煉獄の歌 

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
36 / 181

しおりを挟む
 極道の跡取り息子に生まれた勇にはごく普通の感覚で、十八の誕生日をむかえたとき、有名な彫師の家を訪ねたのだ。それは一般世間の男子が、進学を決めたり、車の免許を取りに行くような感覚だった。
 敬もまた、自分も十八になれば背に刺青を背おうつもりだったが、その決意は存命だった父と勇によってくじかれた。
 まだどこか、敬を完全な極道にすることに勇には躊躇ためらいがあるようだ。
 刺青を入れるには時間がかかる。
 何度も彫師の家に足をはこび、そのたびに疲れ、青ざめた顔で帰ってくる兄を案じながらも、背に描かれていく唐獅子の美しさに敬は感嘆を禁じえなかった。
 完成した獅子を見せられたとき、敬のなかで兄への恋心が爆発した。
 敬は今も惚れ惚れとした心持で、その背に頬を寄せてみる。
(俺のものだ……)
 甘えにも似た傲慢な気持ちで、敬は獅子の目の所に接吻をおくる。
 勇が欲しい。
 この獅子を、自分だけのものにしたい。
 敬はまぐわうべく身体を開き、勇を誘おうとするが勇は首を振る。
 なぜ、ここまできて、品行方正ぶらなければならないのだ。そんな疑問にせかされ、敬は言っていた。
 ヤクザの息子ということで、学校でも、散々白い目で見られたきた敬だ。中学生のころからは、同級生からは〝さん〟づけで呼ばれ、畏怖され、敬遠された。友人はいなかったが子分につねに囲まれ、一部の女生徒からは憧憬の目で見られ、ちょっとした王子様あつかいされたが、敬は知っていた。それはあくまでも、どこまでいっても、裏世界、大通りからはずれた場所だけの日影の王子様であることを。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ニューハーフ極道ZERO

フロイライン
BL
イケイケの若手ヤクザ松山亮輔は、ヘタを打ってニューハーフにされてしまう。 激変する環境の中、苦労しながらも再び極道としてのし上がっていこうとするのだが‥

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

檻の中

Me-ya
BL
遥香は蓮専属の使用人だが、騙され脅されて勇士に関係を持つよう強要される。 そんな遥香と勇士の関係を蓮は疑い、誤解する。 誤解をし、遥香を疑い始める蓮。 誤解を解いて、蓮の側にいたい遥香。 面白がる悪魔のような勇士。 🈲R指定です🈲 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説はだいぶ昔に別のサイトで書いていた物です。 携帯を変えた時に、そのサイトが分からなくなりましたので、こちらで書き直させていただきます。

三限目の国語

理科準備室
BL
昭和の4年生の男の子の「ぼく」は学校で授業中にうんこしたくなります。学校の授業中にこれまで入学以来これまで無事に家までガマンできたのですが、今回ばかりはまだ4限目の国語の授業で、給食もあるのでもう家までガマンできそうもなく、「ぼく」は授業をこっそり抜け出して初めての学校のトイレでうんこすることを決意します。でも初めての学校でのうんこは不安がいっぱい・・・それを一つ一つ乗り越えていてうんこするまでの姿を描いていきます。「けしごむ」さんからいただいたイラスト入り。

タイは若いうちに行け

フロイライン
BL
修学旅行でタイを訪れた高校生の酒井翔太は、信じられないような災難に巻き込まれ、絶望の淵に叩き落とされる…

魔族に捕らえられた剣士、淫らに拘束され弄ばれる

たつしろ虎見
BL
魔族ブラッドに捕らえられた剣士エヴァンは、大罪人として拘束され様々な辱めを受ける。性器をリボンで戒められる、卑猥な動きや衣装を強制される……いくら辱められ、その身体を操られても、心を壊す事すら許されないまま魔法で快楽を押し付けられるエヴァン。更にブラッドにはある思惑があり……。 表紙:湯弐さん(https://www.pixiv.net/users/3989101)

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

学校の脇の図書館

理科準備室
BL
図書係で本の好きな男の子の「ぼく」が授業中、学級文庫の本を貸し出している最中にうんこがしたくなります。でも学校でうんこするとからかわれるのが怖くて必死に我慢します。それで何とか終わりの会までは我慢できましたが、もう家までは我慢できそうもありません。そこで思いついたのは学校脇にある市立図書館でうんこすることでした。でも、学校と違って市立図書館には中高生のおにいさん・おねえさんやおじいさんなどいろいろな人が・・・・。「けしごむ」さんからいただいたイラスト入り。

処理中です...