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儀式 五

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 一瞬、室に不気味な沈黙が満ちた。
「な、なんだと貴様、王族である私に向かってなんという口のききかたを……」
 怒りよりも呆気にとられて、ラオシンは口をぱくぱくさせながら、どうにか言葉を放とうとするが、つづかない。
「王族であろうが、誰であろうが、このわたくしの『悦楽の園』に来たものはわたくしの命令に従ってもらいます」
「え、悦楽の園?」
 ラオシンは戒められた屈辱も忘れて、一瞬ぽかんとした顔になっていた。
「そうでございます。ここは、このマーメイの支配する『悦楽の園』。ここではわたくしが絶対君主、女王なのです」
「そ、そんな、ここは西の離宮ではなかったのか?」
 呆然として訊くラオシンに、マーメイはぞっとするような笑みを向けた。
「殿下にご説明しておきましょう。殿下、ここで殿下はわたくしどもの調教を受けていただくことになっているのです」
「な、なにを馬鹿な!」
 驚愕と怒りにラオシンは叫んでいた。調教とは、奴隷か獣につかう言葉ではないか。
「き、貴様、頭がおかしいのではないか? 王族の私がなぜおまえごときに、どうこうされなければならないのだ?」
「それがこの館での決まりなのです。はっきり申し上げましょう。この館に入られた瞬間、殿下の王子としての地位は意味がなくなったのです。殿下には、これよりわたくしの臣下、いえ、奴隷となっていただくことになります」
 ラオシンは口を開けて、マーメイを凝視した。すべて悪い冗談だと笑ってくれるのを期待しながら。
 だが、相手が本気なのは、自分の四肢を戒める玉綱がどんどん強くなっていくことで否が応にも理解できた。室の四方に散った女たちが笑いながら滑車にとおされた玉綱の先をひっぱり、強く締めなおしているのだ。
「や、やめろ、痛い!」
「ほほほほ。それぐらいのことで痛がってどうするのでございます? まぁ、それでもご安心ください。けっして殿下のお身体を傷つけるようなことはいたしません。殿下のお肌に傷ひとつ付けることなく、血一滴たりとも流すことなく、殿下をみごと性奴隷に仕込んでさしあげます」
「き、貴様、誰に頼まれた!」
 ようやくラオシンも自分が罠にはまったことに気づいた。そして自分をおとしいれることをたくらむ者がこの世にいるなら、それは王太后しかいないことにも気づいた。
「お、王太后か? 王太后の手の者だな?」
 マーメイは白い衣の裾を揺らし、のけぞるようにして笑った。
「依頼主の名は申せません。ですが、もう一度言っておきますが、お命を奪うようなことは絶対ございません。それどころか、お身体を傷つけることもございません。その点はご安心さないまし。わたくしどもは、ただ殿下を喜ばせてさしあげたいだけですの。殿下に目もくらむ快楽を与えてさしあげたいだけですわ」
「ば、馬鹿なことを……」
 ラオシンは全身の血の気が引いていくのを察しながらも、どうにかしてこの場を逃れる方法を必死に考えてみた。
「いくらもらったのだ? ここから出してくれれば、それだけの、いや、それ以上の金を私が用意しよう」
「契約違反はできませんの。信用にかかわりますからね」
 そう言って笑うマーメイがラオシンは心底怖ろしくなってきた。
「おい、来るな!」
「さぁ、殿下、始めましょうか? お覚悟なさいまし」

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