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新たなる朝 八
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忠臣たち――特にラオシンに同情する臣下たちが、こともあろうに血のつながった従兄となる王子を愛人にするとは、と激しく意見したところでアイジャルは聞く耳をもたず、それどころか、逆らう臣下を遠方へ左遷してしまい、卿相雲客をまえに断言した。
「余は聖君になるつもりはない。余のすることに逆らう者は今すぐ国を出ろ」
そう言いきったアイジャルにもはや誰も進言できなかった。だが、つづけてアイジャルは言い放った。暴君になるつもりもない、と。
実際、ラオシンのことにかんしては道理を曲げたアイジャルも、国政や政務にかんしては年長の大臣たちの言い分にも耳を貸し、善政を敷くにつとめた。左遷した臣下たちも、来年には呼びもどし、さらなる地位をあたえることを明言している。
ラオシンのためには局の室礼や贈り物に金をかけたが、それ以外のことでは常識的で、歴代の王にくらべれば質素とさえいえる。
ラオシンのことさえ認めるなら、余は王としての務めを果たす、という姿勢に、いつしか延臣たちもこの問題に目をつぶるしかなくなっていった。
彼らがこの問題を認めるか、もしくは無視するようになったのは、過去にもサファヴィアの王には男妾を寵愛したものがおおく、それがさほど忌まれないのは、古代の神話に出てくる女神バリアスの双子の妹バリアは、実は男だったとか、半陰陽だったのでは、という伝説のせいだ。
国を統べる王者が男女ともに寵愛することについて、また女性性を持った美しい男性の存在にサファヴィアはおおらかな国だったのだ。むしろ、男女両方とまじわることによって、王者は精気を強くするという迷信が根強くあったせいだろう。
さらに以前アイジャルがたわむれに手を付けた侍女が懐妊したことで、アイジャルがラオシン以外には妻妾をおかないことに世継ぎを心配していた根強い反対派も静かになっていった。その侍女は、没落貴族の娘で家柄もそう悪くないので、側室として離宮においているが、アイジャルは彼女には今後会う気はないという。
「それで、よいのか?」
侍女の立場にすれば辛いだろう。ラオシンは連日の荒淫が嘘のような清らかな黒い瞳で見知らぬ侍女に同情をこめて問う。
そんなラオシンの汚れても汚れることのない瞳を愛おし気に見つめながら、アイジャルはあえてぶっきらぼうに言いはなった。
「没落した実家は援助してやるし、生まれた子が男なら王になるのじゃ。王女ならば王族の誰かから婿をとって女王になれるのじゃから、文句はあるまい。そんなことより、ラオ、ラオにはするべきことがあるじゃろう?」
「あっ……」
腕を引いて膝のうえにラオシンを抱きかかえると、アイジャルは相手の尻を軽くたたいた。
「ほれ、ラオの勤めは余を喜ばすことだけじゃ」
「あ、ああ……、よせ」
「どうじゃ? 踊りの稽古はすすんでおるのか? 今度、美しい東方の絹で衣装を作ってやろうに。それをまとって余を楽しませい」
「うう……」
ラオシンの誇りたかい心は、幾度打ち砕かれても砕けきることはなく、あらたな辱しめへの怒りと反抗に猛る。
「いろいろ面白い道具も用意してあるぞ。いずれも名工に作らせたものじゃ。あとで、いっしょに見ようぞ」
どんな道具か想像するだけでラオシンの頬は熱をもつ。悔しがって逃れようとするラオシンの腕をにぎり、さらにアイジャルはラオシンの怒りの火に油をそそぐような言葉を足した。
「踊りの宴には、サルドバのほかにも客を呼ぶか? ラオの得意な弓で、以前御前試合でラオと首位を競った相手などどうじゃ? ほかにも学者の**なぞどうじゃ?」
いずれもラオシンがいくばくか意識した相手である。武術や知性で競りあった相手に、あの屈辱きわまりない姿を見られる――?
