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裏 あしながおじさまは元婚約者でした

白石工業 1

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「好きなの……ずっと朝哉のことが……」
「ヒナ……っ!」

 頬に押しつけられた朝哉の唇が涙を拭い、そしてそのまま唇に重なった。

 は……っと吐息を漏らせばその隙に舌が差しこまれ、歯列をなぞり、上顎を舐める。
 腰がゾクリと震えた。

 朝哉の体重がグッとのしかかり、抱き締められたまま畳に倒れこむ。
 熱情を孕んだ瞳が上からのぞきこみ、また唇が覆い被さる。

 ピチャッ……
 朝哉が顔の角度を変えるたびに唾液が混ざり合い、粘着質な音と荒い吐息が響き渡る。

「はっ……ヒナ……ヒナっ……」

 雛子の手を朝哉の手の平が包みこみ、指が絡まりあった。
 畳に縫いつけたまま更に身体が押しつけられると、雛子の下半身にゴリッ……と硬いものが触れる。

――あっ!

 それが朝哉のモノで、スーツの布地の下で既に勃ち上がっているのだとすぐに気づいた。

 6年前にたった一度だけの行為。
 それでもあの瞬間の激しい痛みとそのあとの快楽、そして多幸感は今でも鮮明に思いだせる。
 下半身がジワリと潤んできた。

 それを知ってか知らずか朝哉は呼吸を荒くして、硬くなったモノをグイグイと雛子の敏感な部分に押しつけてくる。

「はっ……雛子……雛子っ!」

 熱に浮かされたように夢中で腰を動かし、右手を雛子のスカートの裾からしのばせようとしたそのとき。


「お客様、失礼致します」

 木戸の向こうから遠慮がちに呼びかける女将おかみの声で2人の動きがピタッと止まり、次の瞬間にははじき合う磁石のようにバッと離れた。

「はい、どうぞ」

 朝哉の声を待ってゆっくりと開いた戸の内側には、掘りごたつで身を小さくして座っている雛子とすぐ近くでビシッと背筋をのばして正座している朝哉。

「社長様から伝言で御座います。先に社に戻っているから2人はゆっくり食べていきなさい。社内報のインタビューは明日に延期したから今日はこのまま白石工業の視察をしてくるように……と」

ーー白石工業!?

 雛子がハッとして朝哉の顔を見ると、朝哉は苦虫を噛み潰したような表情をしている。

「お肉の追加はされますか?」と聞かれて「いえ、もう結構です」と断りを入れると、雛子にデザートはいらないかと聞いてきた。

「いえ、私ももうこれで……」

 デザートよりも今は『白石工業』のほうが気になってそれどころではない。

 会計は会長が済ませてくれたとのことで、2人は残りの肉を慌てて食べ終えるとコーヒーも飲まずに店を後にした。


 駐車場では竹千代が車のドアを開けて2人を出迎えた。

「社長からこのまま『白石工業』に向かうよう仰せつかりましたが」
「ああ、聞いている。その通りにしてくれ」

「……良いのですか?」
「事情が変わった。情報の行き違いがあって色々ダダ漏れになった」

 朝哉がそこまで言うと、竹千代がゆっくりと車を発進しながら「なるほど……」とミラーで後部座席の雛子を盗み見る。

「要はバレたってことですか」
「……まあ、そういうことだ」

 その様子を見るに、竹千代も朝哉の事情を知っていたらしい。

「竹千代さんも朝哉さんと私の昔のことをご存知だったんですか?」

「はい、じつは私がマンションを……」
「あ~、タケ! 詳しくは俺からヒナに追々話していくから……!」

 2人の親しげな様子から、竹千代はただの運転手ではないのだと悟る。
 そして、どうも朝哉にはまだ内緒にしていることがあるような気がする。

――けれど今はまず、白石工業の件だ。

 クインパスに買収された白石工業と白石メディカ。
 雛子もいるこのタイミングで社長が視察に行くように言ったということは、何か意味があるのだろう。

 雛子は姿勢を正すと、隣にいる朝哉を緊張した面持ちで見つめるのだった。

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