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81、 勝ち進め!

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 仲間と一緒に壁の対戦表の確認をしていたら、 上から聞き覚えのある声が降ってきた。


「コタロー! 」

 見上げたらやっぱり京ちゃん。


「よお! 遠路はるばる応援ありがとうな」
「うん、 風子ふうこさんたちも学校のみんなもあっちにいるよ」

 京ちゃんが指差した方向に顔を向けたら、 学校の仲間や先生、 家族の顔があった。
 横断幕までかかげてある。 ありがたい。


「ハナはどこ? 」
「ハナは御両親と一緒に車で来るんだけどね」
「うん、 知ってる」

「急患が入って出発が遅れて、 到着は10時くらいになるって」
「マジか?! 」

「うん、 マジ。 ハナが、『遅れるけど絶対に行くから頑張れ! って伝えておいて』って 」

「そうか…… 」

 出来るならハナには、 今日の俺の試合を、 俺の全力を全部見て欲しかった。
 だけど仕方ない。
 要は、 ハナが来るまで…… いや、 今日の全試合で俺が負けなければいいだけの話だ。


「分かった。 勝ち続けとくから早く来いってハナに言っといて! 」

 観客席を見上げてそう言ったら、 京ちゃんが「写真を撮らせて! ハナに送るから! 」 とスマホを構えた。
 俺はレンズの向こう側にいるハナに向かって、 とびっきりの笑顔でピースサインをした。


ーー ハナ、 待ってるから早く来い!


***


「…… 動かないわね」

 お母さんが言うまでもなく、 それは車内の全員が分かっていた。
 さっきから車は何分間も停まったまま、 1ミリたりとも進んでいない。

 ここからはるか先の現場は見えないから正確には分からないけれど、 スマホで情報収集を続けている母によると、 車3台の玉突き事故はかなり大きなものだったらしい。
 乗用車2台がぶつかった所に、 最後に突っ込んでいった3トントラックが横倒しになり、 荷台に積んでいた木材が散乱して、 現場は凄い状態になっていると言う。


「9時20分か…… これは午前中には着けないかも知れないなぁ」
「ええっ?! 」

「今さっきパトカーが到着したばかりでしょ?  これから現場検証とかしてたら、 まだまだ時間が掛かるかもね。 あっ、 ほら。 救急車が来た」

 後方から『ピーポー』とサイレンの音がして、 白い救急車両が横をすり抜けて行く。
 本当に事故が起こったばかりなのだ。

 事故はお父さんのせいじゃないし、 責めても仕方ない。
だけど、 やっぱり急患が憎らしい。
 あれさえ無ければ今頃は……。


ピコン!

『コタローの最初の試合、 面を2本決めて快勝! 』

「よっしゃ! 」

 京ちゃんからの報告に、 思わず車内でガッツポーズをする。

「コタローが第一試合を快勝だって! 」
「おおっ、 さすが虎太朗くんだなぁ」

「次の試合はいつなの? 」
「ちょっと待って、 聞いてみる」

『次はいつ? 』
『もうすぐ。 今やってるのが終わったら、 その勝った方と試合。 1試合3分だからあっという間』

 そうか…… 今日は参加選手が多いぶん試合のコートを多く設けてあるんだろう。
 どんどん試合が進むということは、 それだけ私がコタローの勝負を見逃すということで……。

 ジレジレした気持ちのまま、 ひたすらスマホの画面を見つめていると、  京ちゃんがどんどん画像入りのメールを送ってくる。


「またしても2本勝ち!  隣で宗次郎そうじろう先生が解説してくれるから分かりやすい」

 宗次郎先生がいると言うことは、 コタローの家族は予定通りに到着したんだ。
 宗次郎先生の解説付きなら、 京ちゃんからの情報も正確だ。 ありがたい。

 そうこうしているうちにも、 京ちゃんからの試合報告が次々と届く。


『コタロー2本勝ち! 』

『凄い! コタローまたしても相手選手を瞬殺しゅんさつ!  』

『ミーハーっぽい女子がキャーキャーうるさい! あれじゃ妨害だって、 隣で宗次郎先生も怒ってる』

『あっ、 場内アナウンスが入った。 『関係ない場面で奇声きせいを発したり手を振ったりなどの行為は、 選手の集中力を妨げ、 試合の妨害になります。 何とぞ応援のマナーを守っていただけますよう、 よろしくお願い致します』だって」

 やっぱりコタローは全国区でモテてるんだな…… ああ、 早く私も応援したいのに!


「おっ、 動き出したぞ」
「えっ?! 」

 父親の声で窓の外を見ると、 のろのろではあるけれど、 車が少しずつ前に進み出した。


「やった! 」

 時計を見ると、 時刻は午前10時40分。

「まだ車線制限があってゆっくりだから、 到着は早くても昼過ぎだな」
「そうか…… 」


ピコン!

『今からベスト4で準決勝! ここで勝てば、 午後の最後の最後に決勝戦! 』

「やった! お父さん、 お母さん、 コタローが今から準決勝だって! 」
「おおっ! よしっ! 車が動き出したから、 この調子なら決勝戦までには着けるぞ! 」
「うん! 」


 スマホを両手でギュッと握りしめ、 額に当てて祈りを込める。

ーー コタロー、 絶対に行くから待っててね。

 それまでは絶対に…… 勝って勝って、 勝ち進め!
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