煉獄の歌 

文月 沙織

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 そして、その血も肉も魂も俺に訴えるのだ。このまま生きることはもう出来ないと。
 人の生き血を吸うことを稼業にする因業な人生に蹴りをつけてしまいたくなったのだ。
 おまえを瀬津に売ったのは、これもつくづく勝手な言い分かもしれないが、組の財政的事情もさることながら、おまえ自身の因果を消すためと、おまえなら、瀬津のあの激しい憎しみの火をしずめることが出来るのでは、と妙にロマンチストめいたことを考えたせいだ。恨んでくれていい。
 敬、俺は死ぬ。
 だがヤクザの息子として、俺の背負ってきた業を最後まで背負って、その努めを果たして死ぬ。
 俺の決意を知っているのは長年仕えてくれた老僕だけだ。ちなみに、彼はもとは小間物の職人で、細工物がうまく、俺のために武器をこしらえてくれた。この手紙も彼に託す。
 何度も書くが、敬、俺を恨んでくれ。憎んでくれ。
 だが、願わくば、俺の死後もおまえは生きてくれ。いや、生きろ。俺を恨み憎みながら生きろ。
 そして、さらに余計なことだが、最後に一言書かせてくれ。

 敬、おまえを愛している。

 おそらく俺はこの罪だけでも地獄に墜ちるだろう。いや、地獄に墜ちることすらかなわず、煉獄でのたうちまわるだろう。
 だが、それでも、煉獄で這いずりまわりながら、俺はきっと叫ぶだろう。
 何百回、何千回と、叫ぶだろう。
 命果て、骨が塵となっても、俺の魂のひとかけらは、きっと叫ぶだろう。
 おまえを愛している、と。

             安賀 勇


 追伸
 蛇足ながら、この詩をおまえにおくる。


 丹心歌     鄭夢周ていぼうしゅう

 此身死了死了 の身死におわり死に了りて
 一百番更死了 一百番更いっぴゃくばんさらに死すとも
 白骨為塵土 白骨塵土じんど
 魂魄有也無 魂魄こんぱく有りとも無しとも
 向主一片丹心 主に向かう一片の丹心
 寧有改理也歟 なんあらたまる理有りあらんや



                終わり




 参考文献
 「朝鮮漢詩古今名作選」
   勉誠出版


 
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