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第2章 再会編

4、番号教えてくれる?

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 千代美と清香とは中学が一緒。
 中学校が一緒ということは地元も同じということで、私たちは同じ駅から同じ電車に乗って毎朝一緒に通学している。

 入学式翌日の今日も、3人揃って同じ電車で登校中だ。
 
 私たちを乗せた電車は、乗り換え無しの1駅3分で目的地に到着した。
 この駅から学校までは徒歩10分程。
 私たちが陽向ひなた高校を選んだ理由の一つが、このアクセスの良さだった。


 駅から歩きながら、千代美が恐ろしいことを言い出した。

「でもさ、ああいうのをカースト上位って言うの?  昨日の集団は思いっきり住む世界が違う!って感じだったよね。 あの子達みんな、たっくんって子のファンクラブ? とかなのかな。小夏、絶対にヤバイって」

「とにかく、その辺りがハッキリするまでは、学校では彼と親しくしない方がいいわね。クラスが違うし、そんなに顔を合わせることは無いと思うけど…… 」

「……うん」

 一応うなずいてはみたけれど、本音を言うと、私はどうにかしてたっくんと話せないかと考えていた。
 ただしそれは、『他の生徒が見ていない場所』限定。
 私は昨日たっくんに連絡先を聞いておかなかった事を、激しく後悔した。


 お喋りしながらの10分間はあっという間で、気付くと視線の先に、4階建ての立派な校舎が見えてきた。

「ちょっと、あれ! 」

 最初に立ち止まったのは千代美で、それに釣られて私と清香も足を止めると、千代美の視線の先を目で追う。

ーーえっ?!

 何故か校門に沢山の生徒がむらがっている。
 いや、よく見るとそれは、校門に群がっているのではなく、校門にもたれ、腕を組んで立っている1人の男の子を取り囲んでいるのだった。

「たっくん…… 」

 まだ遠くにいる私の小さな呟きが聞こえるはずはないのに、たっくんはふと顔を上げるとこちらを向いて、ゆっくり門から体を起こした。
 待ちきれないのか、笑顔でこちらに向かって歩いてくる。

「小夏、昨日連絡先を聞くの、忘れてた。番号教えてくれる? 」

 大声で言われ、私は慌てて周囲を見回す。周りの生徒が一斉に足を止め、私とたっくんを交互に見ていた。サッと血の気が引いていく。

 たっくんの肩越しに、鋭い視線をビシバシ送ってくる綺麗な女の子たちが見えた。

 それは、見るからにカースト上位の華やかな集団。

 たっくん自身が目立つ容姿なのはもちろん、取り囲んでいる女子も、髪色が明るかったり毛先がクルンと巻かれていたり制服の着こなしがオシャレだったりで、その一帯だけが輝いているようだ。
 それこそ少女漫画なら、背景に薔薇ばらの花を背負っていそうな……。

 その集団を置いてきぼりにして、たっくんは平然とこちらに歩いてくる。
 派手と地味との遭遇そうぐうだ。


「ほら小夏、『ふるふる』しようぜ」

 私の前まで来て立ち止まり、ポケットからスマホを取り出すと、目の前に突き出して『ふるふる』と揺らしてみせる。

「あの……『ふるふる』って…… 」

 ゼリーかプリンの名前みたいな事を言われて戸惑っていると、横から清香きよかが助け舟を出してくれた。

「あの……『たっくん』さん、この子、まだガラケーしか持ってないんです」

 それを聞いたたっくんが、バッと私を見て目を見開くと、大袈裟に驚いてみせる。

「えっ、小夏、お前、いまだにスマホじゃねえの? いつの時代だよ」

ーーいつの時代って、今の時代に生きてますけどっ!

「あの……連絡を取るには携帯電話があれば事足ことたりるので。でも、ちょうど良かったです。私もあなたの連絡先を知りたいと思っていたので…… 」

「おい、ちょっと待てよ! 」
「えっ? 」

「小夏、お前どうして俺に敬語を使ってんの? なんでそんなに他人行儀なんだよ、変だろ」

ーー変と言われても……。

 だって正直いうと、この人がたっくんだという実感がいまだにかないのだ。

 たっくんだというのを疑ってはいない。
 だけど、全体にまとっている退廃的たいはいてきな空気とこの容姿が、私の知っているたっくんとあまりにもかけ離れていて、警戒を完全に解いてはいけないと、心のどこかで叫んでいる。

 思わず目線を逸らして俯いた。

「ふ~ん……そういう態度を取るんだ」

 私が黙り込んだのが気に入らなかったのか、彼は少し目を細めて眉根まゆねを寄せると、私の両肩に手を乗せた。

ーーえっ?!

 グッと力の籠もったその手は私の想像よりも大きくて力強くて痛いほどで……やっぱり私が知っているたっくんとは全然違う……と思った。
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