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第28話 若鷹エルリッヒ
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〈レーヴェン島攻撃隊〉
「やってやりましたね、少佐!」
「あとは帰るだけですな!」
M-2隊、M-4隊、M-3隊、そしてシュニザーが乗るM-2の順で帰投している攻撃隊は戦勝気分で浮かれていた。
もっとも、ヨシフ中尉やタラン中尉の様に同期生の死を目の当たりにした者もいたが喜ぶ戦友に要らぬ心配はさせまいと会話に混ざってこないなど、パイロット達の態度は多種多様だったが基本は笑顔に満ち溢れていた。
「少佐、後ろは大丈夫ですか?行って帰ってくるのが戦闘ってことをそいつらに言っといて下さいね」
「聞こえてますよトピード大尉殿!」
「信頼ねぇなぁ大尉殿!」
「聞こえるように言ったんだよ」
編隊を率いるトピードと、後背を守るシュニザーは適宜連絡を行いながら索敵を忘れなかった。
だが。
「問題ないぞ大尉。帰還まであとどのくらいだ?」
「10分といったところですかね」
「あと少しだ!帰ったら寝させてもらいますね~」
「おぉ、好きに寝…ろ…」
シュニザーは部下の願望に答え終わる前に上方から来るプロペラ音に視線を向けた。
「回避!回避!」
「え?」
ポカンとするM-3のパイロットの頭を銃弾が貫き、風防内を紅色と赤色に染めた。
「う、うわぁあああ!?」
そのM-3の後部座席の戦友が血飛沫をあげる相棒に戦慄すると同時に機体は火を吹き上げ、彼は脱出する間も無く炎に飲み込まれていった。
シュニザーのM-2は咄嗟に回避行動をとったので銃弾は翼端をかすめただけだったが、いきなり部下が死んだ事実にショックを受けざるを得なかった。
しかしそこは2空のエースパイロット。
敵討ちと言わんばかりに一気に襲いかかってきた機体へと肉薄する。
そのまま下方へと急降下していく機体に追いすがりながら機関銃を発射するが圧巻の技量でスイスイ躱されつつ急減速を仕掛けられ、後ろに付かれた。
「しまった!」
敵機はバランスをすぐに立て直し、シュニザー機を狙った銃口が赤く光ったまさに絶対絶命の時。
「少佐ー!!!」
大声で吠えながらトピードが機関銃を乱射し、援軍に駆けつけてくれたのだ。
敵機には1、2発ほど当たったようだが、先の急減速の時も含め、よく翼が折れないものだ。
(新鋭機か?)
シュニザーは落ち着きを取り戻しながら分析していたがすぐに本来の任務を思い起こす。
「タラン中尉、隊を率いて逃げろ!戦闘機隊、俺に続け!」
「了解しました!」
「「「ウーラー!」」」
M-2戦闘機隊と敵機──Ge-6戦闘機1機との交戦が始まった。
〈エルリッヒ視点〉
エルリッヒは難なく大破した滑走路から飛び立ち、敵機が逃げ去った南東へと急いで向かいながら、近隣の空軍基地に艦攻や艦爆、戦闘機の援軍を要請した。
艦載機が襲ってきたなら空母が近海にいるのは間違いない。
この要請により平和大橋付近の空軍基地から攻撃隊45機が出撃し、エルリッヒのGe-6から逐一送られてくる位置情報を頼りに、くまなく捜索が行われることとなる。
追撃開始から1時間。
下方に黒い粒が見えてきた。
「見つけたぞ、王国のハエども」
防弾性、急降下耐性などの機体強度に優れるGe-6を駆るエルリッヒは迷うことなく降下を行った。
王国機はまだ気づいていない。
落ち着いて最後尾にいる2機を狙い、機関銃の引き金を引く。
ガガガッ!と機体全体が震えるほどの一斉射を行うと、一気に敵編隊を縦にすり抜けて一時離脱する。
しかし振り返って見る限り、当たって墜ちたのは1機だけの様だ。
「今のを避けるか……やるな、あの戦闘機のパイロット。なら、これはどうだ」
初撃を回避したシュニザー機が追いかけてきたのを確認したエルリッヒは、地上にいた時とは別人の様に冷静になっていた。
