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訪問者 五
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「まさか……相手は侯爵未亡人だ」
「ふん。未亡人なら未亡人らしく家で喪服でも着て夫の思い出にひたっていればいいものを、夜会や舞踏会にはかならず出てくるのだから、あの婆は。ああ……、でも、あの夜、踊っていたあんたは本当に素敵だった」
バルバラの口調は熱く、瞳は夢見る子どものように曇りがない。
「あんたの金の髪が揺れるたびに金粉があたりに舞いそうで。そして、舞い散った金粉は蝶に変わるのじゃないかと、俺、本気で思ったぐらいだよ。本当に、夢のように美しかった……」
殺風景な天幕のなかに宮廷音楽が流れてきそうだ。この時代の帝国の音楽は、まださほど洗練されたものではないが、東方の楽器も組み入れて、地方と帝都の音が絶妙に入り混じり、それはそれで趣きのある音楽だった。
この当時はやりだした、男女対になって踊っては次々と相手を代わっていく男女混合舞踏は、貴族間の交際にも役立ち、隣国の大使をまねいての国際外交にも華を添えた。
さらに、いつの時代もそうであるように、舞踏会は男女の出会いの場でもあり、宴の夜には恋の歌がかぎりなくうたわれもした。まだまだ粗削りながらも、帝国文化が花開きだしたころである。
「ああ、思い出しただけでもわくわくする。綺羅をまとった淑女たちにかこまれて……花の妖精の輪の中心にいる女神だったよ、あの夜のあんたは」
一人で興奮しているバルバラを奇妙そうに見ながら、アベルは別のことを訊いた。
「バルバラという名は、本名ではないのか?」
一瞬、バルバラは鼻白んだ。
「そんなこと、今はどうでもいいだろう。公爵から帰国の知らせを聞いて、あんたに会えるかもと思って、俺、いてもたってもいられなくなって、ここまで苦労して来たんだぞ。せっかく楽しい気持ちでいっぱいなのに、水をささないでくれよ」
バルバラはうっとりとした目になると、肌があらわになりかけているアベルの白い肌を舐めるように見ている。
「ああ、なんて綺麗な肌……可哀想に、縄の跡がついているじゃないか」
手はアベルの腕をさすりながら、バルバラは怒りをこめた目で公爵を見た。
「下手だね。ちゃんと教えてやったろう、相手を傷つけない縛り方を」
「そう言うな、これでもかなり慎重に縛ったのだぞ」
「ふん。未亡人なら未亡人らしく家で喪服でも着て夫の思い出にひたっていればいいものを、夜会や舞踏会にはかならず出てくるのだから、あの婆は。ああ……、でも、あの夜、踊っていたあんたは本当に素敵だった」
バルバラの口調は熱く、瞳は夢見る子どものように曇りがない。
「あんたの金の髪が揺れるたびに金粉があたりに舞いそうで。そして、舞い散った金粉は蝶に変わるのじゃないかと、俺、本気で思ったぐらいだよ。本当に、夢のように美しかった……」
殺風景な天幕のなかに宮廷音楽が流れてきそうだ。この時代の帝国の音楽は、まださほど洗練されたものではないが、東方の楽器も組み入れて、地方と帝都の音が絶妙に入り混じり、それはそれで趣きのある音楽だった。
この当時はやりだした、男女対になって踊っては次々と相手を代わっていく男女混合舞踏は、貴族間の交際にも役立ち、隣国の大使をまねいての国際外交にも華を添えた。
さらに、いつの時代もそうであるように、舞踏会は男女の出会いの場でもあり、宴の夜には恋の歌がかぎりなくうたわれもした。まだまだ粗削りながらも、帝国文化が花開きだしたころである。
「ああ、思い出しただけでもわくわくする。綺羅をまとった淑女たちにかこまれて……花の妖精の輪の中心にいる女神だったよ、あの夜のあんたは」
一人で興奮しているバルバラを奇妙そうに見ながら、アベルは別のことを訊いた。
「バルバラという名は、本名ではないのか?」
一瞬、バルバラは鼻白んだ。
「そんなこと、今はどうでもいいだろう。公爵から帰国の知らせを聞いて、あんたに会えるかもと思って、俺、いてもたってもいられなくなって、ここまで苦労して来たんだぞ。せっかく楽しい気持ちでいっぱいなのに、水をささないでくれよ」
バルバラはうっとりとした目になると、肌があらわになりかけているアベルの白い肌を舐めるように見ている。
「ああ、なんて綺麗な肌……可哀想に、縄の跡がついているじゃないか」
手はアベルの腕をさすりながら、バルバラは怒りをこめた目で公爵を見た。
「下手だね。ちゃんと教えてやったろう、相手を傷つけない縛り方を」
「そう言うな、これでもかなり慎重に縛ったのだぞ」
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