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第31話 命の重さと価値
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「…え?」
アンカー命令に、彼より歳上の艦長の声が震えた。
「聞こえなかったか。殺せ。1人残らず、抹殺しろ!!」
「し、しかし…」
無線機から漏れるかすれた声に我に帰ったイグロレは、アンカーの胸元を両手で握りしめて咆哮した。
「何言ってやがる…?てめぇそれでも軍人か!見損なったぞ、アンカァーッ!!」
だがその言葉はアンカーの心には届かなかった。
「お前こそ何を言っているイグロレ。軍人たる者、敵を全滅させるべきだろう。こちらに捕虜をとる余裕もないし、かと言って放置するのは逃すのと同義だ」
「だからって…!」
「お前だって見ただろ。…アルドレッドの水兵の惨状を!レッソン中将の負傷も!!それに…ナラのこと、忘れたって言うつもりは無いだろうなッ!!!」
「…!」
普段とかけ離れたアンカーの態度に親友のイグロレは驚愕し、思わず手を緩めた。
緩んだ手を振り解き、アンカーは再び無線機を取る。
「改めて命じる!殺せ!1人も残さず沈めてしまえ!!これが散っていった者達への弔いになる!!!」
血走った目で咆えるアンカーにラートは怯え、アルリエは押し黙り、リーエルは軍帽を深く被り、エスメールは目を泳がせ、エカテリーナは何か含む所があるかの様に目を固く閉じていた。
「徹底的に、八つ裂きにしろッ!!!」
アンカーがさらに催促した、その時。
“バチンッ!!!”
手が頬を叩く音が艦橋内に鳴り響いた。
しかもかなり重い一撃だった。
叩かれたのはアンカー。
叩いたのは、ベストロニカであった。
「…」
温厚な彼女に罵声を浴びせられたことすら無いアンカーはポカンと口を開けたままベストロニカを見つめた。
目に涙を浮かべる彼女にハッとしたアンカーは無意識に2、3歩退がる。
「少佐…」
ポツリと放った言葉を最後に、目配せでアルリエがイグロレとリーエルを動かした。
2人はアンカーの両腕をガッシリと掴み、艦橋から連行した。
その間、アンカーはただベストロニカを見つめ続けた。
「失望しました」
彼女の瞳はそう言ってるかの様に感じたアンカーは、なすがままに連れて行かれ、少し時間が経った時、頬に沿って落ちる涙を流しながらベストロニカは呟いた。
「私、最低ですね。人を叩くなんて」
「最低なのはあんたを泣かせたアイツよ」
そう言ってアルリエは彼女の涙をハンカチで拭き取りつつ、ガーゴイラ艦長やその他の者達に下令した。
「ライン司令は心労により一時お休みになるわ。指揮権は私が引き継ぐ。貴官らは何も見なかった。いいですね?」
「わしは最近耳が遠くての。何かありましたかね?」
「結構」
他の艦橋要員達もわざとらしく双眼鏡を覗いたり、入ってもいないコーヒーカップに口をつけたりした。
その様子を見たエスメールやエカテリーナはこれはベストロニカの信頼か、アンカーの信頼かは分からなかったが、少なくとも両名が彼らに好印象を持たれていることだけは理解出来た。
アルリエはため息を吐きつつ、無線機を取って先程の命令を取り消した。
「追撃隊を率いて合流しなさい。座標は後で送るわ。以上」
「…了解しました。それで、彼らはどういたしましょう?」
「…浮き輪でも投げときなさい」
「ハッ!」
軽巡アムンの艦長は清々しげに答えて無線を切った。
通信を終えたアルリエはエスメールとエカテリーナに指揮を任せ、ベストロニカを連れて艦橋を後にした。
「人間、疲れたらご飯食べて寝たら少しは気分が良くなるわよ。だからそんなに泣かないで、ルナ」
「はい…はい…!」
流星の様にボロボロと溢していく雫を拭きつつ、アルリエはルナの頭を撫で続けた。
少しでも気を楽にさせてあげたかったから。
《レーヴェン島空襲・カーリス海海戦 参戦兵力・損害》
《レーヴェン島空襲》
ルンテシュタット王国 参戦兵力
M-2戦闘機18機
M-3急降下爆撃機20機
M-4雷撃機20機
合計58機
損害
M-2戦闘機3機
M-3急降下爆撃機6機
M-4雷撃機(爆装仕様)1機
合計10機
スカリー帝国 参戦兵力
Ge-5戦闘機20機
Ge-6戦闘機1機
対空砲陣地多数
合計21機+多数
損害
Ge-5戦闘機18機
対空砲陣地
レーダー施設
滑走路2本破壊、1本中破
《カーリス海海戦》
ルンテシュタット王国 参戦兵力
空母2 戦艦2 重巡4 軽巡6 駆逐19(艦首切断の為1隻離脱)
M-2戦闘機18機
損害
撃沈 戦艦1 重巡1 軽巡1 駆逐2
小破 空母1(司令重傷)
M-2戦闘機7機
カーリス皇国 参戦兵力
重巡1 軽巡2 水母1 駆逐8
損害
撃沈 重巡1 軽巡2 駆逐6
中破 駆逐1
スカリー帝国 参戦兵力
Ge-5戦闘機20機
K-10中型双発爆撃機(雷装仕様)20機
合計45機
損害
Ge-5戦闘機3機
K-10中型双発爆撃機(雷装仕様)7機
合計10機
アンカー命令に、彼より歳上の艦長の声が震えた。
「聞こえなかったか。殺せ。1人残らず、抹殺しろ!!」
「し、しかし…」
無線機から漏れるかすれた声に我に帰ったイグロレは、アンカーの胸元を両手で握りしめて咆哮した。
「何言ってやがる…?てめぇそれでも軍人か!見損なったぞ、アンカァーッ!!」
だがその言葉はアンカーの心には届かなかった。
「お前こそ何を言っているイグロレ。軍人たる者、敵を全滅させるべきだろう。こちらに捕虜をとる余裕もないし、かと言って放置するのは逃すのと同義だ」
「だからって…!」
「お前だって見ただろ。…アルドレッドの水兵の惨状を!レッソン中将の負傷も!!それに…ナラのこと、忘れたって言うつもりは無いだろうなッ!!!」
「…!」
普段とかけ離れたアンカーの態度に親友のイグロレは驚愕し、思わず手を緩めた。
緩んだ手を振り解き、アンカーは再び無線機を取る。
「改めて命じる!殺せ!1人も残さず沈めてしまえ!!これが散っていった者達への弔いになる!!!」
血走った目で咆えるアンカーにラートは怯え、アルリエは押し黙り、リーエルは軍帽を深く被り、エスメールは目を泳がせ、エカテリーナは何か含む所があるかの様に目を固く閉じていた。
「徹底的に、八つ裂きにしろッ!!!」
アンカーがさらに催促した、その時。
“バチンッ!!!”