そして一気に背後に食いついてきたシュニザー機を急減速で射線上に押し出した。
「終わりだ」
発射ボタンを押し込もうと右腕に力を入れた時、機関銃の発射音が耳に入ってきた。
すぐさま攻撃を中止し、ロール機動で被弾面積を減らしたが数発被弾してしまった。
だがその程度ではこのGe-6は墜ちない。
群がってくる敵戦闘機隊にほくそ笑みながら”若鷹エルリッヒ”は呟いた。
「空で死ねなかった戦友の敵討ちだ、覚悟しろ!」
〈シュニザー視点〉
「ドーロル、後ろだ!回避しろ!」
「少佐、ダメです!ぐわぁああッ!!」
「ドーロル中尉がやられたぞ!」
「各機単機で挑むな、数で潰せ!」
王国軍戦闘機隊の無線は怒号で溢れており、たった1機のGe-6に翻弄され既に3機が撃墜された。
15機のM-2は3機1組のトリオを組んで対応したが、それでもGe-6に遅れをとっていた。
Ge-6自体はM-2でも対処可能なのだがエルリッヒの技量がこの機体を大幅にブーストしている。
しかし流石に被ダメージが増えてきたことを不利と悟ったエルリッヒは己の力を過信することなく、雲に紛れて撤退した。
「こちらエルリッヒ中尉。敵編隊を捕捉、交戦。4機撃墜したがこれ以上は無理だ。帰投する。それから敵艦隊がいると思しき方角は…南南東。友軍編隊と皇国の艦隊にも伝えてくれ」
通信を切った若鷹は多数の敵機と渡り合った高揚感はあったが、それが時間が経つと徐々に冷め、本来の目的であった敵討ちが何をもってして敵討ちとするのかが分からないまま帰還の途についた。
「俺は仇を討てたか…?」
エルリッヒの報告により第1混成航空艦隊の位置が割れた。
既に隠れ蓑も霧散し、丸裸となったアンカー達に45機の攻撃隊とカーリス警戒艦隊が迫りつつあった。
「やってやりましたね、少佐!」
「あとは帰るだけですな!」
M-2隊、M-4隊、M-3隊、そしてシュニザーが乗るM-2の順で帰投している攻撃隊は戦勝気分で浮かれていた。
もっとも、ヨシフ中尉やタラン中尉の様に同期生の死を目の当たりにした者もいたが喜ぶ戦友に要らぬ心配はさせまいと会話に混ざってこないなど、パイロット達の態度は多種多様だったが基本は笑顔に満ち溢れていた。
「少佐、後ろは大丈夫ですか?行って帰ってくるのが戦闘ってことをそいつらに言っといて下さいね」
「聞こえてますよトピード大尉殿!」
「信頼ねぇなぁ大尉殿!」
「聞こえるように言ったんだよ」
編隊を率いるトピードと、後背を守るシュニザーは適宜連絡を行いながら索敵を忘れなかった。
だが。
「問題ないぞ大尉。帰還まであとどのくらいだ?」
「10分といったところですかね」
「あと少しだ!帰ったら寝させてもらいますね~」
「おぉ、好きに寝…ろ…」
シュニザーは部下の願望に答え終わる前に上方から来るプロペラ音に視線を向けた。
「回避!回避!」
「え?」
ポカンとするM-3のパイロットの頭を銃弾が貫き、風防内を紅色と赤色に染めた。
「う、うわぁあああ!?」
そのM-3の後部座席の戦友が血飛沫をあげる相棒に戦慄すると同時に機体は火を吹き上げ、彼は脱出する間も無く炎に飲み込まれていった。
シュニザーのM-2は咄嗟に回避行動をとったので銃弾は翼端をかすめただけだったが、いきなり部下が死んだ事実にショックを受けざるを得なかった。
しかしそこは2空のエースパイロット。
敵討ちと言わんばかりに一気に襲いかかってきた機体へと肉薄する。
そのまま下方へと急降下していく機体に追いすがりながら機関銃を発射するが圧巻の技量でスイスイ躱されつつ急減速を仕掛けられ、後ろに付かれた。
「しまった!」
敵機はバランスをすぐに立て直し、シュニザー機を狙った銃口が赤く光ったまさに絶対絶命の時。
「少佐ー!!!」
大声で吠えながらトピードが機関銃を乱射し、援軍に駆けつけてくれたのだ。
敵機には1、2発ほど当たったようだが、先の急減速の時も含め、よく翼が折れないものだ。
(新鋭機か?)
