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131、両親への手紙
しおりを挟む『ここで新婦の楓花様より御両親へ、感謝を込めたメッセージが御座います』
司会者の言葉で、いよいよだ……と胸に手をあてる。席から立って両親と向かい合うと、足が震えているのが分かった。
緊張で指をプルプルさせながら手紙を開いていると、腰にそっと手が回されて、ポン、ポン、と優しく叩かれた。
「天馬……」
目が合うと、優しく見守る猫のような瞳が頷いて、『大丈夫だ』と言ってくれている。
ーーそうだ、私はこれからこの愛する人と一緒になるんだ。だから大丈夫だよ、安心してね……それを伝えるため、今までの感謝の気持ちを込めて、両親にちゃんと自分の言葉で伝えるんだ……。
スウッと胸いっぱいに息を吸い込んでから、楓花は長い時間をかけて何度も書き直した両親への手紙を読み上げた。
「お父さん、お母さん、23年間育てていただき、どうもありがとうございました」
出だしは声が震えた上に掠れてしまった。だけど後ろに回された手の力強さに押されて、続く言葉を口にすることが出来た。
「私が幼い頃は、ヤンチャでおてんばな女の子でした。7歳年上の兄やその親友の天馬さんと同じようになりたくて、お母さんが買って来てくれたスカートには見向きもせず、ショートヘアーにオーバーオールで男の子みたいに振る舞っていました。
兄たちの真似をして、高い鉄棒にぶら下がって手を滑らせては鼻血を出し、木登りの途中でズリ落ちて、膝と手を真っ赤に擦り剥いては号泣し、挙げ句の果てには兄たちの喧嘩の現場に自分から飛び込んで大怪我をし、麻酔が嫌だ、注射が嫌だと大暴れして、何度もお父さんとお母さんに心配を掛けましたね」
ここまで読み上げて隣をチラリと見上げると、喧嘩のくだりで苦笑しながらも、天馬が頷いて先を促してくれた。
天馬はこの手紙の内容を知らない。
『これでどうかな?』
そう言ってアドバイスを求めたけれど、
『本番までの楽しみに読まないでおくよ。楓花の手紙なんだから、楓花がいいと思えばそれが正解だ』
そう言ってもらえたから、最初の気持ちを大切にしようと思って、それ以上は手紙の書き直しをしなかった。
楓花もうんと頷き返して続きを読み始める。
「東京で就職したものの、職場でうまくいかなくて引き籠もっていた私を、お母さんが連れ戻しに来てくれました。失意のまま、何の目標もなく帰って来た私を、家族のみんなは責めることも問いただすこともせずに、暖かく迎えてくれました。そして……天馬さんと再会することが出来ました」
天馬と目を合わせて微笑み合うと、会場の何処かから「よっ!」という掛け声やヒュッと口笛が飛ぶ。
「あの時お母さんが連れ戻しに来てくれなければ、今の私はありませんでした。そして、天馬さんに背中を押してもらえなければ、また保育士として働こうとは思えませんでした。私は皆さんの優しさに支えられて、この場に立てています。
……お父さん、お母さん、いっぱい心配かけてごめんなさい。
だけど私はもう大丈夫。どんなに辛いことがあっても、もう立ち止まったり逃げたりはしません。ここにいる天馬さんと手を繋いで一緒に乗り越えていきます。
だから今度は……これからは、今までのぶん、沢山親孝行をさせて下さいね。
今まで本当に……本当にありがとうございました。そしてこれからも、よろしくお願いします」
手紙を閉じると、自然に母親と抱き合っていた。
会場が拍手に包まれ、茜がハンカチを目尻にあてる。その隣では大河が鼻水を垂らしながら号泣していた。
『それでは本日の結びに新郎の天馬様より皆様への感謝のご挨拶が御座います』
楓花に引き続き、今度は天馬の前にマイクが向けられた。
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