上 下
44 / 177
<< 妹と親友への遺言 >> side 大志

19、山崎さん事件 (2)

しおりを挟む

「ねえ大志、日野くんって彼女いるの?」

 冬休みが目前に近付いた12月中旬。友達繋がりで知り合った大学の先輩、京子さんが、おもむろに聞いてきた。

「いや、いない」

 冬馬は高2で付き合った塾講師に懲りてから彼女を作っていない。断言出来る。何故ならバイトが無い日は俺とつるんで俺の家に入り浸ってばかりいるから。

「なに?先輩って冬馬に興味あるの?」
「私じゃなくて親友がね。会ったこと無かったっけ? 山崎ゆかりって、綺麗系の子」

「う~ん……写真とかある?」

 京子さんがスマホを開いて見せてくれたのは、確かに綺麗なお姉さん系の美人。
 清楚系が好みのヤツなら大好物なんじゃないだろうか。

「この人って……ミス法学部じゃなかった?」

「そう。2年生の時にね。綺麗でしょ? 彼女が卒業前に日野くんに告白したいけど、勇気が無いんだって。彼って大志や男友達とベッタリで付け入る隙無しって感じじゃない? それに女の子をバッサバッサと振ってるし」

「まあね。アイツは勤労青年だから忙しくて……」

 そこまで言ったところで、ふと思いついた。

ーー彼女が出来れば桜子に構っている暇が無くなる……よな……。

 自分の考えにドス黒いものを感じて苦い感情が込み上げたけれど、同時にそれが酷く素晴らしいアイデアにも思えて、実行に移さない手は無いと思った。

 アイツだって過去に彼女はいたんだ。
 好きじゃなくてもグイグイ押されて付き合ってた事があるって言うし……タイミングさえ良ければOKする可能性があるんじゃないのか?
 
「……いいよ、協力しても。まずは一度、山崎んに会わせてくれる? 作戦会議をしようよ」

 そう、これは仲良しの京子さんの親友へのボランティア。そして自分の親友、冬馬への愛あるお節介だ。愛だよ、愛。
……そう思い込めば罪悪感も軽くなった。


 
 法学部4年の山崎さんは、法科大学院、所謂ロースクールに進学決定を早々に決めた才女だった。
 授業の合間のカフェテリアで会った彼女は、色白な肌に切れ長な目が印象的な、しっとりした感じの美人さんで、容姿端麗、才色兼備をまさしく地で行っている感じだと思った。セミロングのストレートヘアーがツヤツヤしている。

ーーうん、まずは、外見的には合格だな。

 たぶん冬馬は派手系は即NGだ。ギスギスした性格も駄目。もっと控え目な感じで、つい守ってあげたくなるような……。
 脳裏に桜子の顔が浮かんで、胸がザワッとした。

「あ~、……えっと…山崎さんは外見的には冬馬のタイプだよ。イケるんじゃないかな」
「えっ、本当?」

 山崎さんが手を頬に寄せてはにかんだ。

「アイツは自分からはグイグイいかないタイプだから、いいと思っても行動に移せないと思う。だからと言ってこっちからグイグイ行っても逆に引いちゃうと思う」

「えっ、扱いがメンドくさいわね。だったら結局どうすればいいのよ。

 山崎さんの隣で一緒に聞いていた京子さんがイライラした口調で聞いて来たから、ニヤリと口角を上げてそちらを向く。

「そう、アイツは扱いが難しいんだよ。だから俺が間に入って何気にきっかけを作る。山崎さんはニコニコしながら座ってなよ。くれぐれもガツガツしないでね」



 翌日の昼間、カフェテリア。
俺と大志が並んで牛丼を食べていると、入り口のあたりでキョロキョロしている京子さんと山崎さんを発見した。
 いや、本当は昨日約束しておいたんだけど。

「あっ、京子さん!」

 俺がわざとらしく大声をあげて手を振ると、2人はパアッと明るい顔で近付いてきた。

「今からお昼? ここに座れば?」

 目の前の席を手で示すと、2人はトレイを運んできていそいそと言葉に従った。

「冬馬、4年生の京子さんと山崎さん。この山崎さんは先日の二次募集でロースクールに合格したばかりなんだぜ」

 俺が2人を紹介すると、冬馬は案の定『法科大学院合格』に飛びついた。

「えっ、進学するんだ。合格おめでとうございます。試験はどうでしたか?」

「そうね……法的三段論法をしっかりマスターして、いかに早く頭の中で組み立てるかが……日野くん……だったわよね? 敬語は必要ないから、普通に話してくれて構わないわよ」

