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<< 妹と親友への遺言 >> side 大志

18、山崎さん事件 (1)

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このお話は、本編55話、遺言の真相 (2) のお話を大志サイドから語ったものです。

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 『山崎さん事件』の話をしようと思う。

 事件というほど大層なものでは無いし、冬馬の中で彼女はそれまで振ってきた沢山の女の内の1人であって、もう顔さえ覚えていないかも知れない。
 だけど俺の中では強烈に印象に残っている出来事だ。何故なら俺が大志に対して行った最初の妨害行為……桜子から遠ざけるために画策した初めての行動だったから。


 そこに至るまでにはちょっとしたきっかけやら俺の心情の変化なんかがあった訳だけど、まずは流れ的に、大学に入ってしばらくした頃の俺と冬馬の下ネタ話から説明した方が分かりやすいと思う。


 当時冬馬は俺の家から3駅先にあるアパートに住んでいて、7.3畳の洋間とキッチンからなる1Kの部屋に俺もたまに遊びに行っていた。
 普段は大学から近い俺の家で一緒に過ごすことが多かったけれど、男同士の話をする時は、桜子のいない場所の方が都合がいい。


「なあ冬馬、お前の初体験ってどんなだった?」

 冬馬のアパートで一緒にレポートを仕上げた後で、出前のカツ丼を食べながら不意に聞いてみたくなった。

「えっ、どんな……って……」

 冬馬は堅物というか、どうも下ネタが苦手な節があるのでその手の話をしたことが無かったのだけど、自分が桜子に夢中なあまり、徐々に当時の彼女への興味が薄れていたこともあって、他人の性事情を聞いてみたくなったのだ。

「俺は……中2の終わりに1つ上の先輩と」
「嘘っ、マジか!」

 冬馬の性格上、性交渉は遅めで高2くらいで済ませてて、相手は真面目に付き合ってた同級生の彼女と……なんて勝手に想像していた俺は、思いのほか早くて、しかも先輩というエロい響きに興奮して、その話に思いっきり食い付いた。
 しかも、俺の童貞卒業とほぼほぼ同時期じゃないか。

「えっ、どんなだったんだよ、詳しく!」
「えっ……」

 若干言い淀んでいた冬馬だったが、俺が『聞くまで終わらせないぞ』オーラを出しまくっていたのと、その場に俺と2人きりしかいなかった事もあって、ボソボソと白状した。

「それまで殆ど喋った事も無かったんだけど、中2の夏休みに家まで来て、『卒業まででいいから付き合って欲しい』って告白されたんだ。背が低くて可愛らしい感じの人だった。それで本当に彼女の卒業まで付き合って終わった」

「おい!一番重要な部分が飛んだぞ!それで初体験はよ」

「……彼女の卒業式の日に、『最後に思い出が欲しい』って家に呼ばれて、彼女の部屋で。お互い初めてだったけど、相手がいろいろ調べてゴムも用意してくれた。それだけ」

「ワオ、上げ膳据え膳だな」

 その後のこともいろいろ追求すると、どうも冬馬は恋にもセックスにも淡白で、相手から迫られればそこそこ付き合うけれど、去る者追わずで執着が無いし、エッチも別にしなくて構わないというスタンスらしい。

 エッチがそこそこ好きな俺とは違うけれど、相手に執着が無いところなんかは似ているかも知れない……と思った。

「……それで最後に付き合った塾講師は、実際に付き合ってみたら束縛が凄いし塾の女生徒にまでマウント取ろうとするからすぐに別れた」

「だけどスーツの似合うメガネ美女って男のロマンだな」
「ロマンかどうかは知らないけれど、ああいうのはもう二度とごめんだな」

「冬馬のタイプってどんなのだよ。自分からグイグイ行きたくなった事って無いの?」

「……無いな。それに今は目の前のことに必死でそれどころじゃないだろ。まずは法科⼤学院に進んで、無事に卒業しないとな。恋愛にかまけている暇なんて無いよ」

 冬馬はバイトもしていたから、余計にそう思ったのかも知れない。



 なのに、そんなことを言っていた冬馬が、俺の家には嬉々として通い、長居していく。
 最初、俺はそれが家庭料理と家族団欒に惹かれてのことだと思っていた。
 だけど徐々にそれだけじゃ無いのでは……と疑うようになってきた。

『桜子ちゃん、隣においで』そう言って桜子を手招きし、頭を撫でたあの日からだ。
 堅物で慎重派で自分から派手な行動を起こすことのない冬馬が初めて見せた、あからさまな好意。

 それが親友の妹に向けたただの親切心とは違うと感じたのは、俺自身が桜子に無自覚に持っていた感情と共通するものを嗅ぎ取っていたのだと思う。


 そして実際に行動に移した大学3年生の冬。
 あれは自分でも山崎さんに悪いことをしたな……とは思うけれど、無自覚の嫉妬が呼び寄せた悪魔の囁きが、そうさせたんだろう。
 まさしく『嫉妬は人を狂わせる』を絵に描いたような浅はかで軽はずみな行動だった。
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