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5、初体験の思い出

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 俺と彩乃が初めて結ばれたのは、付き合い始めてから4ヶ月後、新年を迎えてすぐの正月だった。

 俺たちの交際は、両方の親には公認になっていた。

 両想いになったあの日、2階の部屋にいたら階下から母親が、「彩乃ちゃんもうちで晩御飯を食べてく~?」と聞いて来たから、俺の両親と彩乃と、彩乃の弟の晴人はるとと5人でカツ丼を頬張りながら、「俺たち付き合う事にしたから」と堂々と宣言したのだ。


 彩乃の父親は、俺たちが小5の時に病気で亡くなっている。
 彩乃の母親が看護師をしているので、彼女が夜勤だったり休日出勤で家にいない時、彩乃は2歳年下の晴人を連れてうちに来て、一緒にご飯を食べたり泊まって行くのがお約束になっていた。

 彩乃が中2になった頃からは徐々に泊まらなくなったけれど、夕飯は今も変わらず食べに来るし、晴人の方だけはたまに俺の部屋に泊まりに来ている。


 そんな訳だから、うちの親は俺たちの交際宣言に驚きはしたけれど、やっぱりという感じだったらしい。
 すぐに笑顔になって、

「おっ、雄大がやっとおとこを見せたか。彩乃ちゃん、よろしく頼むよ」

「彩乃ちゃん、本当にこんなのでいいの? 雄大と別れても、うちには遊びに来てちょうだいね」

 ……なんて、面白がってるのか祝福してるのか良く分からない言葉で受け入れられた。

 後で俺の母さんが彩乃の母親と立ち話をしていた時、

「夫婦喧嘩をして、彩乃ちゃんが『実家に帰らせていただきます!』って言ってもさ、実家ってすぐお隣でしょ? 意味ないわよね~」

 なんて言って、2人でケラケラ笑い合っていた。

 夫婦喧嘩なんて冗談じゃねえよ! って思ったけれど、母親たちが楽しそうにしてたから、俺も彩乃と顔を見合わせて笑った。

 もしも将来、彩乃と夫婦喧嘩をしたら、速攻で迎えに行って土下座して、とっとと連れ帰ろう……と心に誓った。



 ディープキスは付き合ってすぐの週末、俺の部屋で。
 それから1ヶ月くらいで、洋服の上からちょっとだけ胸も触らせてもらえるようになった。
 だけどそこで膠着状態。そこから先はあまりにもハイレベルの領域で、簡単に『お願いします』とも言い辛い。

ーータイミング的にはクリスマスか……。

 だけどそれはどう考えても無理だった。
 クリスマスは毎年両家で一緒にチキンとケーキを食べて過ごす事になっているから。



 毎年恒例の健全なクリスマスを過ごし、元旦は夜勤だった彩乃の母親以外の5人で近所の神社に参拝した。

 翌日は朝から父親の実家に行く事になっていたけれど、俺は風邪を引いて1人だけ家に残った。

 もちろん風邪だなんて大嘘だ。
 
 新年に父親の実家に行くのは分かっていたから、『その日は1人だけ家に残ることにする』と、前もって彩乃には伝えてあった。

『親が出掛けた。来る?』
『行く』

 ショートメールを送り合って、ほんの10分くらいで彩乃が来た。

 玄関の鍵をかけて、自分の部屋の鍵もかけて、ベッドに並んで座って、すぐにキスをした。

 頭の中はもうセックスの事ばかりで、とにかく興奮していて、ひたすら長い間キスを繰り返していた。

 もう慣れたディープキスをして、白いセーターの裾から手を入れてブラジャー越しに胸も触って……。

 頭の中で何度もシミュレーションしたようにゆっくり押し倒したら、「ちょっと待って」と下から胸を押された。

ーーえっ、まさかの拒絶?!

 だけど彩乃は、「シャワーを浴びて来るね」と立ち上がった。
 最初からそのつもりで、学校のスポーツバッグの中に勉強道具と一緒に下着の替えも入れて持って来たのだと言う。

「分かった。その後で俺もシャワーする」
「うん」


 新年の真っ昼間。
 カーテンを閉めても薄っすらと光の差し込む6畳間のシングルベッドで、俺と彩乃は結ばれた。
 繋がったままギュッと抱き締めていたら、彩乃が真珠みたいなキラキラした大粒の涙を零した。

「ごめん、痛かったよな。俺、止められなくて……」
「ううん、いいの。嬉しい」

 正直、世界観が変わったと思った。
 めちゃくちゃ気持ち良くって、感動で、天国ってこんな感じなのかな……なんて思った。

「彩乃、ありがとうな。お前のこと、一生大事にするからな」

 すると彩乃は、「しあわせ……」って呟いて、また泣いた。

 大切な処女を俺なんかに捧げてくれた彼女がただただ愛しくて。
 身体中が『好き』で一杯になって、溢れ出して止まらなくて……。

「好きだ……彩乃」

ーー絶対に幸せにする……。

 彩乃の憧れの白いウエディングドレスは、俺が必ず着せてやる。最高の笑顔にさせてやる。
 そう心に誓った。


 その後も長い付き合いの間に、何度か分からないくらい彩乃を抱いたけれど……あの一番最初の日の、初めての時のあいつの笑顔と涙は、一生忘れない。

 
 そう思っていたのに。

 忘れるはずが無かったのに……。



 再び白い閃光。


 カシャッ! カシャッ!
 懐かしいシャッター音。

 ああ、この音は……

 Nikon D500
 俺が初めて自分のお金で買ったカメラ。

 ああ、そうか……これは専門学校に通っていた頃だ。
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