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裏 あしながおじさまは元婚約者でした

決戦前夜の出来事

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書籍版ではカットされた、あしながおじさまの正体を告白する前の晩に起こっていた出来事です。
ヨーコが行動を起こした理由や流れもサイトと書籍では微妙に変わっています。


*・゜゚・*:.。..。.:* .。.・**・゜゚・*:. .。.:*・゜゚・*


 金曜日の夜、都内の某居酒屋では朝哉の壮行会が行われていた。

 壮行会と言っても、朝哉が何かの試合に出るのでも転勤するわけでもない。

 朝哉が雛子に秘密を打ち明けるための勢いづけ……とでもいうのだろうか。
 元々はヨーコの声掛けで『決戦前』の最終打ち合わせをすると連れ出されたのだが、いつの間にか朝哉への叱咤激励の会に変わっていたのだ。

 ちなみに場所を居酒屋に決めたのはヨーコだ。
 彼女はジャパニーズ居酒屋は世界最高のビストロだと日頃から豪語している。



 「あ~、っえ~!  マジで!」

 朝哉はテーブルに突っ伏して、本日何度目かの弱音を吐く。

「大丈夫ですって。俺が見てる限り、雛子さんは朝哉さんにラブラブです。あとは勇気を出してすべてを曝け出すのみです!」

 竹千代が朝哉のグラスに何杯目かのビールを注ぐと、ヨーコは酔いの回ったトロンとした目つきで「トモヤ、オマエ今度こそ逃げるなヨ!」と絡んでくる。

「もう逃げないよ、絶対に。だけど……」

 もしも雛子が『えっ、この人があしながおじさまなの!?』とあからさまにガッカリする顔を見せたら……自分はしばらくダメージから立ち直れないだろうな、と思う。

 明日はいよいよ決戦の日、Xデー。
 そう、『あしながおじさん』が雛子と対面する日なのだ。


 振られることはない……と思う。
 雛子は朝哉のことが好きだ。それは朝哉自身も確信できるし、ダメ押しで今週はアピールしまくった。

 火曜日の社内報のインタビューからはじまって、隙さえあれば『好き』だの『可愛い』だの気持ちを言葉に表すようにしたし、人気ひとけがないのを見計らっては抱き寄せたりキスしたりと、惜しみなく愛情表現を示してきた。

 それを雛子は嫌がらなかったし、むしろ頬を朱に染めて、時には欲情したような艶やかな表情まで浮かべていたように思う。
 朝哉はそのたびにすぐにでも襲いかかりたい衝動に駆られたけれど、正体を打ち明けるまではと必死で耐えたのだった。

 もちろん仕事ができる男アピールだって怠らなかったし、明日に備えて万事を尽くしたつもりだ。


「ヨーコ、あしながおじさんのことを話したあとは……ヨーコと俺の関係も言うからな」

 朝哉の留学先がNYUだったということは月曜日の時宗の話でバレてしまったが、そこでヨーコと知り合いだったことまでは知られていない。

 雛子は『私もNYUにいたのよ、すごい偶然!』と素直に驚いていたけれど、それが偶然ではなかったとわかれば、多かれ少なかれ不快に思うのは確実だ。
 要はヨーコを通して彼女の生活をずっと見張っていたということなのだから。

 オマケに今のマンションも朝哉と同じとなれば……。

「気味が悪いって思うだろうな」

 朝哉がポツリと零すと、いつもフォローを入れてくれる竹千代でさえ、「そうかもですね……」と黙りこみ、否定してくれなかった。
 

「No way! トンデモないヨ!」

 ヨーコが突然大声を出して、テーブルをバンッ! と叩く。

「トモヤはワタシのハッピー・ジャパニーズライフをブチコロス気ですかっ!」

 大好きな漫画と美味しい日本食と可愛い雛子に囲まれて充実した日本ライフをはじめたばかりなのに、雛子に嫌われたら元も子もない。私から雛子を奪う気かっ!
 ……とヨーコが凄い剣幕でまくしたてる。

「可愛いヒナコから醒めた目で見られたら、ワタシハもう一巻のオワリなのデス……」

 両目に人差し指をあてて、ヨヨヨ……と得意の泣き真似をはじめた。

「泣き真似したって無駄だぞ。俺は今度こそ雛子に全てを話すって決めたんだからな」

 朝哉は普段は付き合い程度しか飲まないビールをグイッと煽り、大きく溜息をつくとトイレに立った。

 その隙にヨーコはタケに語る。

「クソー! 朝哉はヘタレのくせにこういう時だけガンコなのデス! タケ、ワタシはピコン! と思いつきましたヨ」
「なっ……なんだよ」

「ヒナコの優しさにつけこみまショウ」
「はぁ?」

 口をあんぐりと開ける竹千代に向かってヨーコは自信満々で続けた。

「ヒナコは海のように深い愛情の持ち主なので、弱っている人を責めたりしないハズです。こうなったら酔ったトモヤに泣き落としさせまショウ」

「ちょっ、オマエ、それ……」

 弱り切った朝哉を雛子に見せ、『朝哉が深く悩んでいる』というアピールをしておけば、明日の本番で雛子は、『彼は自分のためにあんなに悩んでいたのだわ』と考えるに違いない。

 その流れで雛子にすべてを話した後で、ヨーコは『朝哉に泣きつかれ、彼の雛子を想う気持ちに同情し、協力した』と告げればいいだけだ。


「タケ、トモヤにどんどんアルコールを飲ませるのデス」

「えっ、俺は嫌だよ。朝哉さんあまり酒に強くないんだから、明日に備えて帰らせたほうがいいって」

「トモヤはヒナコの前では真性のヘタレ野郎デス。この調子じゃまた言えないかもしれない。オトコとオンナには酔った勢いも必要なのですヨ!」

 雛子のマンションの手配をした竹千代も同罪。それもいつかはバレるのだ。だったら泣き落としの勢いでまとめて言ってしまったほうがいい。

 そうヨーコの無理矢理な理論で言いくるめられ、竹千代は渋々うなずいたのだった。



「あ~、ヤバい。めちゃくちゃ酔った。そろそろ帰って明日に備えてセリフの復唱と精神統一するわ」

 席に戻って来た朝哉にヨーコは熱燗あつかんを勧める。

「まあまあ兄サン、一杯いかがデスカ?」
「ハハッ、おまえ芸者かよ」

「京都でヒナコと2人で芸者のカッコウしたいです。だからトモヤ、絶対にヒナコを捕まえておいてくださいヨ」
「芸者姿のヒナか……眩しすぎて直視できないかも……」

「ほらトモヤ、お猪口ちょこを持って。ワタシがお酒を注いだらオットットって言ってクダサイヨ」
「ハハッ、ヨーコおまえ、オットットってのをやりたいだけだろ」

 元々お酒をあまり飲まない朝哉はどんどん顔を赤くしていき、ウトウトしはじめる。



「……さあ、ヒナコに介抱してもらいましょう」

 テーブルに突っ伏した朝哉をタケと2人で車に乗せると、ヨーコが自分のバッグからスマホを取り出しヒナコの名前をタップした。

「あっ、ヒナコですか? トモヤがぐでんぐでんのドロドロなのデス。マンションの前まで来てクダサイ」



*・゜゚・*:.。..。.:*・**・゜゚・*:. .。.:*・゜゚・*

この後の流れは書籍版とほぼ同じなため、こちらでは割愛させていただきます。

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