想像しただけでラオシンは悔しさに血が熱くなる。だが、その熱の底には、どこか甘やかな、ラオシンを悩ませる例のもどかしい疼きがある。
「ああ……」
恥ずかしい姿を見られる恐怖に今から青ざめてしまっているラオシンを抱きしめ、アイジャルは彼の唇や頬、胸もとに雨あられと接吻を降らした。
(ラオ、余の愛しいラオ……。今はまだ無理かもしれぬ。だが、いつか必ずおまえに教え込んでやろう。余がどれほどおまえを愛しく思っているか)
ラオシンが、まだ自分を愛していないことはアイジャルも自覚している。この状況では無理もないことだろう。ときおり見せる諦めたがゆえの従順さや柔らかな態度も、まだ目覚めてきた被虐の悦びに引きずられる身体に合わせて多少、心が軟化した程度のものだ。
(まだまだ、これからじゃ)
アイジャルの胸に闘志のようなものがわく。
(これから、もっと、もっと性奴隷としての悦びを与えてやる。決して余から離れられぬ身体と心につくり変えて、心から余に従い、余を慕うように作り変えてやるのじゃ)
残酷だと人は言うだろう。たしかにそうだ。
(じゃが、……余は、ラオ、そなたのために、努力すれば得られたかもしれぬ賢王や聖王の称号も、妻と子にかこまれた健やかな家庭も、すべて諦めたのじゃぞ)
自分が勝手にしたことだろう、と言われるかもしれない。それも確かにそうだ。
(そうじゃ。余が勝手にしたことじゃ。ラオ、ラオという美しい妖花を咲かすためには、娼館の連中もジャハンも、ジャハギルやアラム、サルドバや母上でさえ、皆おまえのための肥料としてしまってもかまわぬ)
狂おしい想いに憑かれたアイジャルは恐ろしい言葉をささやいた。
「ラオ、いつか宮殿の大広間で、全臣下たちのまえで、ラオに踊らせてやりたい」
腕のなかで、気力をなくしたように愛撫に流されていたラオシンの身体が硬直した。
「……や、やめてくれ、それだけは許して」
「嘘じゃ、嘘。くっ、くっ、くっ!」
冗談のように思わせながらも、アイジャルは決めていた。
いつか、壮絶な羞恥と屈辱をあたえて、いっそうラオシンの美を高めてやりたい。そうすることによってラオシンの美は開花していくのだ。
それはアイジャルの思い込みではなかった。加虐を糧にして、まちがいなくラオシンは日に日に美しくなっていっている。肌はぬめるように輝き、身体つきはちょっとした仕草にも色香があふれ、物腰全体からなんとも言えぬ妖美感がただよってきている。
(いつしか、広間で衆人環視のなかで慰み者にしてやりたい。だが、どれほど貶められても、笑われても、一番美しく、一番強いのはラオ、つねにおまえなのじゃ)
思うこととは逆の言葉をアイジャルは愛しい相手に紡ぐ。
「ラオ、ラオは永遠に余の奴隷じゃ」
そして心のうちで宣言する。
(ラオ、余は、未来永劫ラオの僕じゃ)
半陰陽の神が天にその栄光をしらしめす世界で、王と奴隷は背徳のときを貪りあった。
終わり
「余は聖君になるつもりはない。余のすることに逆らう者は今すぐ国を出ろ」
そう言いきったアイジャルにもはや誰も進言できなかった。だが、つづけてアイジャルは言い放った。暴君になるつもりもない、と。
実際、ラオシンのことにかんしては道理を曲げたアイジャルも、国政や政務にかんしては年長の大臣たちの言い分にも耳を貸し、善政を敷くにつとめた。左遷した臣下たちも、来年には呼びもどし、さらなる地位をあたえることを明言している。
ラオシンのためには局の室礼や贈り物に金をかけたが、それ以外のことでは常識的で、歴代の王にくらべれば質素とさえいえる。
ラオシンのことさえ認めるなら、余は王としての務めを果たす、という姿勢に、いつしか延臣たちもこの問題に目をつぶるしかなくなっていった。
彼らがこの問題を認めるか、もしくは無視するようになったのは、過去にもサファヴィアの王には男妾を寵愛したものがおおく、それがさほど忌まれないのは、古代の神話に出てくる女神バリアスの双子の妹バリアは、実は男だったとか、半陰陽だったのでは、という伝説のせいだ。
国を統べる王者が男女ともに寵愛することについて、また女性性を持った美しい男性の存在にサファヴィアはおおらかな国だったのだ。むしろ、男女両方とまじわることによって、王者は精気を強くするという迷信が根強くあったせいだろう。
さらに以前アイジャルがたわむれに手を付けた侍女が懐妊したことで、アイジャルがラオシン以外には妻妾をおかないことに世継ぎを心配していた根強い反対派も静かになっていった。その侍女は、没落貴族の娘で家柄もそう悪くないので、側室として離宮においているが、アイジャルは彼女には今後会う気はないという。
「それで、よいのか?」