シュニザーは落ち着きを取り戻しながら分析していたがすぐに本来の任務を思い起こす。
「タラン中尉、隊を率いて逃げろ!戦闘機隊、俺に続け!」
「了解しました!」
「「「ウーラー!」」」
M-2戦闘機隊と敵機──Ge-6戦闘機1機との交戦が始まった。
〈エルリッヒ視点〉
エルリッヒは難なく大破した滑走路から飛び立ち、敵機が逃げ去った南東へと急いで向かいながら、近隣の空軍基地に艦攻や艦爆、戦闘機の援軍を要請した。
艦載機が襲ってきたなら空母が近海にいるのは間違いない。
この要請により平和大橋付近の空軍基地から攻撃隊45機が出撃し、エルリッヒのGe-6から逐一送られてくる位置情報を頼りに、くまなく捜索が行われることとなる。
追撃開始から1時間。
下方に黒い粒が見えてきた。
「見つけたぞ、王国のハエども」
防弾性、急降下耐性などの機体強度に優れるGe-6を駆るエルリッヒは迷うことなく降下を行った。
王国機はまだ気づいていない。
落ち着いて最後尾にいる2機を狙い、機関銃の引き金を引く。
ガガガッ!と機体全体が震えるほどの一斉射を行うと、一気に敵編隊を縦にすり抜けて一時離脱する。
しかし振り返って見る限り、当たって墜ちたのは1機だけの様だ。
「今のを避けるか……やるな、あの戦闘機のパイロット。なら、これはどうだ」
初撃を回避したシュニザー機が追いかけてきたのを確認したエルリッヒは、地上にいた時とは別人の様に冷静になっていた。
そして一気に背後に食いついてきたシュニザー機を急減速で射線上に押し出した。
「終わりだ」
発射ボタンを押し込もうと右腕に力を入れた時、機関銃の発射音が耳に入ってきた。
すぐさま攻撃を中止し、ロール機動で被弾面積を減らしたが数発被弾してしまった。
だがその程度ではこのGe-6は墜ちない。
群がってくる敵戦闘機隊にほくそ笑みながら”若鷹エルリッヒ”は呟いた。
「空で死ねなかった戦友の敵討ちだ、覚悟しろ!」
〈シュニザー視点〉
「ドーロル、後ろだ!回避しろ!」
「少佐、ダメです!ぐわぁああッ!!」
「ドーロル中尉がやられたぞ!」
「各機単機で挑むな、数で潰せ!」
王国軍戦闘機隊の無線は怒号で溢れており、たった1機のGe-6に翻弄され既に3機が撃墜された。
15機のM-2は3機1組のトリオを組んで対応したが、それでもGe-6に遅れをとっていた。
Ge-6自体はM-2でも対処可能なのだがエルリッヒの技量がこの機体を大幅にブーストしている。
しかし流石に被ダメージが増えてきたことを不利と悟ったエルリッヒは己の力を過信することなく、雲に紛れて撤退した。
「こちらエルリッヒ中尉。敵編隊を捕捉、交戦。4機撃墜したがこれ以上は無理だ。帰投する。それから敵艦隊がいると思しき方角は…南南東。友軍編隊と皇国の艦隊にも伝えてくれ」
通信を切った若鷹は多数の敵機と渡り合った高揚感はあったが、それが時間が経つと徐々に冷め、本来の目的であった敵討ちが何をもってして敵討ちとするのかが分からないまま帰還の途についた。
「俺は仇を討てたか…?」
エルリッヒの報告により第1混成航空艦隊の位置が割れた。
既に隠れ蓑も霧散し、丸裸となったアンカー達に45機の攻撃隊とカーリス警戒艦隊が迫りつつあった。
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