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訪問者 二
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「あ、あの……」
オルティスが驚いたのは、その訪問者が、身なりは黒の袖のある衣に、二裾の下衣という男の装いでありながら、声はまちがいなく女であることだ。
「あら、驚かせてご免あそばせ。女の旅は危険だというので、この格好で来たのよ」
オルティスはさぞ驚いた顔をしていたのだろう。相手は、おもしろそうに笑った。
だがオルティスが目をむいたのも無理はない。男の着物を着た女など、生まれてこのかた見たこともない。異装者は異端者とされている時代である。
「ふふふふ。そんなに珍しい?」
彼女は、はおっている外套の裾をひるがえした。
同時に、肩まである金の髪が揺れる。アベルほどではないが、なかなか見事な金髪である。オルティスはつい、まじまじと相手の顔を見ていた。
旅の途中で日に焼けたのか、頬はなめらかにやや鳶色がかっており、そのつやつやとした顔のうえには雀斑が散っている。それが彼女を年齢より若く見せ、どことなく愛嬌を添え、すこしも瑕になっていない。丸い顔のなかで、碧の瞳が悪戯そうに輝くのを見ると、薄暗い天幕内に、すでに傾いたはずの太陽が戻ってきたような錯覚がする。
大袈裟かもしれないが、それほどに久しぶりに見た若い娘というのは、オルティスにとって新鮮であり刺激的であり、さらに、彼女が激しい個性を備えていることは一目で知れた。目が離せない。
「あ、あの、あなたは?」
ようやっと、そんな言葉が口から出た。
「名前? 今の名前は、バルバラ」
どこかで聞いた名前だと思うが……。
相手は黄金の眉をややしかめた。
「この名を知らないのかい? これでも都では有名人だと自惚れていたんだけどね」
喋り方まで男のようだ。
「あ、もしかして、」
オルティスは思い当たった。
高級娼婦のバルバラですか、と訊きかえしそうになり、急いで口を止めた。
「ふふふふふ。そうさ。私は、娼婦バルバラ。公爵のように私を贔屓にしてくれる客は、〝黄金のバルバラ〟と呼ぶね」
オルティスが驚いたのは、その訪問者が、身なりは黒の袖のある衣に、二裾の下衣という男の装いでありながら、声はまちがいなく女であることだ。
「あら、驚かせてご免あそばせ。女の旅は危険だというので、この格好で来たのよ」
オルティスはさぞ驚いた顔をしていたのだろう。相手は、おもしろそうに笑った。
だがオルティスが目をむいたのも無理はない。男の着物を着た女など、生まれてこのかた見たこともない。異装者は異端者とされている時代である。
「ふふふふ。そんなに珍しい?」
彼女は、はおっている外套の裾をひるがえした。
同時に、肩まである金の髪が揺れる。アベルほどではないが、なかなか見事な金髪である。オルティスはつい、まじまじと相手の顔を見ていた。
旅の途中で日に焼けたのか、頬はなめらかにやや鳶色がかっており、そのつやつやとした顔のうえには雀斑が散っている。それが彼女を年齢より若く見せ、どことなく愛嬌を添え、すこしも瑕になっていない。丸い顔のなかで、碧の瞳が悪戯そうに輝くのを見ると、薄暗い天幕内に、すでに傾いたはずの太陽が戻ってきたような錯覚がする。
大袈裟かもしれないが、それほどに久しぶりに見た若い娘というのは、オルティスにとって新鮮であり刺激的であり、さらに、彼女が激しい個性を備えていることは一目で知れた。目が離せない。
「あ、あの、あなたは?」
ようやっと、そんな言葉が口から出た。
「名前? 今の名前は、バルバラ」
どこかで聞いた名前だと思うが……。
相手は黄金の眉をややしかめた。
「この名を知らないのかい? これでも都では有名人だと自惚れていたんだけどね」
喋り方まで男のようだ。
「あ、もしかして、」
オルティスは思い当たった。
高級娼婦のバルバラですか、と訊きかえしそうになり、急いで口を止めた。
「ふふふふふ。そうさ。私は、娼婦バルバラ。公爵のように私を贔屓にしてくれる客は、〝黄金のバルバラ〟と呼ぶね」
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