煉獄の歌 

文月 沙織

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罠に落ちて 一

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「おまえの知りたいことを教えてやろうか?」
 敬の気持ちを読み取ったらしく、瀬津が静かに、だが笑みを浮かべて問う。
 敬は頷いた。瀬津の笑みに何かを感じても、どのみち自分は彼の掌中しょうちゅうから逃げられない身だ。
「そうか。じゃ、次の店で酒を飲むとするか」
 瀬津は目だけで笑ってみせた。

 瀬津の向かった店は、別の建物の地下にあった。
 店の名は『Le sacrifice』とある。やはりフランス語のようだが、意味は解らない。
「夜景は見えないが、その代わり面白いものを見せてやろう」
 重たそうな、いかにも高級なドアが開くと、黒服のボーイが出迎える。
「瀬津様ですね。こちらへどうぞ」
 おそるおそる敬が絨毯の上を踏み進んでいくと、さらに奥の部屋へ通される。やはり黒服のボーイが立っており、目を合わせぬようにして礼をする。
 前は瀬津、後ろには、面識のある陸奥がいる。
 以前、彼の前で侮辱されたことを思い出し、敬はひどくばつの悪い想いになったが、逃げることもできず、しぶしぶ、二人に前後をはさまれるかたちで進んだ。
 聞き慣れないクラシック音楽が鳴っており、男たちが静かに酒を酌み交わしている。欧米のサロンのような雰囲気を意識したしつたえで、テーブルやソファにもかなり金がかかっていることがわかる。
「ここは会員制でな。客は皆、絶対に秘密を守ることを約束に入会している」
 敬は落ち着かない気分になってきた。
 店の中央には、舞台のようなものがあり、ショーを演じられるようになっているようだ。
 こういった場所へは、たいていは歌手やダンサーが呼ばれるものだが、店の雰囲気からして、とうていそんなありがちなものではなさそうだ。客が男ばかりというのも異様だ。
 敬は案内されたソファに、瀬津と並んで座った。少し離れた席に陸奥が座る。
 店内は薄暗く、十数人いる客の顔ぶれはわからないが、いずれも金のありそうな男たちだということは、装いから知れる。向かい斜めの男の手首にある時計ひとつとっても、庶民なら一財産ほどの価値がある。若いとはいっても、ヤクザの家に育った敬は、そういった鑑識力は普通の同年代の青年より備わっているのだ。
 音楽が、一瞬止まった。
「皆様、ようこそいらして下さいました」
 サングラスをかけた司会らしき黒服の男が壇上に上がってきた。ここから見ても、背がそれほど高くないのが判る。
「今宵はとっておきのショーをお見せします」
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