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37、 モテ期到来? (2)

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「京ちゃん、 とうとうコタローにモテ期が到来とうらいした…… 」
「へっ? 」

 調理室の机にダラッと突っ伏したままつぶやいたら、 頭の上から意外な返しが降ってきた。


「はあ? ハナ、今さら何言ってるの?  コタローがモテるのなんて昔からじゃん」
「へっ? 」

「元々モテてたのが、 この前の試合の様子が動画に上がったりして人気に火がついただけでしょ」
「動画?! ナニソレ」

 ビックリしてガバッと顔を上げたら、 京ちゃんがボウルの中のサツマイモをマッシャーでガシガシ潰しながら、 呆れ顔で見下ろしていた。


「たぶん気付いてなかったの、 世界中でハナだけだと思う」

 ーー へっ?!


***


 部活の見学中に外に呼び出された私は、 よく漫画で見る、 校舎裏に呼び出すアレだと思ってビビっていたけれど、 実際には校舎裏に連れ込まれることもなく、 普通に武道場の前で後輩たちに迎えられた。 笑顔で。


「あの…… 桜井先輩ですよね?  先輩が天野先輩の幼馴染だっていうのは本当なんですか? 」

「私のお姉ちゃんが2年生で…… 天野先輩と桜井先輩はお隣同士で仲が良いって本当ですか? 」

「彼女ではないんですか?! 」


 矢継やつぎ早な質問責めにあたふたしてしまったけれど、 要はコレって、 私が恐れていた糾弾会きゅうだんかいたぐいじゃなくて、 コタローファンの後輩がコタローと私の関係を気にしてるだけなのか……。

 それなら答えは簡単だ。


「うん、 コタローと私は家が隣同士の幼馴染だよ」

「そうなんだ~! 」
「いいなあ~、 羨ましいです! 」
「天野先輩の情報を教えてくれませんか?  10日が誕生日なんですよね? 天野先輩が好きな物って何ですか? 」

 こういうシチュエーションに慣れていない私はすっかり動揺してしまって、 適当に答えるだけ答えて、 そそくさとその場から逃げ去って来たのだった。


***


「それで、 なんで剣道を見学に行ったはずの人がここに来てるの? 」
「…… なんとなく? 」

「で、 どうしてそんなの預かってきてるのよ」

 京ちゃんの怒ったような目線の先には、 色とりどりの封筒の山。


「なんでって…… 渡されたから? 」
「アホかっ! 」

 京ちゃんが目を吊り上げながら、 イモの挟まったマッシャーを私の目の前に突き出す。


「ハナ、 あなた分かってるの? 後輩からのラブレターを預かってコタローに渡すってことは、 コタローに『どうぞこの中の誰かと付き合ってあげて下さいな』って言ってるようなもんなんだよ! 」

「そうは言っても…… 預かっちゃったし…… 」

 京ちゃんは苦虫を噛み潰したような顔でガシガシとイモのマッシュを続ける。 
 そんなにやったらベタベタになり過ぎちゃうんじゃ…… と思ったけど、 そんな事を言えるような雰囲気じゃない。


「あのさ、 ハナは知らないだろうけど、 コタローって昔から人気があってさ、 塾でもラブレターを渡されたり、 誕生会に呼ばれたりしてたのよ」
「えっ、 嘘! 」

「ホントだよ。 でも、 興味ないからってラブレターも受け取らずに、 その場で全部断ってた」
「うっそ~! そんなの見たことないよ」

「コタローがあまりにもハナにベッタリで、 ハナといる時に話し掛けると露骨ろこつに嫌な顔をするからさ、 みんなあんたがいない時を見計らって寄ってくのよ。 コタローも、 ハナといる時にそういう子が寄って来たら、 わざわざ場所を変えて話を聞いてたし」

 私が驚きのあまり言葉を失っていると、 京ちゃんは溜息をついて、 スイートポテトの次の工程こうてい…… サツマイモに砂糖やバターを加えて混ぜながら、 チロッと私に目をやって、 こう付け加えた。


「だからさ、 コタローはあんたが他の子の目を気にして萎縮いしゅくしたり、 変に意識して距離を置こうとしないように、 ずっとずっと慎重にあなたと自分の関係を守ってきたの。 なのに、 それをあなたが自分でぶち壊してどうすんのよ! もう、 腹が立つ! 」

 そう言われてハッとした。

 確かに私の性格なら、 コタローが女の子に囲まれたり、 ましてや彼女が出来たりしたら、 遠慮して距離を置こうとするだろう。

 コタローファンの女の子にちょっと囲まれただけで逃げ出すような女だということを、 アイツはとっくにお見通しだったんだ……。

 なのに私は自分から彼女たちの元に行って、 ラブレターまで受け取って…… 大バカだ。


「京ちゃん…… 」
「んっ? 何よ」

 京ちゃんはまだ不機嫌そうな顔で、 ボウルの中身を掻き混ぜている。

「京ちゃん、 私はね、 自分が幼馴染だからってコタローを独り占めしていいとは思ってないし、 他の子がコタローを好きになっても邪魔じゃまする権利は無いと思うんだ」

「ハナ! だからあんたは…… 」
「聞いて!  だからね、 あの子たちがコタローにラブレターを渡すのは自由だと思う。…… だけど、 それを手伝っちゃうなんて、 大バカがすることだよね」


「ハナ…… 」
「私、 返してくるね。 京ちゃん、 ありがとう! 」

 京ちゃんはようやくニッコリと笑って、 
「あとでスイートポテトを取りにおいで! 」
 と言って見送ってくれた。
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