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第27話 レーヴェン島空襲
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虎の子の攻撃隊を送り出した様子を見て驚いたのはエカテリーナだけではなかった。
それは模擬戦でコテンパンにしばかれた第5艦隊の面々である。
左隣のツヴァレフから飛び出した機体は上手く風を捕まえて上昇して行く。
その華麗な姿にツヴァレーン左舷3番機関砲手のニミリッツァーは思わず見惚れた。
「すごい…」
艦橋のレッソンや幕僚達も実際に彼らの技量を目の当たりにして、溜まっていた不平不満を超える驚きの表情を次々と見せた。
「あれはなんだ…!?」
「人間業じゃないぞ!」
「模擬戦で負けるわけだ…」
あちこちから聞こえる納得の声に対しレッソンは何も言えず、ただ飛び立って行く彼らの背中を見つめることしか出来なかった。
〈カーリス海南方面〉
アンカーの手塩にかけて育てたパイロット達が圧巻の技を披露していた頃、アルワラ島から派遣された重巡洋艦雨崎型一番艦雨崎を旗艦とする警戒艦隊12隻はスパイからの情報を頼りに索敵網を設置。
偵察機を満遍なく飛ばしながらルンテ海軍の足跡を探していたが延べ20機射出した偵察機は有力な情報を掴めず、手をこまねいていた。
しかし、たった1つ気になる報告があった。
警戒艦隊より少し離れた北北西付近に中規模程度のスコールが発生しているようで、ここがルンテ艦隊の隠れ蓑になっているのではないか?というのだ。
艦隊司令の黒葛原准将(世界基準の階級は少将)はこの意見に否定的であったが幕僚達の熱烈な説得により針路を変更し、アンカー達が潜む海域へと艦首を向けた。
〈レーヴェン島攻撃隊〉
攻撃隊の総隊長であるシュニザーは風防のガラスを叩きつける雨音をサウンド代わりにして海図とコンパスを頼りにレーヴェン島へと向かっていた。
部下のパイロット達は彼を全面的に信頼しており、シュニザーが飛ぶ航路を綺麗になぞって編隊飛行を維持し続けた。
そして飛行開始から1時間30分経った午前9時。
既に雨が止み、雲がうっすらと立ち込める空を飛行している副隊長のトピード大尉機が眼下の海面を舐めるように眺めていると島に似たシルエットが雲の切れ目から見えてくる。
彼はこれをすぐさま無線でシュニザーに報せた。
「こちらトピード大尉。2時方向に島影と思わしきものを視認。降下して確認します」
「こちら総隊長。許可する。俺たちのパーティー会場かどうかを確認してこい」
許可を得たトピードの愛機は機首を下に向け、ロールしながら降下を開始した。
そして地図と照らし合わせた結果、島影がレーヴェン島であると断定した。
「こちらトピード大尉。パーティー会場で間違いありません。ご馳走を用意してるはずですから待たせないようにさっさと入場券を渡しにいきましょう!」
「こちら総隊長。良くやった。貴官には後で俺様秘蔵のワインを一杯くれてやる。さぁ、宴会だ野郎共!食い散らかしてやれ!!」
「「「ウーラー!!!」」」
無線機から溢れんばかりの大声に空の戦士達は武者震いをすると同時に一気に攻撃態勢に移った。
レーヴェン島守備隊は基地のレーダーにやっと映ったのか、慌てて迎撃機を上げ出している様だが空にいる戦闘機の絶対数が違う。
やがて攻撃隊先鋒のM-2戦闘機隊と帝国軍のGe-5戦闘機隊がヘッドオンを開始した。
M-2は降下しながら9ミリ機関銃を放ち、それを食らったのGe-5から火が吹き上がる。
速度の乗ったM-2戦闘機隊と上昇しつつ邀撃を行うGe-5戦闘機隊では帝国側に勝ち目は薄い。
シュニザーは巧みに3機連続で敵機を墜し、トピードも素早く撃墜していく。
これで早くも先行邀撃隊は全滅した。
陽気な総隊長はM-3急降下爆撃機隊に格納庫及びタキシング中のGe-5の攻撃を命じた。
20機の爆弾魔達は2機1組のペアを組み、対空砲火に晒されながらも怖気付くことなく飛び立とうとする獲物に襲いかかった。
