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<< デビュー1周年記念番外編>>
無二の親友の話 side大志 (4)
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冬馬とともに玄関に入るとそのまま迷わずダイニングルームに向かう。
オープンスペースのLDKだから、家族は大抵そこに集まっている。
揚げ物の香ばしい匂い。母さんはちゃんとご馳走を用意してくれているらしい。
ドアを開けてLDKの部屋に足を踏み入れると、ソファーの背もたれから桜子がぴょこんと顔を出した。
「お帰りなさい!」
こちらを見上げた桜子の視線が、俺の後ろに立つ冬馬に向けられた。
その瞬間に笑顔がスッと曇り困惑顔になる。
――あっ、ちょっとマズかったかも。
男性が苦手な桜子も小5の今では随分落ち着いてきていて、父親の仕事関係者や友人が家に来ても、俺や母さんが一緒なら普通に会話できるようになっていた。
冬馬は俺と同じ歳の若者だし大声で騒ぐようなヤツじゃないから大丈夫だと思っていたが……時期尚早だったのかもしれない。
俺が浮かれていた自分を反省している間に、冬馬はキッチンから顔を出した母さんと「こんばんは、 お邪魔します」、「いらっしゃい」と挨拶を交わしている。
――そうだ、桜子にも冬馬を紹介しないと……。
「桜子……っ!」
大丈夫かなと心配しつつ俺がもう一度桜子のほうを振り返ると、冬馬はすでにスタスタとソファーの前まで歩き出していた。
「あっ、おい、とう……!」
「初めまして、 桜子ちゃんだよね。 大志からいつも聞かされてるよ、『俺の妹は世界一可愛い』って」
床に視線を移して固まる桜子の前に、冬馬の右手が差し出される。
桜子が「えっ!?」と顔を上げ、その瞳にギリシャ彫刻のような美しい顔が映り込んだ。
「噂通り本当に可愛い子だった。 よろしくね、 桜子ちゃん」
冬馬が目を細めて完璧な王子様スマイルを浮かべ、桜子がアイツの手を握り返す。
その頬が薄っすらと赤く染まって……。
――あっ、桜子が落ちた。
それから数年後、俺はこの瞬間感じた胸の痛みや動揺の意味を、嫌というほど思い知ることになる。
そしてこの2人の恋の行方も。
悔しいけれど……多分、きっと、そういう運命だったんだ。
Fin
*・゜゚・*:.。..。.:* .。・**・゜゚・*:. .。.:*・゜゚・*
アルファポリス読者の皆様、お久しぶりです。田沢みんです。
こちらもお久しぶりの『仮初めの花嫁』番外編、大志と冬馬の出会いと、冬馬を桜子に引き合わせたあの運命の場面までを大志目線で語ってもらいました。
毎回ですが、このお話の番外編を書くときだけは胸が苦しくて涙が出てしまいます。
本当に思い入れの深い作品です。
私事ですが、本日11月12日で商業デビュー1周年を迎えさせていただくことが出来ました。
これもひとえにアルファポリス と『兄の遺言』(←ここはあえて旧題で呼ばせてください)、そして兄の遺言を読んで下さった皆様のおかげです。
恩返しと言うには些少ですが、ただいま1周年感謝企画としてTwitter上でサイン本や書き下ろしSSプレゼントを行っております。
全員に贈らせていただけなくて申し訳ないのですが、近況ボードのほうに応募要項を書かせていただきましたので、ご興味のある方は覗いていただければと思います。
これでまたしばらくはこのお話から離れますが、いずれ機会があれば番外編の投稿をしたいと思っています。
その際にはお付き合いいただければ幸いです。
本当に本当にありがとうございました。
2021年11月12日
田沢みん拝
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