黄金郷の白昼夢

黒い轍 五

　舌を噛みきることを案じて、公爵は白絹の紐布でアベルに猿ぐつわかませていた。白布を悔しげに噛みしめ、無念そうに眉を寄せ、馬上で腰を突き上げるような姿勢を取っているアベルは、罪深い生き物と化していた。
　素朴でありながらも粗野で野蛮な人々の目に、異国の虜囚のあられもない姿は、ひどく淫靡で官能的に見える。
　馬上のアベルも、手綱を引くドミンゴもその顔には苦悶が浮かんでいた。
　だが、オルティスは気づいた。
　旧主の窮状と、彼から受ける憎悪に傷つき、泣きそうな顔をしながらも、ドミンゴという男の青い目は、ちらちらとアベルの雪白の脚に向けられている。
　彼の青ざめていた肌は上気し、ときおり鼻をふくらますような仕草をする。その様子に、オルティスはまぎれもない淫欲を見た。
　この男は、かつての主君だったアベルの淫らな姿に欲情しているのだ。
（あさましい……）
　怯えるような、辛そうな顔をしつつも、物欲しげな目つきをしているドミンゴという男に、オルティスは言いようのない嫌悪感をおぼえた。
　いや、彼だけではない。行列をとりまく群衆たちの、征服者たちのなかにある哀れな虜囚に向ける卑猥な好奇の目にも、ひとしく嫌悪がわく。
（皆で、よってたかって伯爵を貶めているのだ）
　義憤すらわいてくる。
　アベルは相変わらず苦しげに眉を寄せている。悪路にさしかかったところで、馬も人も歩きづらく、そうなると、裸馬に直接またがっているアベルは、身体に微妙な振動を受け、それが刺激となって、いっそう苦しむことになるようだ。
「う……、うう……」　
　うめき声は、苦痛と恥辱、そしてかすかに甘い響きをふくんで、オルティスの耳に響いてくる。　
　アベルの形の良い額に、うっすら張りついた汗が銀色に光る。それをぬぐってやりたい衝動にオルティスは駆られた。
「伯爵、お辛いでしょう……」