黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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心砕けて 七

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 アベル自身も、かつての友でり、好敵手であった男が自分の乳首を舐めまわしているなど、信じられないのだろう。
 耳をおおいたくなるほど淫らな音がひびく。オルティスは目をそらしはしたものの、耳に入ってくる音はふせげない。
「や、やめろ……! ああっ、いやだ! やめろぉ!」
 嫌悪感をあらわにし、身をよじってどうにかして逃れようとするアベルの胸をおさえこみ、公爵は今度は左胸の蕾を吸う。
 淫らな音が、さらに激しくたつ。
「ううっ、……うう……くぅ……!」
 貴公子二人のからみあう影が、蝋燭の灯りに照らされ、そこに禁断の妖夢が陽炎かげろうのように立ちのぼり、ありうべかざるかたちを辺境の天幕内になす。
 えある女王がおさめる祖国帝国はにはまだいたらず、廃王が去った黄金郷の後宮もとおい、かりそめの宿である天幕内で描かれる淫夢の世界は、まことなのか夢なのか……。もはやオルティスにはわからなくなってきた。
 ひとしきり蕾の味をたのしんでから、公爵は口をはなして息をついた。
 アベルの背後で淫らな道具をあやつりつづけ、バルバラが訊いた。
 あまり追い詰めないように、公爵がアベルを嬲っている間は後ろの責め加減を弱くしていたこようだ。そこは職業的な配慮だろう。
「どうだ? 憧れの君のおっぱいの味は? さぞ甘いだろうな?」
 娼婦の揶揄に照れるような公爵ではない。
 にやり、と笑ってみせる。  
「ああ。最高だ。どんな極上の果実よりもうまいな。本当に食ってしまいたいぐらいだ」
「くっ……!」
 公爵が指先で、可憐にふるえる小さな粒をはじく。
 白雪のうえに落ちた極小の紅玉のようである。
「まさか、祖国にいたころは、こんな真似ができるとは夢にも思わなかったな。どれほどひんしていても、名家の若君。しかも潔癖で誇りたかい。金や力でどうにかなる相手ではないと諦めていたのが……、まさか、それが、これほど良い身体になるとは……」
 公爵はおもしろそうにアベルの両の胸を、女にでもするように、おのれの両手で揉むようにする。
「あっ……」
 アベルは怒りと羞恥にふるえた。 
「よしよし、可愛いぞ。これからは、毎晩俺がここを揉んでやるからな。俺の可愛いアベル。ああ、おまえのこんな姿を見れるなぞ……、こんなことができるなぞ、思えなかった。俺はなんという幸福な男だ」
 うっとりと、目を細めながら熱っぽく囁く口調には、揶揄よりも激しい熱情が感じられる。本気でそう思っているのだ。
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