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最後の一日 二
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遅効性だとカッサンドラは言っていた。じきに全てが終わったとき、自分はきっと祖国の空にいるのだろう。そんなことを思いながら、中の液体を口にした。
直後に、王の口がアベルの唇を吸う。
(いっしょに地獄に墜ちてやる)
アベルの想いを知ってから知らずか、ディオ王は唇をからめてきた。唾液とともに、毒液も相手の身体に流れていくはずだ。
「ああっ……」
アベルは目を閉じて、ひたすら時が過ぎていくのを待っていた。今度目を開けたときは、祖国の空にいるはずと信じて。
その後も執拗につづいた王の責めに耐えながら、アベルは必死にそのときを待った。
おかしい……と思ったのは、耳飾りの中身を口にしても、予想した変化があらわれなかったことだ。自分は勿論、ディオ王にもなんの兆しもない。だが、時間がかかるのだから仕方ない、とはやる心をおさえた。どれほど遅くとも今日の夕方までには効くはずなのだ。
それでも訝しんでいたのが知れたのか、王の黒い瞳がアベルの碧の瞳を刺す。
「くくくく。余が血を吐いて死ぬのを待っておるのか?」
「!」
「……伯爵、いや、アベル、そなたは本当に可愛いのぅ。おう、そうじゃ、そろそろ、あれを見せてもらおうとするか。木馬を持ってまいれ」
その言葉は氷水となってアベルの全身を冷やす。
「い、いやだ! あれは許して! 許してくれ!」
つい先ほどの偽りの柔軟さはあっさりと消え、アベルは王の手から逃げ出そうとした。寝台から下りるまではどうにかなったが、すぐさまアベルをとらえたのは、エゴイだった。
「やっ! いや! いやだ!」
「アベル、落ち着け。……逃げるのは無理だ」
「いやぁ!」
半狂乱になって死にもの狂いに抗うアベルだが、力ではエゴイにかなわない。側にいた宦官兵二人も加勢してきて、三人によって難なく封じこまれてしまう。
「いやだ! いやだ! あれは、もう嫌だ!」
無駄だとわかってはいても、不様なほどに暴れずにはいられない。
前回、木馬乗りを強要されたときの屈辱の記憶が心身を痛いほどに焦がすのだ。
深宮の奥室で、側室や宦官たちのまえで強いられた行為を、今回は大広間で衆目の前で強制されるのかと思うと、いっそアベルは舌を噛み切りたくなった。
(もはや……これまでだ)
どのみち毒が効きだせば死ぬのだ。
アベルはとうとう神の教えに背いて、みずからの舌を噛もうとした。
真っ先に気づいたのは、抑えこんでいるエゴイや宦官兵ではなく、向かいあう形にアベルの正面に立っていたディオ王だった。
「うぐ!」
直後に、王の口がアベルの唇を吸う。
(いっしょに地獄に墜ちてやる)
アベルの想いを知ってから知らずか、ディオ王は唇をからめてきた。唾液とともに、毒液も相手の身体に流れていくはずだ。
「ああっ……」
アベルは目を閉じて、ひたすら時が過ぎていくのを待っていた。今度目を開けたときは、祖国の空にいるはずと信じて。
その後も執拗につづいた王の責めに耐えながら、アベルは必死にそのときを待った。
おかしい……と思ったのは、耳飾りの中身を口にしても、予想した変化があらわれなかったことだ。自分は勿論、ディオ王にもなんの兆しもない。だが、時間がかかるのだから仕方ない、とはやる心をおさえた。どれほど遅くとも今日の夕方までには効くはずなのだ。
それでも訝しんでいたのが知れたのか、王の黒い瞳がアベルの碧の瞳を刺す。
「くくくく。余が血を吐いて死ぬのを待っておるのか?」
「!」
「……伯爵、いや、アベル、そなたは本当に可愛いのぅ。おう、そうじゃ、そろそろ、あれを見せてもらおうとするか。木馬を持ってまいれ」
その言葉は氷水となってアベルの全身を冷やす。
「い、いやだ! あれは許して! 許してくれ!」
つい先ほどの偽りの柔軟さはあっさりと消え、アベルは王の手から逃げ出そうとした。寝台から下りるまではどうにかなったが、すぐさまアベルをとらえたのは、エゴイだった。
「やっ! いや! いやだ!」
「アベル、落ち着け。……逃げるのは無理だ」
「いやぁ!」
半狂乱になって死にもの狂いに抗うアベルだが、力ではエゴイにかなわない。側にいた宦官兵二人も加勢してきて、三人によって難なく封じこまれてしまう。
「いやだ! いやだ! あれは、もう嫌だ!」
無駄だとわかってはいても、不様なほどに暴れずにはいられない。
前回、木馬乗りを強要されたときの屈辱の記憶が心身を痛いほどに焦がすのだ。
深宮の奥室で、側室や宦官たちのまえで強いられた行為を、今回は大広間で衆目の前で強制されるのかと思うと、いっそアベルは舌を噛み切りたくなった。
(もはや……これまでだ)
どのみち毒が効きだせば死ぬのだ。
アベルはとうとう神の教えに背いて、みずからの舌を噛もうとした。
真っ先に気づいたのは、抑えこんでいるエゴイや宦官兵ではなく、向かいあう形にアベルの正面に立っていたディオ王だった。
「うぐ!」
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