次々と地上構造物や対空砲台が破壊され、発進しようとするGe-5も抜かりなく狙っていく中で、7組目のタラン中尉はペアのウィルスター中尉機と同時にレーダー施設の攻撃を開始した。
「行くぞヨシフ!しっかり高度見といてくれよ!」
「了解だ相棒!現在高度1500!」
後部銃座に座って機器を管理するヨシフ中尉に警告を発しながらタラン機はほぼ垂直に降下し続ける。
レーダー施設ということもあってかなり分厚い弾幕が張られるが、砲身を直上に向けれない砲台が出始め、ついにはタラン分隊はほぼ対空砲火の心配をすることなく高度600メートルに迫った。
「速度700キロ!これ以上はまずい!」
「よし、投下!投下!!」
250キロ爆弾1つと60キロ爆弾2つを落としたタラン機はググッと操縦桿を引かれたことにより機首を天空へと向け離脱する。
ウィルスター機も続けて投下。
しかしその後離脱するが角度が悪かったらしく、後部銃座席付近に被弾し黒煙と火を上げ出した。
「タラン、ウィルスターの奴が!」
「何!?」
同期生を乗せたM-3は当初墜落を断固拒否するかのような飛行をしていたものの、急に機首を地上へと向け、炎上するレーダー施設を余所に格納庫目指してまた降下して行った。
「馬鹿野郎!戻れ、ウィルスター!!」
ヨシフの願い虚しく、ウィルスターの意思によって体当たりされた格納庫は弾薬や待機中の機体に引火、大爆発を起こした。
同期生が戦死したことにただ慟哭することしか出来ないヨシフを尻目に、タランは目を濡らしながら敬礼を行った。
このM-3急降下爆撃機隊の空襲で滑走路付近の対空砲台とレーダー施設を破壊したが、攻撃側は5機も撃ち墜とされた。
だがこの予想外の被害を代償に、水平爆撃隊は安全な攻撃が出来るようになり滑走路目掛けて800キロ爆弾を落としていく。
3本ある滑走路をシュニザーの指示通りに投下していく姿は鮮やかなものであった。
「対空陣地は何をやっている!さっさと撃ち墜とさんか!」
基地司令官のシュミッタ少将が受話器をへし折らんばかりに力を込めて怒鳴り散らしていたが、電話越しに聞こえるのは爆弾が炸裂する音と兵士の悲鳴だけだった。
これを聞いたシュミッタは基地の組織的対空戦闘がほぼ不可能になってしまったことを悟ってしまった。
この空襲で基地は滑走路3本全損。対空陣地7割が破壊され、倉庫や格納庫に収容していた航空機の9割が使用不能になるなど、たった1隻の空母から出撃した艦載機隊にやられたとは思えない被害を受けた。
翻って2空側もM-3急降下爆撃機5機、M-4雷撃機(爆装仕様)1機撃墜されるなどの被害を被ったが、戦果に比べると微々たるものであり、帰還中の彼らの表情は比較的明るかった。
〈レーヴェン島基地〉
「第1滑走路から第3滑走路まで全部やられてる!それに格納庫もほぼ全部燃えてるぞ!早く消防隊を寄越せ!」
「こっちだってレーダー施設の火災で手一杯なんだよ!」
「シュミッタ少将、ご指示を!」
レーヴェン島基地の無線は被害報告をする者、愚痴を溢す者、指示を仰ぐ者で溢れかえっていた。
基地司令官であるシュミッタは基地大破の現実を受け入れられず、司令席で放心することしか出来ずにいた。
すると指揮所のドアが激しい音を立てて開けられ、入ってきた若い男が鬼の形相で俯いたままのシュミッタの胸を掴んだ。
「少将!何故もっと早くレーダーで捉えられなかった!?俺の戦友は無駄死する為に戦場に来たわけじゃない!!」
激しい憎悪と怒りを親以上歳の離れたシュミッタに向けるのはこの基地のエースパイロットであるエルリッヒ・マルクス・ケルトマン中尉だった。
開戦以来10機の撃墜戦果を挙げた彼を良く思っていなかった少将だが、そんなエルリッヒが怒鳴り込んで来ても一切、無表情を崩さなかった。
エルリッヒは呆然とし続ける彼を荒々しく離し、管制官と作業員達に無線機を取って指示を送った。
「いいか貴様ら、よく聞け。まずは全力で火災を鎮火しろ。それからすぐに2番滑走路の簡易整備を行え。少し滑走出来ればそれでいい。俺が奴らに復讐してやる。”帝国の若鷹”が貴様らに代わってな!」
