戦場立志伝

居眠り

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形勢逆転

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 フロイデンタール少将が率いる第十二機動艦隊は既に空戦隊の援護がほぼ無かった。
正確には軍事同盟軍左翼の空戦隊自体がアルベルトをはじめとするハル平和連合軍空戦隊やアンハルトら第七航宙艦隊空戦隊に蹂躙されている。
つまり壊滅状態なのだ。
航空支援無き艦隊など、ただのデカブツの集まり。
そしてそれを喜んで享受するかのごとく、第七航宙艦隊空戦隊が襲い掛かった。
実はこの時、第十二機動艦隊と第十三機動艦隊は同時に攻撃を受けていた。
第十三機動艦隊はアルベルトらハル平和連合軍。
第十二機動艦隊はアンハルトら第七航宙艦隊。
アンハルトは死んだと思っているアルベルトと同時に別の艦隊を攻撃していたのだ。

艦艇の主砲を吹き飛ばし、エンジンを破壊。
たまに来る敵機を素早く撃墜。
アンハルトは着実に数を減らしていく。
航宙戦艦ユランガルや戦艦、重巡もシールドを破壊するためにミサイル攻撃やビーム攻撃を容赦なく叩きつける。
もはや左翼は瓦解寸前であった。
第十二機動艦隊司令官フロイデンタール少将が無能だったわけではない。
六年ぶりの大規模戦闘にかかわらず一定以上の指揮を続けたのだ。
しかし襲い掛かる空戦隊の波状攻撃には如何ともし難く、フロイデンタール少将は自らのこめかみに拳銃を押しつけ、自殺した。
十月十三日午前零時十八分。
マクシミリアン・フロイデンタール少将戦死。享年三十二歳。
そして同刻。
ロフ・フォン・ゲープハルト少将も戦死していた。享年三十二歳。
午前零時二十分には指揮権を引き継いだ副司令官フーベルトゥス准将が降伏を宣言。
軍事同盟軍左翼艦隊はマインツ大将の第六航宙艦隊を残し、壊滅した。

軍事同盟軍の奇襲を監視衛星で事前に察知したとはいえ満足に陣を敷けなかった有志連合軍だが、この第三次リーコン沖会戦は後者有利で終盤を迎える。
第六航宙艦隊旗艦ユーフラテスの艦橋内は絶望で満たされていた。
ただ一人を除いて。
「閣下…ここは退却すべきでは…?」
恐る恐る撤退の打診をする参謀長だったが”平民出の戦略家”に鼻で笑われた。
怪訝な表情をする参謀長だったがそれを見てマインツ大将は無理もない。
そう思った。
制空権は取られ、艦艇数は約三分の一。
おまけに士気はダダ下がりである。
「まぁここまでしてやられては…な。だが我が二つ名に恥じぬ戦いをせねば…戦場で見事散ったフロイデンタール、ゲープハルト少将に申し訳ない」
「しかし、むざむざ死ぬ戦いをするのは…」
「ん?貴官らはわしが負けるとでも?」
「いえ!そんなことは…」
「正解だ。負ける。負けるさ。…全艦隊に通達。退艦希望の者、直ちに退艦せよ。これからはわし個人の戦いだ。若造どもは下に降りて新たな政治を見届けよ。それが軍事独裁か、民主主義か。…もうわかりきったことだがな。と」
「なりません閣下!せめて閣下も!」
「提督!お考え直しを!」
次々と部下は諭すがマインツ大将の意思は固く、結局、皮肉なことに迫り来る敵艦隊、空戦隊の存在もあって艦隊の四割が戦線を離脱。
ゾラ星に降下していった。
残った六割のうちに存在する航空戦力はたった五十機のみ。
旗艦ユーフラテスは前部砲塔を展開するため滑走路を回転させる。
残った戦艦、巡洋艦、駆逐艦がその周りを囲む。
「さぁ、爺(じじい)の相手になってもらおうか」
マインツ大将は先程作成した通信文を後方の第一戦闘艦隊に送付し、ギラギラと光る目を敵旗艦、ユランガルに向けた。

「左翼艦隊旗艦ユーフラテスより通信文です」
戦況が完全に逆転してしまい、焦りと不安の総司令部にマインツ大将の通信文が届いた。
「マインツ大将から?…読み上げろ」
「はっ。…我これより敵と交戦に突入す。生還する気は無し。左翼艦隊敗北の責を負う。離脱艦隊の保護を求む。…追伸、また貴方と酒が飲みたかった。なるべく早く、こちらには来ないように」
総司令部は重々しい雰囲気に包まれたがパウルス高等大将は笑っていた。
「ハッハッハッハッ!!!…ろくに酒も飲めんかったくせに!”平民出の戦略家”も冗談は下手か!下手かぁ…!」
笑いながらボロボロと涙を流す総司令官に何も言えない幕僚達だった。
「マインツ…そうか。死ぬのか…。なら、後始末はせねばな。戦況はどうなっている!」
回線が復帰しつつある中で必死にかき集めた情報によると右翼艦隊は第九航宙艦隊を押し続けているようだ。
だがゼッフェルン中将の指揮をもってしても未だ戦線の突破は出来ていない。
グングニルが右翼艦隊の方を向いているため下手に動けないのだ。
それと中央は両軍ともに艦艇数が半減。
しかし尚も交戦が続いている。
全体的な艦艇数の被害は
軍事同盟軍が五割。
有志連合軍が三割半ほど撃沈、戦線離脱、航行不能となっている。
さらに左翼の勢いが強すぎるのでもはやこの大会戦は軍事同盟軍の負けだった。

パウルス高等大将は降伏も視野に入れていたがそれはせめて友人であるマインツ大将が戦死してからにしようと思っていた。
左翼艦隊壊滅の責任を取りたがっている彼の意思を尊重すべきと思ったからである。

ただその考えは右翼や中央で未だに戦い続ける将兵たちのことは考慮されていない、昔ながらの滅びの美学だった。
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