手が頬を叩く音が艦橋内に鳴り響いた。
しかもかなり重い一撃だった。
叩かれたのはアンカー。
叩いたのは、ベストロニカであった。
「…」
温厚な彼女に罵声を浴びせられたことすら無いアンカーはポカンと口を開けたままベストロニカを見つめた。
目に涙を浮かべる彼女にハッとしたアンカーは無意識に2、3歩退がる。
「少佐…」
ポツリと放った言葉を最後に、目配せでアルリエがイグロレとリーエルを動かした。
2人はアンカーの両腕をガッシリと掴み、艦橋から連行した。
その間、アンカーはただベストロニカを見つめ続けた。
「失望しました」
彼女の瞳はそう言ってるかの様に感じたアンカーは、なすがままに連れて行かれ、少し時間が経った時、頬に沿って落ちる涙を流しながらベストロニカは呟いた。
「私、最低ですね。人を叩くなんて」
「最低なのはあんたを泣かせたアイツよ」
そう言ってアルリエは彼女の涙をハンカチで拭き取りつつ、ガーゴイラ艦長やその他の者達に下令した。
「ライン司令は心労により一時お休みになるわ。指揮権は私が引き継ぐ。貴官らは何も見なかった。いいですね?」
「わしは最近耳が遠くての。何かありましたかね?」
「結構」
他の艦橋要員達もわざとらしく双眼鏡を覗いたり、入ってもいないコーヒーカップに口をつけたりした。
その様子を見たエスメールやエカテリーナはこれはベストロニカの信頼か、アンカーの信頼かは分からなかったが、少なくとも両名が彼らに好印象を持たれていることだけは理解出来た。
アルリエはため息を吐きつつ、無線機を取って先程の命令を取り消した。
「追撃隊を率いて合流しなさい。座標は後で送るわ。以上」
「…了解しました。それで、彼らはどういたしましょう?」
「…浮き輪でも投げときなさい」
「ハッ!」
軽巡アムンの艦長は清々しげに答えて無線を切った。
通信を終えたアルリエはエスメールとエカテリーナに指揮を任せ、ベストロニカを連れて艦橋を後にした。
「人間、疲れたらご飯食べて寝たら少しは気分が良くなるわよ。だからそんなに泣かないで、ルナ」
「はい…はい…!」
流星の様にボロボロと溢していく雫を拭きつつ、アルリエはルナの頭を撫で続けた。
少しでも気を楽にさせてあげたかったから。
《レーヴェン島空襲・カーリス海海戦 参戦兵力・損害》
《レーヴェン島空襲》
ルンテシュタット王国 参戦兵力
M-2戦闘機18機
M-3急降下爆撃機20機
M-4雷撃機20機
合計58機
損害
M-2戦闘機3機
M-3急降下爆撃機6機
M-4雷撃機(爆装仕様)1機
合計10機
スカリー帝国 参戦兵力
Ge-5戦闘機20機
Ge-6戦闘機1機
対空砲陣地多数
合計21機+多数
損害
Ge-5戦闘機18機
対空砲陣地
レーダー施設
滑走路2本破壊、1本中破
《カーリス海海戦》
ルンテシュタット王国 参戦兵力
空母2 戦艦2 重巡4 軽巡6 駆逐19(艦首切断の為1隻離脱)
M-2戦闘機18機
損害
撃沈 戦艦1 重巡1 軽巡1 駆逐2
小破 空母1(司令重傷)
M-2戦闘機7機
カーリス皇国 参戦兵力
重巡1 軽巡2 水母1 駆逐8
損害
撃沈 重巡1 軽巡2 駆逐6
中破 駆逐1
スカリー帝国 参戦兵力
Ge-5戦闘機20機
K-10中型双発爆撃機(雷装仕様)20機
合計45機
損害
Ge-5戦闘機3機
K-10中型双発爆撃機(雷装仕様)7機
合計10機
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