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第2章 再会編

13、青と黒、どっちがいいの?

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『駅の改札を出たところ』

 待ち合わせ場所が曖昧あいまいだったから、ちゃんと会えるか心配だったけれど、そんな心配は全くの無用むようだった。

 私たちが駅の改札を通り抜ける前に、近くの柱のところに人垣が出来ているのが目に入ってきたから。
 そして、その中心で、腕組みしながら柱にもたれているたっくんが見えたから。


「小夏……あなたの彼氏って、訪日ほうにちしたばかりのがいタレだったっけ?」

 清香が半分本気の口調で呟いた。

ーーあっ、言い忘れてた!



 昨夜、千代美と清香に電話をして、心配をかけたことへの謝罪と、たっくんと付き合うことになったという報告をした。
 2人はとても驚きながらも、6年ぶりに私の初恋が実った事を喜んでくれた。心配の言葉の方が多かったけれど。

 今朝ここへ来る電車の中で、たっくんと駅で待ち合わせをしていると伝えたら、案の定たいそう驚かれてたいそう不安がられた。

 そして……うっかりものの私は、今日からたっくんが青い瞳になっているということを伝え忘れていたのだった。





「青と黒、どっちがいいの? 」

 昨日、アパートから駅まで私を送る道すがら、たっくんがそう聞いてきた。

「えっ、どういうこと? 」

「俺の目……小夏は青い方が好きなんだろ? 学校でも青い方がいい? 」
「そりゃあ、私はたっくんそのままの色の方がいいと思うけど…… 」


『こんなに綺麗な瞳を隠してしまうなんて勿体もったい無い』

 私がアパートでそう言ったから、たっくんは気にしたのかも知れない。
 だけど、わざわざカラコンをしていたのには理由があるんだろうし、だったら私の好みで決めていいものではないだろう。

「私と2人でいる時は本当の姿でいて欲しいけれど、学校で隠してる方が都合がいいのなら、そうして。私の好みは二の次でいいよ」

「……いや、お前の好みが最優先だろ」

 そんなイケメンなセリフを吐かれて、一瞬で顔面がだこのようになった。

「……じゃ、たっくんの好きな方で」
「そんじゃ、俺が好きな小夏が好きだって言う青で」

 益々顔が赤くなり、完熟トマトになった。





「えっと……改めまして、こちらが長谷千代美はせちよみさんと野田清香のだきよかさん。 2人とも中学からの親友」

 私たちが改札から出てきたのを目ざとく見つけ、たっくんが女子をき分け歩いて来たので、まずは親友2人を紹介することにした。

「それでこちらが、月島つきしま……じゃなくて……たっくん、今の苗字みょうじって何だったっけ? 」

和倉わくら。 2人とも、初めまして…… じゃないよな。昨日一緒にお昼を食べたばかりだし」

 私がちゃんと紹介する前に、たっくんが親友2人に勝手に話し出した。

「ええ、お昼を食べる以前に校門でも会ってるわ。 あなたが女の子をはべらせてた時に居合いあわせて」

「侍らせてたんじゃなくて付きまとわれてたんだけど」

 いきなり清香とたっくんの間で静かに火花が散っている。


 昨日電話でたっくんと付き合うことになったと報告した時、清香は声のトーンを少し落として言っていた。

『ごめんね、小夏。あなたがそれで幸せなのならいいと思うけれど、私はまだあの人が信用しきれないの。しばらく様子を見て、あの人が小夏に相応ふさわしくないと思ったら、速攻で反対するわよ』

 だから今はまだ警戒中といったところなんだろう。


「まあまあ2人とも、せっかく小夏が初恋の人とカレカノになれたんだから、楽しくいこうよ。ほら、早く行かないと遅刻しちゃうよ! 」

 千代美が必死に空気をなごませてくれたところで、4人で学校へ向かうことにした。

 さあ行こうと一歩進み出たところで、私たちは駅の構内こうないで沢山の生徒に遠巻きにされていたことに気付いた。
 私や千代美たちは一瞬たじろいだけれど、たっくんはこういう事に慣れているのか、ポケットに片手を突っ込んだまま、真っ直ぐ突き進んでいく。

 たっくんが一睨ひとにらみしたところから人が後ずさりして、道がザザッとひらかれていく。
 その真ん中を堂々と歩くたっくんと、少し前屈まえかがみになりながら、申し訳なさそうに付いていく私たち。

 たっくんを先頭にギャラリーの輪に切り込みを入れるようにして、私たちは外に出た。

ーーたっくんと一緒にいるということは、こうやって注目されるって言うことなんだ……。

 改めて考えたら背筋がゾワリとした。

 高校生活の目標は『目立たず騒がず平穏に』……の筈だったのに……。
 たっくんと付き合うと決めてから初日の登校は、嬉しいとかはしゃぐとかと言うよりも、不安や恐怖の方が心を占めていた。

ーーだけど、私はもう、たっくんと再会する前の私には戻れない。

 ううん、もう戻りたくない。二度と離れたくないから……。

 だから私は足を速めてたっくんの隣に追いつくと、背筋を伸ばして顔を上げて、前に向かって歩き出した。
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