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第35話 怒りの行方は……
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タラザ反抗作戦は成功した。
レーヴェン島空襲も第1混成航空艦隊の多少の被害に目を瞑れば概ね成功したと言って差し支えないだろう。
だが、軍を指揮する者が精神不安定者であってはならない。
ルンテシュタット王立海軍第2艦隊司令アンカー・ライン中将は表向きには負傷の為の療養とされた上で、無期限の自宅謹慎を言い渡された。
大火傷を負った同第5艦隊司令ハイバー・ド・レッソン中将は階級を大将に進めた上で退役となり、これから長い入院生活を強いられることになるであろう。
そしてあれほど第1級黄金功労勲章を欲しがっていた同陸軍本部長エルドラ・ド・カート元帥はこれを授与されたが、対照的に同海軍本部長タンヌ・ヴァ・ド・ドクトラ元帥は甥の失態を理由に勲章の授与を辞退した。
「甥の件もありますが、そもそも私自身はカート元帥の案に賛成しただけであります。頂く資格はございません」
哀しそうな、辛そうな顔で言われると国王ハンニル2世や軍務大臣リーク・ド・ペテロも無理に与えることは出来なかった。
同首脳参謀本部長ヴァーリオン・ペトラヴィチ・ド・ギュース元帥もドクトラの辞退理由の前半部分を借りて辞退した。
「親友の甥が失脚したのだ。あそこまで落ち込むタンヌを見て貰おうとは思わんね」
そう書き残した手記が戦後から30年ほど経って発見されている。
陸軍は当面の目標をサーバ港の奪取とし、カーリス半島に戦力を注入する方針で決まった。
海軍も人事面と編成に変更が加えられた。
まず第2、第5艦隊をそのまままとめて第1航空艦隊として再編成した。
航空戦力の集中化を図ったのである。
アルワラ本島沖海戦で大打撃を被った第3艦隊は修理をカーリス半島で行った後に本土防衛の任に就くことになった。
続いて開戦後僅か1ヶ月程度で主力戦艦3隻(アムストガルト、アムルガルト、アルドレッド)が撃沈されたことを重く受け止め、次世代の戦艦の造船計画を企画した。
実は現在の主力戦艦アレクサンダー級は世界的に見れば巡洋戦艦なのだ。
32ノットという高速性と31センチ連装砲による速射性は極めて優秀なのだが、水雷防御の脆弱性が露見されたので防御面を大幅に改善した戦艦を造ろうというのである。
計画名は「N-6」
Nの意味は本級の仮称、ノッド・オストメニア級を指しており、6は6隻建造するという計画だ。
続いて航空戦力の底上げの為に新規空母2隻造船の計画書も練られた。
計画名は「R-2」
意味は「N-6」と同じくルンテシュタット級を2隻建造するというもの。
最後に第1航空艦隊司令には暫定でアルリエ・ド・バラストロング大佐が准将に昇進し、務めることとなった。
航空戦力の運用を熟知している将官が不足しているので、おそらくだがこのままアルリエが正式に司令となるであろう。
副官はルナティック・セント・ベストロニカ中佐(少佐→中佐)が、参謀長は1ヶ月後に退院予定のガーリン・ド・ザンボルト大佐が着任する。
作戦参謀にイグロレ・ド・ロックラー少佐(大尉→少佐)。
航海参謀はリーエル・ブランコ・プライザー中尉がそれぞれ引き続き務める。
なぜ人事が第2艦隊色に染まっているかというと、それは第2艦隊の他に航空機の扱いに長けている第5艦隊司令部が友軍機衝突により壊滅したからだ。
レッソンが生き残っただけでも奇跡である。
いくら堅い司令塔に居たとはいえ、覗き窓から入り込んだ航空燃料には如何ともし難い。
以上の艦隊の再編や人事異動が行われた。
日付は南暦1936年5月17日。
ただ、スカリー帝国軍が駐屯するサーバ港は陥落していなかった。
〈ヴェールヴェン・第1航空艦隊司令部〉
「はぁ………」
積み上がった書類の山を陸で片付けているアルリエはため息を吐いた。
「人事異動に艦隊再編…仕事が多くなるのは当たり前ですよ、アルリエ」
机の上に行儀悪く顎を乗せて気怠けなアルリエに対して、真新しい中佐の階級章を付けるルナが「諦めろ」と言わんばかりに新規の書類を置きに来た。
あの1件以来、数日無口を貫いたルナだったが迫り来る仕事の量に我を取り戻したらしい。
生真面目さが幸いした様だ。
「別に仕事が嫌いって訳でもないし、これくらいちゃちゃっと片付けられるわ」
唇を尖らせてバンバンと荒々しく認可印を押していくアルリエだったが、またすぐに手を止めてため息を吐いた。
「どうしたって言うんです?いつもよりだらしがないですよ」
「むしろあんたの方がおかしいわ。……まぁ、無理矢理考えないようにしてるんでしょうけど」
後半を特にボソボソと呟いたアルリエに「?」を浮かべるルナだったが、「気が向いたら言うわよ」と言われたので自身の仕事に戻って行った。
「アンカーの奴、あれから一切音沙汰がないけれど……大丈夫かしらね」
謹慎している以上、そう簡単に連絡は取り合えない上にこちらがてんてこ舞いというのもあり一切コンタクトを取れていない。
「あいつは確かに精神を病んでるわ。親友が死んだっていうから無理もないのは分かるけれど……。でも、それは単なるあんたの心の弱さよ、アンカー。割り切っていかなきゃ戦争なんてしてられない。生き抜くなら尚更…ね」