 山崎さんは軽く首を傾げて微笑んで見せた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

ひよっこ神様異世界謳歌記

綾織 茅
ファンタジー
ある日突然、異世界に飛んできてしまったんですが。 しかも、私が神様の子供? いやいや、まさか。そんな馬鹿な。だってほら。 ……あぁ、浮けちゃったね。 ほ、保護者! 保護者の方はどちらにおいででしょうか! 精神安定のために、甘くて美味しいものを所望します! いけめん? びじょ? なにそれ、おいし ――あぁ、いるいる。 優しくて、怒りっぽくて、美味しい食べものをくれて、いつも傍に居てくれる。 そんな大好きな人達が、両手の指じゃ足りないくらい、いーっぱい。 さてさて、保護者達にお菓子ももらえたし、 今日も元気にいってみましょーか。 「ひとーつ、かみしゃまのちからはむやみにつかいません」 「ふたーつ、かってにおでかけしません」 「みーっつ、オヤツはいちにちひとつまで」 「よーっつ、おさけはぜったいにのみません!」 以上、私専用ルールでした。 (なお、基本、幼児は自分の欲に忠実です) 一人じゃ無理だけど、みんなが一緒なら大丈夫。 神様修行、頑張るから、ちゃんとそこで見ていてね。 ※エブリスタ・カクヨム・なろうにも投稿しています(2017.5.1現在)

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

きんだーがーでん

紫水晶羅
ライト文芸
 同じ短大の保育科に通う、政宗、聖、楓、美乃里の四人は、入学当初からの気の合う仲間だ。  老舗酒蔵の跡取り息子でありながら、家を飛び出した政宗。複雑な家庭環境の下で育った聖。親の期待を一身に背負っている楓。両親の離婚の危機に怯える美乃里。  それぞれが問題を抱えながらも、お互い胸の内を明かすことができないまま、気がつくと二年生になっていた。  将来の選択を前に、少しずつ明らかになってくるそれぞれの想い。  揺れ動く心……。  そんな中、美乃里の不倫が発覚し、そこから四人の関係が大きく変わり始めていく。  保育士を目指す男女四人の、歪な恋と友情の物語。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

【完結】すべてを妹に奪われたら、第2皇子から手順を踏んで溺愛されてました。【番外編完結】

三矢さくら
恋愛
「侯爵家を継承できるという前提が変わった以上、結婚を考え直させてほしい」 マダレナは王立学院を無事に卒業したばかりの、カルドーゾ侯爵家長女。 幼馴染で伯爵家3男のジョアンを婿に迎える結婚式を、1か月後に控えて慌ただしい日々を送っていた。 そんなある日、凛々しい美人のマダレナとは真逆の、可愛らしい顔立ちが男性貴族から人気の妹パトリシアが、王国の第2王子リカルド殿下と結婚することが決まる。 しかも、リカルド殿下は兄王太子が国王に即位した後、名目ばかりの〈大公〉となるのではなく、カルドーゾ侯爵家の継承を望まれていた。 侯爵家の継承権を喪失したマダレナは、話しが違うとばかりに幼馴染のジョアンから婚約破棄を突きつけられる。 失意の日々をおくるマダレナであったが、王国の最高権力者とも言える王太后から呼び出される。 王国の宗主国である〈太陽帝国〉から輿入れした王太后は、孫である第2王子リカルドのワガママでマダレナの運命を変えてしまったことを詫びる。 そして、お詫びの印としてマダレナに爵位を贈りたいと申し出る。それも宗主国である帝国に由来する爵位で、王国の爵位より地位も待遇も上の扱いになる爵位だ。 急激な身分の変化に戸惑うマダレナであったが、その陰に王太后の又甥である帝国の第2皇子アルフォンソから注がれる、ふかい愛情があることに、やがて気が付いていき……。 *女性向けHOTランキング1位に掲載していただきました!(2024.7.14-17)たくさんの方にお読みいただき、ありがとうございます! *完結しました! *番外編も完結しました!

さっさと離婚したらどうですか?

杉本凪咲
恋愛
完璧な私を疎んだ妹は、ある日私を階段から突き落とした。 しかしそれが転機となり、私に幸運が舞い込んでくる……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。