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 文句を言える立場ではない。口出しできるわけもない。こういった淫靡で卑劣な見世物が、当たりまえに行われていた時代である。負けた者をいたぶることを卑劣とみなす意識すらなかった時代のことである。敗れた者は、勝った者にどうされても仕方なく、金で買われた者は、買った者に生殺与奪の権利をにぎられているのが今の世である。
 だが、つい先ほどまで勇ましく戦っていた女戦士の今の悲惨な姿は、見ていた痛ましくてたまらない。
 また、愚劣な男たちの手や、残酷な観客たちの視線にいたぶられ、嬲られている彼女に、リィウスはつい我が身をかさねてしまうのだ。
「うう! よせ! やめろ! はなせ、下衆げす!」
 身体の自由を完全にうばわれながらも、戦士の誇りを手放さず死にもの狂いで抗うアキリアは痛々しいほどに美しかった。
(誰か……止めてくれないだろうか)
 リィウスは視線を辺りにさまよわせていた。皆、面白そうにこれから起こることを予想して、にやにやと笑っている。女たちも頬を染めて、過激な見世物に夢中になっているようだ。到底、誰も制止の声をあげてくれそうにない。
 そのとき、斜め向かい側に立っていたウリュクセスが視界に入った。
 上等そうな黒衣の衣に身をまとい、かすかに笑みをうかべて舞台を見ている。穏やかそうではあるが、やはり何か危ういものを感じてリィウスは目を伏せた。
「やめて! もう、やめてちょうだい!」
 悲鳴のような女の声が突如、響いてきて、リィウスもふくめ観客たちの目は、声の主をさがした。
「こら!」 警護の私兵の声を振りきって、ほっそりとした人影が中央に向かっていく。
「やめて! もうやめて!」
 亜麻色の衣をまとった若い娘だった。アキリアは二十三、四ぐらいだろうか。剣闘士のなかでは中堅で、この時代の感覚では若いとはいえないが、現れた女性は彼女より二つ三つ下だろうか。
 アキリアの剣闘士仲間か……? とリィウスのみならず、周囲の人たちは思った。だが、その女人の姿形がはっきりと見えるようになると、彼女があきらかに剣闘士や女戦士と呼ばれる輩とは違うことがわかった。
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