長い独り言をライン家の方角に向けて発したが、「聞こえてるわけないわ」と、アルリエはまた判を勢い良く押していった。
レーヴェン島空襲も第1混成航空艦隊の多少の被害に目を瞑れば概ね成功したと言って差し支えないだろう。
だが、軍を指揮する者が精神不安定者であってはならない。
ルンテシュタット王立海軍第2艦隊司令アンカー・ライン中将は表向きには負傷の為の療養とされた上で、無期限の自宅謹慎を言い渡された。
大火傷を負った同第5艦隊司令ハイバー・ド・レッソン中将は階級を大将に進めた上で退役となり、これから長い入院生活を強いられることになるであろう。
そしてあれほど第1級黄金功労勲章を欲しがっていた同陸軍本部長エルドラ・ド・カート元帥はこれを授与されたが、対照的に同海軍本部長タンヌ・ヴァ・ド・ドクトラ元帥は甥の失態を理由に勲章の授与を辞退した。
「甥の件もありますが、そもそも私自身はカート元帥の案に賛成しただけであります。頂く資格はございません」
哀しそうな、辛そうな顔で言われると国王ハンニル2世や軍務大臣リーク・ド・ペテロも無理に与えることは出来なかった。
同首脳参謀本部長ヴァーリオン・ペトラヴィチ・ド・ギュース元帥もドクトラの辞退理由の前半部分を借りて辞退した。
「親友の甥が失脚したのだ。あそこまで落ち込むタンヌを見て貰おうとは思わんね」
そう書き残した手記が戦後から30年ほど経って発見されている。
陸軍は当面の目標をサーバ港の奪取とし、カーリス半島に戦力を注入する方針で決まった。
海軍も人事面と編成に変更が加えられた。
まず第2、第5艦隊をそのまままとめて第1航空艦隊として再編成した。
航空戦力の集中化を図ったのである。
アルワラ本島沖海戦で大打撃を被った第3艦隊は修理をカーリス半島で行った後に本土防衛の任に就くことになった。
続いて開戦後僅か1ヶ月程度で主力戦艦3隻(アムストガルト、アムルガルト、アルドレッド)が撃沈されたことを重く受け止め、次世代の戦艦の造船計画を企画した。
実は現在の主力戦艦アレクサンダー級は世界的に見れば巡洋戦艦なのだ。
32ノットという高速性と31センチ連装砲による速射性は極めて優秀なのだが、水雷防御の脆弱性が露見されたので防御面を大幅に改善した戦艦を造ろうというのである。
計画名は「N-6」
Nの意味は本級の仮称、ノッド・オストメニア級を指しており、6は6隻建造するという計画だ。
続いて航空戦力の底上げの為に新規空母2隻造船の計画書も練られた。
計画名は「R-2」
意味は「N-6」と同じくルンテシュタット級を2隻建造するというもの。
最後に第1航空艦隊司令には暫定でアルリエ・ド・バラストロング大佐が准将に昇進し、務めることとなった。
航空戦力の運用を熟知している将官が不足しているので、おそらくだがこのままアルリエが正式に司令となるであろう。
副官はルナティック・セント・ベストロニカ中佐(少佐→中佐)が、参謀長は1ヶ月後に退院予定のガーリン・ド・ザンボルト大佐が着任する。
作戦参謀にイグロレ・ド・ロックラー少佐(大尉→少佐)。
航海参謀はリーエル・ブランコ・プライザー中尉がそれぞれ引き続き務める。
なぜ人事が第2艦隊色に染まっているかというと、それは第2艦隊の他に航空機の扱いに長けている第5艦隊司令部が友軍機衝突により壊滅したからだ。
レッソンが生き残っただけでも奇跡である。
いくら堅い司令塔に居たとはいえ、覗き窓から入り込んだ航空燃料には如何ともし難い。
以上の艦隊の再編や人事異動が行われた。
日付は南暦1936年5月17日。
ただ、スカリー帝国軍が駐屯するサーバ港は陥落していなかった。
〈ヴェールヴェン・第1航空艦隊司令部〉
「はぁ………」
積み上がった書類の山を陸で片付けているアルリエはため息を吐いた。
「人事異動に艦隊再編…仕事が多くなるのは当たり前ですよ、アルリエ」
机の上に行儀悪く顎を乗せて気怠けなアルリエに対して、真新しい中佐の階級章を付けるルナが「諦めろ」と言わんばかりに新規の書類を置きに来た。
あの1件以来、数日無口を貫いたルナだったが迫り来る仕事の量に我を取り戻したらしい。
生真面目さが幸いした様だ。
「別に仕事が嫌いって訳でもないし、これくらいちゃちゃっと片付けられるわ」
唇を尖らせてバンバンと荒々しく認可印を押していくアルリエだったが、またすぐに手を止めてため息を吐いた。
「どうしたって言うんです?いつもよりだらしがないですよ」
「むしろあんたの方がおかしいわ。……まぁ、無理矢理考えないようにしてるんでしょうけど」
後半を特にボソボソと呟いたアルリエに「?」を浮かべるルナだったが、「気が向いたら言うわよ」と言われたので自身の仕事に戻って行った。
「アンカーの奴、あれから一切音沙汰がないけれど……大丈夫かしらね」
謹慎している以上、そう簡単に連絡は取り合えない上にこちらがてんてこ舞いというのもあり一切コンタクトを取れていない。
「あいつは確かに精神を病んでるわ。親友が死んだっていうから無理もないのは分かるけれど……。でも、それは単なるあんたの心の弱さよ、アンカー。割り切っていかなきゃ戦争なんてしてられない。生き抜くなら尚更…ね」
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