侍女の立場にすれば辛いだろう。ラオシンは連日の荒淫が嘘のような清らかな黒い瞳で見知らぬ侍女に同情をこめて問う。
そんなラオシンの汚れても汚れることのない瞳を愛おし気に見つめながら、アイジャルはあえてぶっきらぼうに言いはなった。
「没落した実家は援助してやるし、生まれた子が男なら王になるのじゃ。王女ならば王族の誰かから婿をとって女王になれるのじゃから、文句はあるまい。そんなことより、ラオ、ラオにはするべきことがあるじゃろう?」
「あっ……」
腕を引いて膝のうえにラオシンを抱きかかえると、アイジャルは相手の尻を軽くたたいた。
「ほれ、ラオの勤めは余を喜ばすことだけじゃ」
「あ、ああ……、よせ」
「どうじゃ? 踊りの稽古はすすんでおるのか? 今度、美しい東方の絹で衣装を作ってやろうに。それをまとって余を楽しませい」
「うう……」
ラオシンの誇りたかい心は、幾度打ち砕かれても砕けきることはなく、あらたな辱しめへの怒りと反抗に猛る。
「いろいろ面白い道具も用意してあるぞ。いずれも名工に作らせたものじゃ。あとで、いっしょに見ようぞ」
どんな道具か想像するだけでラオシンの頬は熱をもつ。悔しがって逃れようとするラオシンの腕をにぎり、さらにアイジャルはラオシンの怒りの火に油をそそぐような言葉を足した。
「踊りの宴には、サルドバのほかにも客を呼ぶか? ラオの得意な弓で、以前御前試合でラオと首位を競った相手などどうじゃ? ほかにも学者の**なぞどうじゃ?」
いずれもラオシンがいくばくか意識した相手である。武術や知性で競りあった相手に、あの屈辱きわまりない姿を見られる――?
想像しただけでラオシンは悔しさに血が熱くなる。だが、その熱の底には、どこか甘やかな、ラオシンを悩ませる例のもどかしい疼きがある。
「ああ……」
恥ずかしい姿を見られる恐怖に今から青ざめてしまっているラオシンを抱きしめ、アイジャルは彼の唇や頬、胸もとに雨あられと接吻を降らした。
(ラオ、余の愛しいラオ……。今はまだ無理かもしれぬ。だが、いつか必ずおまえに教え込んでやろう。余がどれほどおまえを愛しく思っているか)
ラオシンが、まだ自分を愛していないことはアイジャルも自覚している。この状況では無理もないことだろう。ときおり見せる諦めたがゆえの従順さや柔らかな態度も、まだ目覚めてきた被虐の悦びに引きずられる身体に合わせて多少、心が軟化した程度のものだ。
(まだまだ、これからじゃ)
アイジャルの胸に闘志のようなものがわく。
(これから、もっと、もっと性奴隷としての悦びを与えてやる。決して余から離れられぬ身体と心につくり変えて、心から余に従い、余を慕うように作り変えてやるのじゃ)
残酷だと人は言うだろう。たしかにそうだ。
(じゃが、……余は、ラオ、そなたのために、努力すれば得られたかもしれぬ賢王や聖王の称号も、妻と子にかこまれた健やかな家庭も、すべて諦めたのじゃぞ)
自分が勝手にしたことだろう、と言われるかもしれない。それも確かにそうだ。
(そうじゃ。余が勝手にしたことじゃ。ラオ、ラオという美しい妖花を咲かすためには、娼館の連中もジャハンも、ジャハギルやアラム、サルドバや母上でさえ、皆おまえのための肥料としてしまってもかまわぬ)
狂おしい想いに憑かれたアイジャルは恐ろしい言葉をささやいた。
「ラオ、いつか宮殿の大広間で、全臣下たちのまえで、ラオに踊らせてやりたい」
腕のなかで、気力をなくしたように愛撫に流されていたラオシンの身体が硬直した。
「……や、やめてくれ、それだけは許して」
「嘘じゃ、嘘。くっ、くっ、くっ!」
冗談のように思わせながらも、アイジャルは決めていた。
いつか、壮絶な羞恥と屈辱をあたえて、いっそうラオシンの美を高めてやりたい。そうすることによってラオシンの美は開花していくのだ。
それはアイジャルの思い込みではなかった。加虐を糧にして、まちがいなくラオシンは日に日に美しくなっていっている。肌はぬめるように輝き、身体つきはちょっとした仕草にも色香があふれ、物腰全体からなんとも言えぬ妖美感がただよってきている。
(いつしか、広間で衆人環視のなかで慰み者にしてやりたい。だが、どれほど貶められても、笑われても、一番美しく、一番強いのはラオ、つねにおまえなのじゃ)
思うこととは逆の言葉をアイジャルは愛しい相手に紡ぐ。
「ラオ、ラオは永遠に余の奴隷じゃ」
そして心のうちで宣言する。
(ラオ、余は、未来永劫ラオの僕じゃ)
半陰陽の神が天にその栄光をしらしめす世界で、王と奴隷は背徳のときを貪りあった。
終わり
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