陽気な攻撃隊に危険が迫っていた。
それは模擬戦でコテンパンにしばかれた第5艦隊の面々である。
左隣のツヴァレフから飛び出した機体は上手く風を捕まえて上昇して行く。
その華麗な姿にツヴァレーン左舷3番機関砲手のニミリッツァーは思わず見惚れた。
「すごい…」
艦橋のレッソンや幕僚達も実際に彼らの技量を目の当たりにして、溜まっていた不平不満を超える驚きの表情を次々と見せた。
「あれはなんだ…!?」
「人間業じゃないぞ!」
「模擬戦で負けるわけだ…」
あちこちから聞こえる納得の声に対しレッソンは何も言えず、ただ飛び立って行く彼らの背中を見つめることしか出来なかった。
〈カーリス海南方面〉
アンカーの手塩にかけて育てたパイロット達が圧巻の技を披露していた頃、アルワラ島から派遣された重巡洋艦雨崎型一番艦雨崎を旗艦とする警戒艦隊12隻はスパイからの情報を頼りに索敵網を設置。
偵察機を満遍なく飛ばしながらルンテ海軍の足跡を探していたが延べ20機射出した偵察機は有力な情報を掴めず、手をこまねいていた。
しかし、たった1つ気になる報告があった。
警戒艦隊より少し離れた北北西付近に中規模程度のスコールが発生しているようで、ここがルンテ艦隊の隠れ蓑になっているのではないか?というのだ。
艦隊司令の黒葛原准将(世界基準の階級は少将)はこの意見に否定的であったが幕僚達の熱烈な説得により針路を変更し、アンカー達が潜む海域へと艦首を向けた。
〈レーヴェン島攻撃隊〉
攻撃隊の総隊長であるシュニザーは風防のガラスを叩きつける雨音をサウンド代わりにして海図とコンパスを頼りにレーヴェン島へと向かっていた。
部下のパイロット達は彼を全面的に信頼しており、シュニザーが飛ぶ航路を綺麗になぞって編隊飛行を維持し続けた。
そして飛行開始から1時間30分経った午前9時。
既に雨が止み、雲がうっすらと立ち込める空を飛行している副隊長のトピード大尉機が眼下の海面を舐めるように眺めていると島に似たシルエットが雲の切れ目から見えてくる。
彼はこれをすぐさま無線でシュニザーに報せた。
「こちらトピード大尉。2時方向に島影と思わしきものを視認。降下して確認します」
「こちら総隊長。許可する。俺たちのパーティー会場かどうかを確認してこい」
許可を得たトピードの愛機は機首を下に向け、ロールしながら降下を開始した。
そして地図と照らし合わせた結果、島影がレーヴェン島であると断定した。
「こちらトピード大尉。パーティー会場で間違いありません。ご馳走を用意してるはずですから待たせないようにさっさと入場券を渡しにいきましょう!」
「こちら総隊長。良くやった。貴官には後で俺様秘蔵のワインを一杯くれてやる。さぁ、宴会だ野郎共!食い散らかしてやれ!!」
「「「ウーラー!!!」」」
無線機から溢れんばかりの大声に空の戦士達は武者震いをすると同時に一気に攻撃態勢に移った。
レーヴェン島守備隊は基地のレーダーにやっと映ったのか、慌てて迎撃機を上げ出している様だが空にいる戦闘機の絶対数が違う。
やがて攻撃隊先鋒のM-2戦闘機隊と帝国軍のGe-5戦闘機隊がヘッドオンを開始した。
M-2は降下しながら9ミリ機関銃を放ち、それを食らったのGe-5から火が吹き上がる。
速度の乗ったM-2戦闘機隊と上昇しつつ邀撃を行うGe-5戦闘機隊では帝国側に勝ち目は薄い。
シュニザーは巧みに3機連続で敵機を墜し、トピードも素早く撃墜していく。
これで早くも先行邀撃隊は全滅した。
陽気な総隊長はM-3急降下爆撃機隊に格納庫及びタキシング中のGe-5の攻撃を命じた。
20機の爆弾魔達は2機1組のペアを組み、対空砲火に晒されながらも怖気付くことなく飛び立とうとする獲物に襲いかかった。
次々と地上構造物や対空砲台が破壊され、発進しようとするGe-5も抜かりなく狙っていく中で、7組目のタラン中尉はペアのウィルスター中尉機と同時にレーダー施設の攻撃を開始した。
