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追記 一
しおりを挟む安賀敬 殿
おまえがこの手紙を読むとき、俺はおそらくこの世にいないだろう。
さぞ俺のことを憎み、恨んだことだろう。俺は組員の今後の生活のためにおまえを瀬津に売った。これはまごうことなき事実だ。その点に関してはいっさい言い訳しない。
すでに事情はおまえの耳に入っているかもしれないが、俺は治癒の見込みのない病に侵されていた。父の突然の死、経済的な問題、そして病魔。こういったことがすべてかさなったとき、俺は組を閉め、自分の始末を自分でつけることに決めた。
だが、おまえのことをどうしていいか決めあぐねていた。
幾度となく、いっそおまえとともに逝こうかとも迷ったことがあり、事実、おまえも知っているように、一度はそうしようと決めたが、果たすことは出来なかった。
やはり、おまえには生きていて欲しい、と思うのは勝手な願いだろうか。
人生最後の愚痴と思って読み捨てて欲しい。
俺は、あの日、幼いおまえを初めて見たときから心惹かれていた。
最初は、兄としての愛情だと思っていたが、それがいつしか邪な想いに変わっていったのを自覚するようになった。
俺はおまえに欲情するようになったのだ。
そして、幸か不幸か、俺の邪恋はけっして一方通行ではなく、おまえ自身も俺を求めてくれた。
おまえは笑うかもしれないが、俺は極道者のくせに、小心な男だ。どうあっても最後の人としての道を超えることはできなかった。
このままおまえを手元に置いておけば、破滅の願望にとらわれ、おまえを抱いて畜生道に墜ちた果てに心中することになったかもしれない。おまえなら、それこそ本望だというかもしれないが……。
迷いあぐねていたとき、俺はふとした偶然から組の傘下の店で、ある若い娼婦と出会った。その女は、かつての中学生時代の同級生だった。
ことわっておくが、恋愛関係があったわけではない。内気で地味な少女で、言葉を交わしたのは二、三度ぐらいだったと思うが、そんな彼女が印象に残っていたのは、当時、彼女の父親が病死したことでだ。
その後、どういう経緯があったのか、中学生で父を亡くした彼女は、組の管轄する店で春を売る女となっていた。店で見た彼女は、中学時代の若葉の季節のころの少女とはまったく違う女になっていた。いや、成り果てていた、というべきか。
向こうも気づいて型通りの挨拶をした。内心、ひどくばつが悪い想いでその日は切り上げたが、五日後、俺は彼女の訃報を聞いた。自宅の安アパートで首を吊ったらしい。
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