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<< 特別番外編 >>
プレゼントを買いに (2) side冬馬
しおりを挟む『ねえ、今忙しい? 電話してもいいかしら』
『週末に一緒に参考書を見に行かない?』
『勉強は捗ってる ? 何か聞きたいことは無い ? 』
『おはよう』
『おやすみなさい!』
ーーめんどくさい……
メアドを交換してからというもの、山崎さんから頻繁にメッセージが送られて来るようになった。
最初のやり取りで電話番号を聞かれたから、メールで十分なのにな……と思いつつも教えたら、すぐに電話が掛かって来た。
だけど受験のアドバイスはほんの数分だけで、あとは全く興味のない世間話に長々と付き合わされて。
そんな事に時間を費やしたくないから、悪いけど次から電話はナシでと断った。
週末はバイトで忙しいし、参考書はお勧めを教えてくれたら時間のある時に自分1人で買いに行ける。
朝晩の挨拶だって、正直言うと迷惑だ。
メッセージが届けば目につくし、知らん顔も出来ないから返事をしなくてはいけない。するとまたすぐに返事が返って来る。こんなのは時間の無駄でしか無い。
『いつもアドバイスをありがとう。ですが出来るだけ勉強に集中したいので、メッセージは用事がある時だけでお願いします』
そう返事をしたら、ようやく朝晩の挨拶メールが無くなった。
それでも俺の勉強の進捗具合を聞いて来たり、アドバイスのメールはしょっちゅう来る。
色々教えてもらっておいて何だけど、そんなの一度で済ませてくれたらいいのに。
空気が読めない人なのかな……と思った。
そして同時に、なんとなく予想もついていた。
たぶん彼女は俺に好意を持っている。
自惚れているとか調子に乗っているとかじゃなくて、単純に過去の体験に基づく経験則だ。
今は恋愛どころじゃない。
山崎さんとメアドを交換したのもロースクールの情報を得るためであって、彼女個人には興味が無い。
むしろこうしてメール攻撃される事で時間と集中力をゴリゴリ削られて、勉強には逆効果になっている気がする。
ーー大志の知り合いだから遠慮してたけど、もう少しハッキリ言っておくか。
『アドバイス、大変助かりました。あとは自力で頑張れると思います。今までどうもありがとうございました』
それでやっと、メール攻撃から解放された。
週末、大志が家族のクリスマスプレゼントを買いに行くと言うから、俺も一緒に行かせてもらうことにした。
『お前がショッピングとか珍しいな』
アイツがそう言うのも肯ける。
俺は買い物は必要最低限でいいという人間で、人混みに出掛けるのは好きな方じゃない。週末なんて、尚更だ。
だけど今回は理由があった。
桜子ちゃんのクリスマスプレゼントを選ぶという一大イベントが待っている。
八神家のクリスマスに招待されるようになって3年目。今まで2年連続で桜子ちゃんに赤い長靴入りのお菓子を買っていた。
だけど中学生になった女子に子供騙しのお菓子はマズいだろう。そういうのに無頓着な俺だって、それくらいは察しがつく。
今どきの女子中学生の好みなんて全く見当がつかないけれど……せっかくすぐ近くに彼女のお兄様がいるんだ。そんなのアドバイスをもらうに決まってるだろ ?
「冬馬、待たせたな」
「おう……って……山崎さん !? 」
当日、待ち合わせ場所に少しだけ遅れて現れた大志は、なんと山崎さんを伴っていた。
「ああ、彼女も買い物したいって言うからさ。いいだろ ? 」
「日野くん、こんにちは。御一緒してもいいかしら?」
「あっ、うん……」
ここまで来ておいて、今更『いいだろ』も『いいかしら』も無いだろうと思いつつ、3人で並んで歩き出す。山崎さんが真ん中だ。
ーーったく大志、何を考えてるんだよ!