「行くぞヨシフ!しっかり高度見といてくれよ!」
「了解だ相棒!現在高度1500!」
後部銃座に座って機器を管理するヨシフ中尉に警告を発しながらタラン機はほぼ垂直に降下し続ける。
レーダー施設ということもあってかなり分厚い弾幕が張られるが、砲身を直上に向けれない砲台が出始め、ついにはタラン分隊はほぼ対空砲火の心配をすることなく高度600メートルに迫った。
「速度700キロ!これ以上はまずい!」
「よし、投下!投下!!」
250キロ爆弾1つと60キロ爆弾2つを落としたタラン機はググッと操縦桿を引かれたことにより機首を天空へと向け離脱する。
ウィルスター機も続けて投下。
しかしその後離脱するが角度が悪かったらしく、後部銃座席付近に被弾し黒煙と火を上げ出した。
「タラン、ウィルスターの奴が!」
「何!?」
同期生を乗せたM-3は当初墜落を断固拒否するかのような飛行をしていたものの、急に機首を地上へと向け、炎上するレーダー施設を余所に格納庫目指してまた降下して行った。
「馬鹿野郎!戻れ、ウィルスター!!」
ヨシフの願い虚しく、ウィルスターの意思によって体当たりされた格納庫は弾薬や待機中の機体に引火、大爆発を起こした。
同期生が戦死したことにただ慟哭することしか出来ないヨシフを尻目に、タランは目を濡らしながら敬礼を行った。
このM-3急降下爆撃機隊の空襲で滑走路付近の対空砲台とレーダー施設を破壊したが、攻撃側は5機も撃ち墜とされた。
だがこの予想外の被害を代償に、水平爆撃隊は安全な攻撃が出来るようになり滑走路目掛けて800キロ爆弾を落としていく。
3本ある滑走路をシュニザーの指示通りに投下していく姿は鮮やかなものであった。
「対空陣地は何をやっている!さっさと撃ち墜とさんか!」
基地司令官のシュミッタ少将が受話器をへし折らんばかりに力を込めて怒鳴り散らしていたが、電話越しに聞こえるのは爆弾が炸裂する音と兵士の悲鳴だけだった。
これを聞いたシュミッタは基地の組織的対空戦闘がほぼ不可能になってしまったことを悟ってしまった。
この空襲で基地は滑走路3本全損。対空陣地7割が破壊され、倉庫や格納庫に収容していた航空機の9割が使用不能になるなど、たった1隻の空母から出撃した艦載機隊にやられたとは思えない被害を受けた。
翻って2空側もM-3急降下爆撃機5機、M-4雷撃機(爆装仕様)1機撃墜されるなどの被害を被ったが、戦果に比べると微々たるものであり、帰還中の彼らの表情は比較的明るかった。
〈レーヴェン島基地〉
「第1滑走路から第3滑走路まで全部やられてる!それに格納庫もほぼ全部燃えてるぞ!早く消防隊を寄越せ!」
「こっちだってレーダー施設の火災で手一杯なんだよ!」
「シュミッタ少将、ご指示を!」
レーヴェン島基地の無線は被害報告をする者、愚痴を溢す者、指示を仰ぐ者で溢れかえっていた。
基地司令官であるシュミッタは基地大破の現実を受け入れられず、司令席で放心することしか出来ずにいた。
すると指揮所のドアが激しい音を立てて開けられ、入ってきた若い男が鬼の形相で俯いたままのシュミッタの胸を掴んだ。
「少将!何故もっと早くレーダーで捉えられなかった!?俺の戦友は無駄死する為に戦場に来たわけじゃない!!」
激しい憎悪と怒りを親以上歳の離れたシュミッタに向けるのはこの基地のエースパイロットであるエルリッヒ・マルクス・ケルトマン中尉だった。
開戦以来10機の撃墜戦果を挙げた彼を良く思っていなかった少将だが、そんなエルリッヒが怒鳴り込んで来ても一切、無表情を崩さなかった。
エルリッヒは呆然とし続ける彼を荒々しく離し、管制官と作業員達に無線機を取って指示を送った。
「いいか貴様ら、よく聞け。まずは全力で火災を鎮火しろ。それからすぐに2番滑走路の簡易整備を行え。少し滑走出来ればそれでいい。俺が奴らに復讐してやる。”帝国の若鷹”が貴様らに代わってな!」
陽気な攻撃隊に危険が迫っていた。
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