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【幕間】辻、心のツッコミ (1)

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「なあ、お前って彼女と長いんだろ? プロポーズとか考えてんの?」


ーーほら来たっ!

 昼休憩の時間に『奢ってやるよ』と部長室に連れ込まれた時からそうなんじゃないかとは思っていた。

『好きなのを頼めよ。極上ちらしか?』と寿司のメニューを手渡された時に確信した。

ーー天馬先生、またしても恋愛相談ですね。そうなんですね!


 俺は知っている。『天馬先生の質問の裏に楓花ちゃんアリ』だ。


『お前って彼女いるの?』

『お前って彼女と喧嘩したことってある?』

『泣かせた相手と、どうしたら早く仲直り出来る?』

『辻ってさ、彼女と付き合ってどれくらいで同棲を始めたの?』

 天馬先生が疑問形で話しかけて来る時は、ほぼ100パーセントの確率で彼女との付き合いに関する相談だ。


 天馬先生は素直じゃない。ちゃんと聞いてくれれば何でも速攻で教えてあげるのに、いちいち間に質問を挟んでくる。

 最初は、俺のプライベートに興味があるのかな? 俺ってめちゃくちゃ懐かれてね?
……なんて思っていたけれど、話を聞いているうちに、鋭い俺はピコン!と気付いてしまった。

ーーこれって恋愛相談じゃん……。

 何が従兄弟だよ! どこの中高生の言い訳だよっ!

ーーえっ、マジですか……。

 高身長、高収入、高学歴。
 顔も中身も完璧で、女なんて選び放題の超絶モテ男が、実は恋愛慣れしていない……だと?!



 天馬先生は2コ上の先輩で、俺が大学に入学した時には既に有名人だった。
 まあ、あの見かけであの優秀さだから当然だろうな。

 同じく大学の有名人で、入学早々ミスにも選ばれたという水瀬椿先輩とはいつもつるんでいて、あの2人が並んで歩いていると凄い迫力で圧巻だった。
『絵になる2人』っていうのは、ああいう事を言うんだろうな。

 天馬先輩の周囲には常に人が集まっていて、彼が動くと人の波も視線もザザッと移動した。
 どこにいても目立っていたしみんなの憧れの的だったけれど、俺たち後輩が気軽に話しかけられるような人じゃ無かったし、もちろん俺も遠巻きに見つめているだけしか出来なくて、その頃はただの後輩で、しがないモブの1人だったんだ。


 医学部卒業後も大学に残り研修医生活をスタートさせた俺は、そこで天馬先輩と再会した。
 天馬先輩は立派な天馬先生になっていて、そこでも彼はやっぱり有名人だった。

『柊もうで』なんて言葉を知ったのもその頃だ。
 優秀な彼を自分の医局に引き込もうと、各科の医局長やトップクラスが彼のいる研修医室に連日通い詰め、寿司だ焼肉だ銀座のクラブだと接待攻勢を仕掛け、火花を散らしあっていたのだと言う。

 そんな天馬先生が結局選んだのは消化器外科だった。まあ、実家のことを考えたらそれが自然の流れだろうな。
 消化器外科の新人だった天馬先生と各科巡回中の研修医として再会した俺は、今度はただのモブじゃ無かった。

『大学の後輩』を武器に持ち前の人懐っこさを発揮した俺は、消化器外科の飲み会や勉強会に積極的に顔を出して、一緒に飲みに連れて行ってもらうくらいの仲にまで昇進を遂げた。
 側で見ている天馬先生は、立ち居振る舞いがスムーズで、仕事の出来る男で、寄ってくる女のかわし方も上手くて……同性から見ても惚れぼれするくらいで……。

ーー天馬先生めちゃくちゃカッコいい!マジでリスペクトだ!

 俺は天馬先生のいる消化器外科に進むと決めた。
 だけど俺が彼と一緒に働くことは叶わなかったんだ。

ーーえっ……嘘だろ?!

 天馬先生が退局し、大学病院を辞めた。




*・゜゚・*:.。..。*・:.。. .。.:*・゜゚・**・゜゚・*:.。..。.:**:.・*

 ちょいちょい登場する辻医師目線のお話です。
 彼から見た病院での天馬や、天馬と椿の事を書きたくなって急遽追加しました。
 読んでも読まなくても本編にはあまり関係ありません。
 ちよ様、ヒントをいただきありがとうございました。
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