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1、John Winstonへの手紙

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「ジョン、日本からあなた宛ての手紙が来てるわよ。トウマ・ヒノ……知ってる?」

 自宅の書斎で読書をしていたら、ドアをノックして妻が顔を覗かせた。
 手には大きめの角形封筒を持っている。

「トウマ?……ああ」

 日本人の名前は俺には覚えにくく、それが『トウマ』という名前だったのかは正直ぼんやりとしか記憶にない。
 だけど、その名を口にしていた男のことならよく覚えている。
 いや、鮮烈な印象として今も俺の中に焼き付いている。

 タイシ・ヤガミ

 俺が両親と妻とリンカーン大統領の次に尊敬する人物で、俺の唯一の日本人の親友。


 手渡された封筒を開封すると、中から更に2通の手紙らしき封筒が出て来た。

 1通がトウマ・ヒノから。
 もう1通がタイシ・ヤガミから。

ーーああ、そうか……。

 ある予感を胸に、俺はまず差出人の方から開封し、その文面に目を通す。


----------------------------------

 Dear Dr. Winston,

 こんにちは。突然お手紙差し上げることをお許し下さい。

 私は八神大志の親友で弁護士事務所のパートナーでもあり、今回彼の代理人となりました、日野冬馬と申します。

 今月、5月6日に大志が31歳の短い生涯を終えました。
 彼は生前ボストンであなたから受けた恩に大変感謝しており、又、あなたのことを心から尊敬していました。

 大志はあなた宛ての手紙を遺しており、自分の死後にこの手紙をあなたに送るようにと、私に預けておりました。

 大志のあなたへの最期の言葉です。どうか受け取ってやって下さい。


Best Regards,


 5月8日

 日野冬馬


----------------------------------



「Damn it! (くそっ!)」

 思わず両手で顔を覆って天を仰いだ。

「あなた、何だったの?」
「タイシが……サクラの兄が亡くなった」

「まあ、なんてこと……」

 口を押さえて絶句したメアリーにMr.ヒノからの手紙を渡す。

「悪いが……しばらく1人にしてもらえないだろうか」

 俺がそう声を振り絞ると、彼女は心中を察して静かにドアを閉めて出て行った。

 俺はもう1通の……俺の心の友の手紙を開封する。

 真っ白い便箋に、美しい筆記体で書かれた右肩上がりの英語の文字。
 途中で微妙に字の太さが変わったり乱れたりしているのは、たぶん何回かに分けて書いたからだろう。
 きっと彼は力の入らなくなった指先で、痛みに耐えながら文字を綴ってくれたに違いない。

 俺は背筋を伸ばして、彼の俺への遺言に目を通した。
 
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