マジメ御曹司を腐の沼に引き摺り込んだつもりが恋に堕ちていました

田沢みん

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6、学習能力高すぎデショ!

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 パチパチと鳴り響く拍手の音で、ハッと我に返った。
 いつの間にやら重役の挨拶が終了していたらしい。

ーーいけない、朝礼だって仕事中なのに!

 朝哉が職員にマイクを渡し、こちらに歩いて来る。

「ヒナ、見ててくれた?」
「はい。社長、素敵でしたよ」
「うん、ヒナ、ありがとう」

 うちの社長は愛妻に褒められて喜びを隠し切れないらしい。先程までの凛々しい姿が嘘みたいに相好を崩してデレデレしている。
 まるでママに褒められた子供状態だ。

 朝哉が思い出したようにこちらを見て、「ヨーコも御苦労様。今日から秘書課をよろしく頼む」と上司らしい言葉をかけて来た。

 幸いなことに、この男は雛子に関すること以外ではちゃんとした社会人ぶりを発揮するのだ。

「はい、頑張りマス。社長の就任挨拶、御立派でしたヨ」

「ありがとう。ところでBL講習会はどうだったの?」
「ギャッ!」

 思わずカエルが踏み付けられたみたいな声が出た。

「皆さん、BL講習会の件はご存知で……?」

「えっ、だって俺たちの前でヨーコが兄さんを誘ってたんじゃないか。兄さんのスマホにメアドも登録してさ」

ーーゲゲッ!

「マジデスカ……」
「ハハッ、マジマジ。で、どうだった? 初デートは」
「デートっ?!」

 この男はどこまで知っているのだろう。雛子の前で迂闊なことは言えない。
 ぐぬぬ……と言葉を失っていると、後ろからグッと肩を掴まれた。

「えっ?」と振り向くと、そこには険しい顔をした透。

ーーええっ、この場面で現れるとはっ!

 雛子に余計なことを話される前にここから離れねば……と透を連れ出そうとしたら、一足先に透に腕を掴まれた。

ーーえっ?

「社長、お疲れ様です。それでは私は研究センターに戻りますので」

 何故か険しい表情かおでそう言うと、これまた何故かヨーコの手を掴んだまま歩き出す。

「えっ、ちょっと、私は研究センターには行きますせんヨ!」
「分かってます」

 振り向きもせずツカツカと速足で廊下を進むと狭い通路を右折し、その先の車椅子用トイレに連れ込まれた。

 鍵をガチャッと掛けて、壁に背中を押し付けられる。

「さっきは朝哉と何を話してたんですか? 顔を赤らめてましたね。素敵な挨拶に惚れ直しましたか?」

「ほっ……惚れてませんヨ!BL講習会をデートだと言われたので驚いただけで……」

「本当にそれだけですか?」
「それだけデス!」

「……なら良かった」

 漸く眼鏡の奥の目尻が下がった。

「すいません、勝手に妬いただけです。朝哉が言ったことは間違ってませんよ。俺は昨日のはデートのつもりだったんで」

 目が細められ、甘い笑顔が激甘になった。

ーーあら、カワイイ。

 うわっ、これはダメだ!……とブンブン首を横に振る。

 コレはアレだ、漫画で良くあるヤツ。全くその気じゃ無かったのに、ヤった途端に情がわいてその気になってしまうという定番のパターン。

ーー私はそんなに簡単な女じゃナイのデスヨ!

 酔った弾みで簡単に寝てしまった事を棚に上げて、鼻息荒く両腕を組んだ。

「それでは私は仕事に戻りますノデ」

 壁から背中を離して動こうとしても、目の前の透は動こうとしない。

「ところでヨーコさん」
「ハイ?」

「これは壁ドンですよね。どうですか、少しはドキッとしましたか?」

ーードキン!

「はっ……ハイ……しました…ヨ」

「そうか……なら良かったです。講習会の成果がありましたね」

 いきなり顎をクイッと上げられて、唇を奪われた。
 最初はチュッと短く。2回目は味わうように深く。そしてペチャッ……と水っぽい音を立てて、ゆっくりと離れて行く。

「顎クイはこれで合ってますか? 今夜もアパートに行きます。もっといろいろ教えてくださいね」

 耳元で囁くと、ドアを開けて先に出て行った。

「えっ……何ですか、コレ……」

ーー学習能力高すぎデショ!!!

 ヨーコは大声で叫び出したいのをグッと堪えて、完熟トマトみたいに真っ赤になった頬を両手で押さえ、しばしその場に立ち尽くしたのだった。
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