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八
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(嫌だ、行かないで! 兄さん、行かないで!)
敬は、ほとんど無意識で勇の腕にすがりついていた。勇の血を吸った刃を、今度は己の胸に向けようとした。
「うぐ……」
だが、最後の最後に、勇の唇が動いた瞬間、一つの言葉が聞こえた。
生きろ、敬……。
「いやだ! 兄さん!」
敬は叫んでいた。
(行ってしまう!)
遅れまじ、と短剣に力を込めたが、その手を瀬津が引き止めた。
「駄目だ!」
「坊ちゃん!」
何かが落ちる耳障りな音がして、開けっ放しの襖の向こうに驚愕顔の嶋が見えた。
敬は狂人のように悲鳴をあげつづけていた。
その悲鳴にまじって、さながら地獄でうごめく亡者のような宇田や柏木たちのたてる声も聞こえる。とりわけ井上の――怪我はしていないくせに――金切り声が、こんなときだというのに、妙に滑稽に響いた。
「いや! いや! いやだ!」
濡れて色を深くした錆浅葱色の着物が目をひく。
畳の上に倒れた男は、すでにこと切れていた。
「見るな、敬!」
後に思うと不思議だが、そのとき自分を抱きしめた男の腕の力強さと胸の温かさに、敬はかすかに生きている実感を与えられた。
どれぐらいそうしていたか……、どこからか、救急車の音が聞こえてきた。
敬は、ほとんど無意識で勇の腕にすがりついていた。勇の血を吸った刃を、今度は己の胸に向けようとした。
「うぐ……」
だが、最後の最後に、勇の唇が動いた瞬間、一つの言葉が聞こえた。
生きろ、敬……。
「いやだ! 兄さん!」
敬は叫んでいた。
(行ってしまう!)
遅れまじ、と短剣に力を込めたが、その手を瀬津が引き止めた。
「駄目だ!」
「坊ちゃん!」
何かが落ちる耳障りな音がして、開けっ放しの襖の向こうに驚愕顔の嶋が見えた。
敬は狂人のように悲鳴をあげつづけていた。
その悲鳴にまじって、さながら地獄でうごめく亡者のような宇田や柏木たちのたてる声も聞こえる。とりわけ井上の――怪我はしていないくせに――金切り声が、こんなときだというのに、妙に滑稽に響いた。
「いや! いや! いやだ!」
濡れて色を深くした錆浅葱色の着物が目をひく。
畳の上に倒れた男は、すでにこと切れていた。
「見るな、敬!」
後に思うと不思議だが、そのとき自分を抱きしめた男の腕の力強さと胸の温かさに、敬はかすかに生きている実感を与えられた。
どれぐらいそうしていたか……、どこからか、救急車の音が聞こえてきた。
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