後で絶対に追求してやろう……と思った。
大型ショッピングモールはクリスマス前ということもあって、大勢の人で賑わっていた。
大志が最初に桜子ちゃんのプレゼントを買いたいと言うので、まずは雑貨の店に向かう。
大志がアクセサリーコーナーに行っている間に店内をキョロキョロ見回していると、丸い回転式の飾り棚にズラリとぶら下がっている手袋が目についた。
ーー手袋か……
これならそんなに嵩張らないし、いくつあっても困らないだろう。
回転棚をグルグル回して眺めていたら、白いミトンの手袋を発見した。モコモコしていて、手首の辺りにチェックのリボンが付いている。
これを身に付けた彼女の姿を想像してみる。
ーーうん、悪くない。
「なあ大志、桜子ちゃんにコレはどうかな?」
目の前に真っ白いミトンの手袋を掲げて見せたら、大志は首を傾げて考える。
「ああ、手袋か……それもいいけど、俺は財布を贈ろうかと思ってて……」
「違う、俺からのプレゼントにどうかって、兄のお前に相談してるんだ」
途端にギョッとした顔。
「お前が……桜子に ? そんなの別にいいって ! お前いつも長靴みたいなのに入ったお菓子の詰め合わせを持ってきてたじゃん。今年もそれでいいって ! 」
顔の前で手のひらをブンブン振って否定された。だけどそれじゃ俺が嫌なんだ。
遠慮しているのかハッキリ答えてくれない大志に代わって山崎さんに聞いてみる。
こういうのはたぶん女子の方が詳しいだろう。
「ねえ山崎さん、女の子ってミトンと5本指のとどっちが好きなの ? 」
「そうね、女子中学生なら実用性よりも可愛さ重視だから、ミトンでいいんじゃないかしら」
「そうか、ありがとう」
そうしている間にも大志は目的の品を見つけたようで、「あっ、これだ、これ」と、それを手にしてあっという間にレジに向かう。
リボンのモチーフが付いた白い長財布は中高生に人気のカジュアルブランドで、以前から桜子ちゃんが欲しがっていたのだと言う。
さすが兄妹。好みを知り尽くしているのが羨ましい。
ーーまあ、だからこそ今日こうしてくっついて来たわけだけど。
俺は結局ミトンの手袋に決め、大志について列に並んだ。
「冬馬、お前本当にそれ買うの ? マジでプレゼントとか気にしなくていいんだぞ ? 今年もお菓子でいいって」
「いや、流石にそれは無いだろ」
そんな言い合いを続けながらレジの順番が来て、俺たちは目的の買い物を済ませた。
新しいピアスを買いたいと言う山崎さんに付き合って、次はアクセサリーの店に行くことになった。
「日野くんが選んでくれたら嬉しいんだけど」
俺をチロッと見ながら言われたけれど、生憎そういうのには詳しくない。
だったら絶対に大志の方が適任だ。アイツに任せてベンチで待っていようかと思っていた矢先、大志のスマホが鳴り出した。
俺は知っている。この着信音は桜子ちゃんだ。
ハッとして耳を澄ませる。
「ん ? 母さんたちへのクリスマスプレゼントを選んでたんだ。お前も意見があったら言っとけよ……ああ、それじゃ、一緒に選ぶ ? 」
優しくて甘ったるい声。目尻の下がった嬉しそうな表情。桜子ちゃん相手だと、大志はいつもこんな感じだ。
一緒に選ぶって……それじゃあ今から桜子ちゃんがこっちに来るのか ?
ちょっとウキウキする。
「ちょっと待て、お前だけで電車は危険だ。俺が一旦帰るから、それから一緒に出掛けよう。……えっ、絶対に駄目だ!家で待ってろ!絶対だぞ!」
ーーえっ !?
大志は電話を切ると申し訳なさそうに俺と山崎さんを見る。
「あ~……あのさ、俺は妹と買い物に行くことにしたんで、ここで抜けるわ」
「えっ、桜子ちゃん ? 」
「そう。アイツ電車で来るって言うけど危険だから迎えに行く。たぶんここには戻らず近場の店に行くと思うから、お前たちとは別行動ってことで。じゃあな!」
「あっ、おい、大志!」
言うが早いか、アイツはもう振り向きもせず、エレベーターに向かって一目散に駆けて行ってしまった。
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