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【番外編】

大河と茜の話 (1)

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『目つきが鋭い気の強そうな女』

 それが、大河が茜を初めて見た時の第一印象だった。
 茜は女子にしては背が高くて164センチくらいあったから、高校の入学式でも頭が飛び出していて、なんとなく目についた。

 教室に行ったら、その気の強そうな女がいてドキンとする。
 机の上に貼られた名前の紙を見て、大河は初めて彼女の名を知った。
『津田茜』

 出席番号順に男女交互に縦並びの教室で、2人は隣同士の席だった。


「よっ! ヨロシクな!」

 天然モノの愛嬌全開で右手を上げて挨拶したけれど、茜はそっけない。

「……よろしく」

 目も合わせないのにはちょっとムカッとしたけれど、いきなり女子に怒鳴りつけるほどの暴君でもない。
 なんとなく気詰まりを感じながら、大河の高校生活はスタートした。


 ある日の夜、近所のコンビニに『からあげ棒』を買いに行ったら、ゴミ箱の前で緑の制服を着た店員がガラの悪そうな2人組の女子高生に因縁をつけられていた。

ーーあの女子高生たちはうちの学校の生徒じゃないな……。

 ジェントルメンの大河(自称)としては見て見ぬ振りも出来ず、颯爽と駆け寄って店員と女子高生の間に割り込んで行く。

「おいお前ら! 店員さんに迷惑かけてんじゃねえよ! それに2対1で卑怯だろうが!」

「はぁ?お前に関係ないだろうがっ!」

 女子高生がガンを飛ばして来るのにも怯まず背中に店員を庇っていると、

「アンタなんなの? 邪魔なんだけど」

 後ろから低い声が聞こえて、ハッと振り向いた。

ーーえっ?!

 そこには緑のダサい制服を着た津田茜がいた。

ーーええっ?!



「……いい? もう2度とこんな事するんじゃないよ。こんな事で親の気を引いたって、本当のあんたを見てもらえないんだからね? 」

 ショボンと肩を落とす女子2人を前に、茜は腕組みをして懇々と語っている。
 女子高生に因縁をつけられているように見えたのは、実は万引き女子高生に説教しているだけだったらしい。

「愚痴りたくなったらいつでも店においで。私が話を聞いてやる。但し万引きはダメだ。今度やったら容赦しないからね! 」

 今回だけは自分が支払いを済ませておくから……茜はそう言って2人を見送ると、茫然と立ち尽くしている大河を一瞥して、「アンタ邪魔」と短く呟いただけで店内に戻って行った。

 大河が彼女を追いかけるように店に入り、カゴに適当なジュースやお菓子を放り込んでレジに向かうと、茜はチラッと見ただけで精算を始めた。

「840円になります」
「あっ……あのっ、『からあげ棒』を2本!」

 本当はもうからあげ棒とかどうでも良かったけれど、なんだかこのまま帰りたくなくて咄嗟に口に出していた。

「ちょっと、そういうのは精算する前に言いなよ」

 罵りながらもパパッと要領良く紙の袋に入れて手渡してくれた。
 カッコいい!……と思った。


「よっ、おはよう! 昨日はさ……」
「うるさい」

 翌日の教室で、昨日のことをネタにして話が出来るかと思ったら、すぐに遮られてしまった。
 何故かは知らないがバイトのことに触れられたくなさそうだ。
 今日こそは話が弾むんじゃないかという期待が裏切られてガックリする。

 何故こんなにガックリ来るのかは分からない。
 分からないけれど、朝学校に来るまでのワクワクしていた気持ちが一瞬で萎んだのは確かだった。


 その夜、昨日と同じ時間にコンビニに行ったら、津田茜はやはり緑色のダサい制服を着て、オモテで中学生らしい女の子に何か説教していた。

「先輩、どうして卒業しちゃったんですか?! 先輩がいないと寂しいです!」
「中学を卒業したって繋がりが切れるわけじゃないよ。メールでも電話でもしておいで。 ただしバイト先は勘弁して。生活が掛かってるんで」

 シクシクと泣いている女子の肩をポンポンと叩いて店内に戻って行くのを遠くで見届けてから、大河は何食わぬ顔でお店に入る。

「いらっしゃいませ~、あっ……」

 大河を見た途端にお客様向けスマイルを消して、茜がギロッと睨みつけて来た。

「こんばんは。バイトは毎晩入ってるの?」
「買い物の用が無いならレジに並ばないでくれる?」

「あっ……からあげ棒2本下さい」
「フッ……よっぽどからあげ棒が好きなのね」

 彼女が頬を緩めたのはほんの一瞬で、すぐにツンとした表情に戻ってしまったけれど、なんだか四つ葉のクローバーを見つけたみたくレアでラッキーなモノを拝めた気がして、その日は家に帰ってからも胸がワクワクドキドキしてなかなか眠れなかった。

 それ以来、大河はしょっちゅう茜のバイト先に寄ってはからあげ棒2本を買って帰るのがお約束になった。

「またからあげ棒?」
「うん、好物なんだよね」

 そんな短い会話をするためだけに、せっせと通い続けた。


 大河は持ち前の社交性を発揮してすぐにクラスの中心的人物になり、特進クラスに通っているモテモテ天馬と親友で一緒に登下校しているというのも手伝って、あっという間に女子に取り囲まれるようになった。

 まだ恋愛感情というのは良く分からなかったけれど、学校の女子から誘われたらデートらしきものに行ったこともあるし、友達とみんなでカラオケやゲーセンに行ったりもした。
 何かと『かぜはな』に行きたがる天馬の提案で、天馬と一緒の時は大抵みんなで『かぜはな』でお喋りしたり勉強会をしたりして過ごしていた。


「なあ、これからみんなでカラオケに行くんだけど、一緒に行かね?」

 たまに茜にも声を掛けてみたけど、返事はいつでもNOだった。
 なんだか自分から壁を作っているようで気になるけど、本人には聞けない。


 ある日、友人たちとカラオケに行った時に、茜と同中だった女子にさりげなく話題を振ってみた。

「ああ、津田さん? あの人には関わらない方がいいよ。たちの悪い男がついてるから」

ーーえっ、マジか!

 バイトばかりで男っ気が無いと思っていたのに、彼氏がいたのかとショックを受ける。
 何故こんなにショックなのかは分からないけれど、ガーン!と後頭部を鈍器で殴られたくらいの結構な衝撃だった。
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