婚約破棄してきた強引御曹司になぜか溺愛されてます

裏 あしながおじさまは元婚約者でした

親愛なるあしながおじさまへ(最後の手紙)

　書籍版では割愛されていた、最後に雛子が書いた手紙の内容です。
　あしながおじさまへ綴った、送ることのない雛子の想いをここに残しておきます。

　この文章の前後は書籍版とほぼ同じです。


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　そして雛子はテーブルにパソコンを置き、メール作成画面を開く。

『あしながおじさまへ』

　そう文字を打ちこんでみたら、すごく久しぶりで懐かしく感じた。
　
　あしながおじさまが朝哉じゃなかったら、今頃はまだこうしてメールのやり取りを続けていたのかもしれない。
　
　朝哉があしながおじさまだったのはもちろん嬉しいけれど、あの頃あしながおじさまを純粋に慕い、文章だけで心を通わせていた時間も、自分にとっては至福の瞬間ときだったのだと改めて思う。

　少し考えてから、キーボードの上で指を走らせる。


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　親愛なるあしながおじさまへ

おじさま、すっかりご無沙汰していましたが、お元気でしたか？

おじさまにメールを書くのは、おじさまが帰国されると聞いて以来です。少しドキドキしています。

おじさま、じつは私、結婚しました。
3月に私の23歳の誕生日を迎えてすぐのことです。
相手はなんと、元婚約者で、それから再び婚約者になった彼、黒瀬朝哉さんです。

驚かれましたか？　驚きますよね。
あんなに嫌っていたのに。再会してからたった1年弱なのに。

憎いと思いながら、会いたくないと言いながらも、私は強がっていただけだったんです。
本当は会いたくて逢いたくて仕方なくて、大好きで恋しくて……。

再び出会ってそのことに気づいてしまったら、あとはあっという間でした。
彼の強引さに流されるフリをして、私がみずから喜んで流れに飛びこんでいったように思います。

おじさま、婚約披露のパーティーで恐ろしい事件が起こったんですよ。
皆が必死で逃げ惑うその中で、彼は身を挺して私を守ってくれました。

彼の右手の甲と左の肩から腕にかけて、今も大きな傷痕が残っています。

これは徐々に薄くはなっていきますが、完全には消えて無くならないそうです。
手術をすれば綺麗な肌に戻せるのに、彼は『俺の勲章だから、このままでいい』と言ってその気がありません。

だから私は何度も彼の傷に口づけて、『この傷が早く綺麗になりますように』そう心の中で祈るのです。

彼は傷痕を勲章だと言うけれど、私にとってそれは懺悔の気持ちと彼からの愛の象徴そのものです。
傷痕を見るたびに、申し訳なさと嬉しさ、両方の感情が同時に湧き上がって、最後には感動の涙となって流れ出てしまいます。

私が涙を流すと、彼は指と唇とで優しくそれを拭ってくれます。
それが嬉しくてまた泣いてしまう私は、彼のことを泣き虫だなんて笑えませんね。


おじさま、私は今、とても幸せです。
1年前に『残念だ』と書いたファーストクラスの長旅を、今はとても満たされた気持ちで過ごしています。

これもすべて、おじさまに見守り続けていただいたお陰です。
辛くて長かった6年間を支えてくださったのは……紛れもなく、おじさま、あなたの存在でした。

もうこうやっておじさまにお手紙を書くこともないのでしょうが……最後にもう一度だけ言わせてください。

おじさま、今まで本当にありがとうございました。

大好きです。お元気で。


心より愛と感謝を込めて。

黒瀬雛子

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　送る宛のないそのメールを書き終えると、雛子はそっとパソコンを閉じた。




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以上で書籍未収録分のエピソードはほぼほぼ投稿できたと思います。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

旧題: 『あしながおじさまは元婚約者でした ～婚約破棄からの溺愛～』
は、皆様の応援がなければ書籍化することは出来ませんでした。

投稿中にいただいた感想やメッセージのやり取りは私の宝物です。
やり捨て朝哉の回では一緒に朝哉に怒り、雛子のために泣いてくださいました。
完結時には一緒に喜んでいただきました。

孤独な執筆作業の中で、皆様との交流が大きな励みになり、背中を押していただきました。

そうして気づけば商業デビュー1周年。
あっという間だったと自分でも驚いています。
本当にありがとうございました。

感謝の気持ちをこめて番外編を書かせていただきましたので、引き続きお楽しみいただければ幸いです。