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初夜散華 二
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「さ、今度は夫となる余を楽しまるのじゃ。おお、すっかり準備は出来ておるな。だが、こっちはどうじゃ?」
「あ、よ、よせ!」
王が手を伸ばした先は、胸元だった。
純白の衣でおおわれたそこは、エゴイの手にはまだ触られてはおらず、今日初めて受ける刺激にふるえた。
「カイ、宝剣を持て」
「はい、こちらに」
カイが宝石箱のような箱を差し出し、つい興味をひかれたアベルは視線をそこへ向けていた。目線の先にあったのは小型の蛮刀だ。
真紅の天鵞絨の布上に、埋もれるように置かれている銀の短刀を見た瞬間、アベルは頬がこわばるのを感じた。
「な、なにを……?」
「じっとしておれ」
グラリオンの王侯貴族の結婚初夜には、いささか野蛮な習慣がある。
花嫁の純白の下着は、閨で花婿の手によって、切り裂かれることになっている。古来より、花嫁というものが常に略奪されて男のものにされてきたことに由来する因習だろう。そして、寝室で新妻の下着を裂くのは、夫となる男だけの権利とされている。
乱暴な仕草で衣をはぎとられた下には、白絹に銀糸の縫いとりが麗しい布が巻かれているだけである。女の持つふくらみを持たぬ平板な身体に、その胸飾りはさぞ滑稽に見えるはずだろうが、不思議とアベルのしなやかな身体には似合っていて、美しく映える。
「動くでないぞ。動くと肌が傷つくぞ」
布の真ん中で、はらり、と白薔薇の花びらが割れるように布は切れて落ち、あとにはさらに白いアベルの肌と、ふたつの紅い突起物だけが残る。
観客たちの息を飲む音と、どよめくような感嘆の波。そして、波がひくと、緊張をふくんだ沈黙がひろまる。王の持つ短剣の切っ先が、褥上で座りこんでいるアベルの下肢の薄布におよんだのだ。
エゴイによって皺をつけられ、濡らされもしたが、アベルの腰をまもる最後の砦に、王は刃先をあてた。
(あ……)
アベルは刹那、目を閉じた。
緊張をふくんだ数秒が、過ぎる。
「立ってみよ。寝台の上で立つがよい」
アベルは首を振った。
目をつぶっていはいても、かすかにだが、刃物の起こす風を感じたのだ。立つことはできない。
「立て、アルベニス伯爵。余の命にさからうことは許さん! そこに、堂々と立ってみよ!」
王の残酷な命令に唇を噛みつつ、アベルはおずおずと寝台上に身を起こした。
(ああ……)
はらり、と最後の砦が完全に崩れる聞こえないはずの音が聞こえ、刃物を通されていた白い下着は花びらのように褥に落ちる。
「あ、よ、よせ!」
王が手を伸ばした先は、胸元だった。
純白の衣でおおわれたそこは、エゴイの手にはまだ触られてはおらず、今日初めて受ける刺激にふるえた。
「カイ、宝剣を持て」
「はい、こちらに」
カイが宝石箱のような箱を差し出し、つい興味をひかれたアベルは視線をそこへ向けていた。目線の先にあったのは小型の蛮刀だ。
真紅の天鵞絨の布上に、埋もれるように置かれている銀の短刀を見た瞬間、アベルは頬がこわばるのを感じた。
「な、なにを……?」
「じっとしておれ」
グラリオンの王侯貴族の結婚初夜には、いささか野蛮な習慣がある。
花嫁の純白の下着は、閨で花婿の手によって、切り裂かれることになっている。古来より、花嫁というものが常に略奪されて男のものにされてきたことに由来する因習だろう。そして、寝室で新妻の下着を裂くのは、夫となる男だけの権利とされている。
乱暴な仕草で衣をはぎとられた下には、白絹に銀糸の縫いとりが麗しい布が巻かれているだけである。女の持つふくらみを持たぬ平板な身体に、その胸飾りはさぞ滑稽に見えるはずだろうが、不思議とアベルのしなやかな身体には似合っていて、美しく映える。
「動くでないぞ。動くと肌が傷つくぞ」
布の真ん中で、はらり、と白薔薇の花びらが割れるように布は切れて落ち、あとにはさらに白いアベルの肌と、ふたつの紅い突起物だけが残る。
観客たちの息を飲む音と、どよめくような感嘆の波。そして、波がひくと、緊張をふくんだ沈黙がひろまる。王の持つ短剣の切っ先が、褥上で座りこんでいるアベルの下肢の薄布におよんだのだ。
エゴイによって皺をつけられ、濡らされもしたが、アベルの腰をまもる最後の砦に、王は刃先をあてた。
(あ……)
アベルは刹那、目を閉じた。
緊張をふくんだ数秒が、過ぎる。
「立ってみよ。寝台の上で立つがよい」
アベルは首を振った。
目をつぶっていはいても、かすかにだが、刃物の起こす風を感じたのだ。立つことはできない。
「立て、アルベニス伯爵。余の命にさからうことは許さん! そこに、堂々と立ってみよ!」
王の残酷な命令に唇を噛みつつ、アベルはおずおずと寝台上に身を起こした。
(ああ……)
はらり、と最後の砦が完全に崩れる聞こえないはずの音が聞こえ、刃物を通されていた白い下着は花びらのように褥に落ちる。
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