屋敷内のかれらの室へと連れていかれた。
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