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130、花嫁になる日 (2) そしてお兄ちゃん!

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「お兄ちゃん……!」

 新婦席で小さく呟いた声が聞こえた訳でもないだろうに、大河はスタンドマイクの前に立つと、楓花の顔を見てニッと白い歯を見せた。

 黒いタキシードでビシッとキメた大河が内ポケットから手紙を取り出す。

ーーうわっ、準備万端じゃん!

 会場の注目の中、そして天馬と楓花が緊張の面持ちで見つめる中で、大河は「んっ」と一つ咳払いをしてから口を開いた。

「ただいまご紹介に預かりました月白大河です」

 満面の笑みの大河とは対照的に、天馬と楓花は強張った表情で頭を下げる。

「俺は大河とは幼馴染でご近所で同級生で、生まれた時から、いや、母親のお腹にいた時からつるんできた親友です。十代の頃には一緒にヤンチャもしたし、親に言えないようなアレやコレやも話して来た仲でした。……なっ、天馬?」

 急に話をふられて天馬が苦笑しながら頷く。

「楓花は7歳下の俺の妹で……それこそコイツが生まれて来た時から俺はコイツを見てきて……俺とつるんでいた天馬も一緒になって楓花の世話をして来ました。泣いたら交代で抱いてあやしたり、哺乳瓶でミルクを飲ませたり。おむつ交換だってしたんですよ」

 会場から笑い声や「おおっ」という声があがる。

「楓花はいつでもどこでも俺たちの後をついて来て、天馬は楓花を『弟分だ』なんて言って、『颯太』なんて呼んでいて……だから俺は、俺にとって楓花が可愛い妹であるように、天馬にとっても可愛い弟か妹みたいなもんだって思ってた。この2人が想いあってるなんて、ずっと気付かなかったんだ」

 そこまで言って、手に持っていた手紙を畳んでしまった。

「俺はこの2人が付き合いだしたって聞いて最初は信じられなかったし、すぐに猛反対しました。だって楓花が苦労するのが目に見えてたから」

 その言葉に会場がザワつきだす。

「天馬は昔からモテモテで、何処に行っても女が群がって来て……コイツが相手にしなくたって女同士で勝手にいがみ合って喧嘩を始めるし、それこそイジメみたいなのに遭って泣いてる女子も見て来たんだ。実際それで関係ない喧嘩に巻き込まれて楓花が怪我をしたこともあった。そうだったよな?」

 険しい表情で言われて、隣で天馬が頷くのが見えた。

「天馬はいい奴だ。だけどコイツといる限り楓花は心が休まることはないし、絶対に泣きを見る。だって天馬はカッコよくてお医者さんで、どう考えたってコレからだってモテ続けるに決まってる……そんなとこに楓花をやれるかって……そう思ってた」

 だけどさ……と言葉を区切ってから会場のみんなを見渡す。

「こんなモテモテでイケイケで俺様の天馬が、俺に頭を下げに来たんですよ。『一生大事にするから、絶対に守るから、どうか妹さんを下さい』って」

ーーえっ?!

 思わず天馬を見ると、彼はチッと小さく舌打ちして、「それを言うか?」と呟いている。

「『楓花は家族のことを大切に想っているから、俺だって楓花の家族を大切にしたい。楓花の彼氏として、そして30年来のお前の親友として……プロポーズをする前に、大河の許しが欲しいんだ』………って」


「えっ、嘘……」
「くそっ、大河のヤロウ……」

 天馬は苦虫を噛み潰したような顔をしていたけれど、楓花と目が合うと、首まで真っ赤にして目を逸らす。


「『楓花は平気な顔をしているけれど、大河にも祝福して欲しいって思ってるに決まってるんだ。お願いだから笑顔で送り出してやってくれないか?』……そんな風に真っ直ぐ目を見て言われたら、男の俺でも惚れちゃいますよね」

 最初は何を言っているんだと戸惑っていた招待客たちも、話の全容が見えてくるに連れ、大河のスピーチを好意的に受け止め始めたようだ。
 感心して「うんうん」と頷いたり、笑顔を見せたりしている。

「楓花、天馬、頭ごなしに『反対だ!』なんて言ってごめんな。たぶん俺は、嫉妬してたんだ。ずっと3人一緒だったのに……楓花は俺の妹で、天馬は俺の親友だったはずなのに、俺に内緒でお互いを好きになってたなんて……なんでもっと早く言ってくれなかったんだよ……って、寂しかっただけなんだ」

 こちらをジッと見つめる大河と目が合って、楓花の瞳が潤み始める。

ーーお兄ちゃん……。

「今は心から言えるよ。……天馬、楓花、結婚おめでとう。俺の自慢の妹と自慢の親友なんだ。2人ならきっと支え合って幸せな家庭を築いて行ける。俺はそう確信しているよ。本当におめでとう!」

 大河が天馬の元に歩み寄り固い握手を交わすと、ワッ……と歓声が上がり、満場の拍手に包まれる。
 天馬と楓花も立ち上がってお辞儀をした。

「お兄ちゃん……」

 頬を伝う涙を、天馬がそっとナプキンで拭ってくれる。

「なんだかんだ言って、素直でいい奴だよな……」
「うん……」

ーーお兄ちゃん、ありがとう……。


 そう心の中で呟いた時、席に戻ろうとした大河が足を止めて振り返った。

「あっ、楓花、天馬の女関係で困ったらいつでも相談しに来いよ! 天馬、浮気は絶対にダメだけど、もしも楓花にバレそうになったらアリバイ作りに協力くらいはしてやるからな! 2人ともいつでも俺に頼って来い!」

ーーはぁ?

 スンと涙が引っ込んだ。

「大河、俺は楓花一筋なんだよ!」
「ちょっと、お兄ちゃん!」

「大河っ!ちょっとおいで!」

 テーブルに手をついてガタンと立ち上がった茜が、大河の襟首を掴んでズルズルと場外に引っ張って行った。

 この後5分ほどして会場に戻って来た大河の頬には真っ赤な手型がついており、これ以降、披露宴会場でも2次会会場でも1滴たりともアルコールを飲ませてはもらえなかった。

 お祝いの席で禁句を連発した罰として、その後1ヶ月お弁当抜きとお小遣い減額、そしてトイレ掃除の刑になったのは言うまでもない。
 2度目のお寺修行の日は近い……。
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