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凌辱の宴 十
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ふふふふふ……。
不気味な笑い声に、グラリオンの臣下たちも一瞬ざわめくことを止めた。
「おもしろい面構えだ。……だが、道理を守れぬ者は人ではなく、犬畜生とおなじだ。犬ならば、四つん這いになれ。カッサンドラ、遅参の罰として、アルベニス伯爵を、いや、我が妻の鎖を引け。妻よ、罰として四つん這いでここまで来るのだ」
ごぉぉぉぉ――。
怒りと屈辱のあまり、全身の血が逆流する音を、たしかにアベルは聞いた。
「こ、断る! 死んでもそんな真似はしない。私は帝国の伯爵だぞ!」
言った瞬間、背後から頭をおさえこまれ、咄嗟のことでアベルは身体の均衡をうしない、床に膝をついていた。身を起こそうにも、宦官たちの分厚い手に頭や肩をおさえこまれ、身動きできない。
「く、くそぉ!」
「お貴族様がそんな下品な言葉を使っては駄目よ」
カッサンドラが床に膝をつき、小声でたしなめる。
「陛下を怒らせては駄目よ。生きて勤めを果たして帰りたいでしょう? ここは我慢して。さ、四つん這いで歩きなさい。ほんの少しの辛抱よ」
意外と優しい声でなだめられ、一瞬気が挫けそうになったが、アベルは果敢にも言い返した。
「い、いやだ、死んでもそんな真似はしない!」
「愚かじゃなぁ。……そなただけでなく、そなたの従者も殺されるのだぞ」
頭上から落ちてきたハルムの声に、さすがにアベルは迷った。
「敵国の捕虜になった者は殺されるか、奴隷となるしか生きる術はないわ。死ねばそれで終わりだけれど、生き延びれば、いつかこの日の屈辱に耐えた自分を許せるときがくるわよ」
カッサンドラの声には奇妙な情がこもっている。もしかしたら彼女ももとは異国人で、捕虜となってこの城に囚われいたのかもしれない。だが、そんな言葉でアベルの心が揺れることはなかった。
「い、いやだ」
「馬鹿ね。あなたの意地や見栄のために、罪もない従者を道連れにするつもり?」
「うう……」
懐柔されてはいけない、とは思うものの、ドミンゴのことを指摘されると、アベルはそれ以上返すことができなくなる。
「なにをしておる? 早く来ぬか?」
王の催促の声が鞭となってアベルの背に響いてくる。
「さ、床を進みなさい。早く」
「くぅぅぅ!」
一瞬、アベルはこのまま舌を噛み切って果てようかと迷ったが、やはり城のどこかで救いを待っているドミンゴを見捨てることはできない。
一度、深く息を吐くと、覚悟を決めた。
不気味な笑い声に、グラリオンの臣下たちも一瞬ざわめくことを止めた。
「おもしろい面構えだ。……だが、道理を守れぬ者は人ではなく、犬畜生とおなじだ。犬ならば、四つん這いになれ。カッサンドラ、遅参の罰として、アルベニス伯爵を、いや、我が妻の鎖を引け。妻よ、罰として四つん這いでここまで来るのだ」
ごぉぉぉぉ――。
怒りと屈辱のあまり、全身の血が逆流する音を、たしかにアベルは聞いた。
「こ、断る! 死んでもそんな真似はしない。私は帝国の伯爵だぞ!」
言った瞬間、背後から頭をおさえこまれ、咄嗟のことでアベルは身体の均衡をうしない、床に膝をついていた。身を起こそうにも、宦官たちの分厚い手に頭や肩をおさえこまれ、身動きできない。
「く、くそぉ!」
「お貴族様がそんな下品な言葉を使っては駄目よ」
カッサンドラが床に膝をつき、小声でたしなめる。
「陛下を怒らせては駄目よ。生きて勤めを果たして帰りたいでしょう? ここは我慢して。さ、四つん這いで歩きなさい。ほんの少しの辛抱よ」
意外と優しい声でなだめられ、一瞬気が挫けそうになったが、アベルは果敢にも言い返した。
「い、いやだ、死んでもそんな真似はしない!」
「愚かじゃなぁ。……そなただけでなく、そなたの従者も殺されるのだぞ」
頭上から落ちてきたハルムの声に、さすがにアベルは迷った。
「敵国の捕虜になった者は殺されるか、奴隷となるしか生きる術はないわ。死ねばそれで終わりだけれど、生き延びれば、いつかこの日の屈辱に耐えた自分を許せるときがくるわよ」
カッサンドラの声には奇妙な情がこもっている。もしかしたら彼女ももとは異国人で、捕虜となってこの城に囚われいたのかもしれない。だが、そんな言葉でアベルの心が揺れることはなかった。
「い、いやだ」
「馬鹿ね。あなたの意地や見栄のために、罪もない従者を道連れにするつもり?」
「うう……」
懐柔されてはいけない、とは思うものの、ドミンゴのことを指摘されると、アベルはそれ以上返すことができなくなる。
「なにをしておる? 早く来ぬか?」
王の催促の声が鞭となってアベルの背に響いてくる。
「さ、床を進みなさい。早く」
「くぅぅぅ!」
一瞬、アベルはこのまま舌を噛み切って果てようかと迷ったが、やはり城のどこかで救いを待っているドミンゴを見捨てることはできない。
一度、深く息を吐くと、覚悟を決めた。
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