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第22話 厄介者
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4月28日。早朝。
アンカーは謹慎を解かれ、軍務に復帰した。
理由が理由だったので叔父のドクトラからは口頭注意、もとい慰めを受け、部下達からはかなり心配された。
アンカー自身は
「心配かけた。もう大丈夫」
と言い、安心させたがその顔色はあまり良くなかった上、2つの問題が身に降りかかった。
1つは平和大橋破壊作戦の参加命令。
謹慎明けでも容赦なく戦場に送られるのは現在の戦況を鑑み、仕方のないことだと言える。
…が。
「少佐。説明してくれ。この方は?」
「はい。ルートランド共和国海軍のエカテリーナ・ウェインライト中将閣下です」
「違う、そうじゃない」
目の前でビシッと敬礼している女性に返礼し、詳細書類を手渡しつつ無礼ながら軍帽を取って髪を弄りながらアンカーはげんなりした。
「少佐。彼女の現待遇は?」
「はい。連絡将校として我が艦隊に一時的に配属されるそうです」
「一時的ねぇ…ちなみに両政府はなんと?」
「両政府共に認可済みです司令。逃げ場はありませんよ」
「…」
まさか第一印象を最悪にしてしまった(と思っている)彼女が連絡将校としてうちに来るとは…。
しかも当て馬じゃないかと(彼女には言っていないが)愚痴った提督の下に就かせるか普通。
…とりあえず挨拶せねばなるまい。
[その節は無礼を働き、申し訳ありませんでした。…ようこそ第2艦隊へ。司令のアンカー・ラインです。しばらくの間よろしくお願いします]
[…!ルートランド語が話せるのですね。改めまして、エカテリーナ・ウェインライトです。ルートランド共和国海軍第110任務部隊より連絡将校として参りました。あの時のことは気にしておりませんわ、ライン中将。以後、よろしくお願いします]
[お許し頂き、ありがとうございます。ルートランド語は祖父が言語学に精通しておりましたのでルートランド人とも接する機会はありました。おかげさまで他にも2、3カ国語話せます]
[なるほど。言語はお互いを繋げる架け橋ですからね。私もルンテシュタット語を通訳官の彼女から学びたいと思っております]
[それは良いことですね。よければ簡単な本を差し上げますよ]
[本当ですか?それはありがたい。是非頂戴したいものですわ]
[あとで部屋に届けさせます]
[感謝いたします]
「なんか…仲良さそうに話してるなぁ」
「そうですね…」
普段、部下のイグロレやベストロニカ達に見せない素顔が見れた気がして彼らは少し嬉しかった。
「何言ってるかさっぱりだけどあいつが楽しそうならいいか」
「そうね。アンカーの小さかった頃の笑顔によく似てるわ…あと私もルートランド語話せるわよ」
「え(急にマウント取られた…)」
イグロレが「マジかよ」とアルリエに視線を向けたが、彼女はそれを無視して懐かしげに幼馴染みを見ているとその当人がこちらの視線に気がついた。
「おい。どーしたんだ?」
「「「いいえなんでも」」」
3人とも口を揃えて業務に戻った。
リーエルは航海長や艦長達と忙しそうに航路計算を行なっていたので一連のエピソードには残念ながら気がつかなかった様だ。
「さて、作戦内容だが…」
そうアンカーがベストロニカから渡された書類に目を通そうとした時。
「おぉい!どうして僕の出迎えがないんだ!どうなってるこの艦は!?」
まるで狸の様な恰幅の良い体つきに騒々しい声を出す男が急に艦橋に登ってきた。
階級章を見るとどうやら大佐の様だ。
「貴官は誰だ?」
「僕は栄えあるルンテシュタット王国王太子、エスメール・グリゴリー・デル・ロマノスキーだ!」
自信満々に胸を反らせて答えたが残念ながらその王室パワーはアンカーの心には全くと言ってよいほど届かなかった。
「そうか、やっと来たのか。で、敬礼は?」
王太子を前にしても全く動じないアンカーに少し驚いたのか、エスメールは1歩後退りする。
しかし流石1国の王太子。
すぐさま反論に移った。
「貴様が誰だか知らんが僕は王太子だぞ!先に敬礼をするべきなのは貴様ではないのか!?」
「笑わせるな!」
「!?」
突然の怒号にエスメールはさらにもう1歩後退する。
「貴官は何をしにここに来た?王太子だの王族だのは艦の上では無意味だ。大佐という階級を持っているのなら、己の立場を弁えろ!」
「…!」
おそらく怒鳴られたことがないのであろう。
自尊心と伸びきった鼻をへし折られ、顔を俯かせた彼はドスドスと艦橋を降りて行った。
「…プライザー中尉!時間はあるか?」
「ハッ!問題ありません、閣下」
「ならあの狸に部屋を案内してやれ。…慰めや助言はいらんぞ。士官学校を仮にでも卒業した身なら、あの態度は流石に腹が立つからな」
「了解しました」
そう言ってリーエルはエスメールに続いて艦橋を駆け足で降りて行った。
はぁ…全く。どういう育て方をしたらああなるんだ?
すると一連の騒動に興味無し。と言わんばかりに外を見つめていた艦長が呆れ果てていたアンカーに声をかけてきた。
「ライン司令。王族とは皆あんなものじゃよ」
「ガーゴイラ艦長…まさか俺の心を読んだのか?」
「ほっほっほっ。読まずとも見え見えですぞ」
「…恐れ入った」
「まぁ…あの王太子が使える使えない以前の問題を己で理解、納得しなければこの艦から下ろしますぞ?」
「無論だ。そこは艦長の権限だからな」
そう言うと退役寸前の彼は満足そうにペン回しを始めた。
さて、国の醜態を連絡将校に見られた側としてはなんとも言えない。
通訳が既に伝えた様で表情の種類に乏しい彼女も苦笑していた。
[…あー。申し訳ない、ウェインライト中将。見苦しいものをお見せしましたな。気分転換に艦内と部屋の案内をさせましょう。バラストロング大佐、頼む]
[了解しました。どうぞこちらへ、閣下]
[ありがとう]
ウェインライトと通訳は礼を言って艦橋から去った。
「いいんです?艦内の案内なんて」
「いいさロックラー大尉。どうせ見られても困るものなんてこの艦にはないよ。お古な中型空母なんだからな」
「おや司令。それはわしの嫁に対する冒瀆と受け取りますぞ」
「いや待って違うそういう意味じゃな…」
アンカーはその後、艦長権限を行使され、昼食抜きになった様だ。
アンカーは謹慎を解かれ、軍務に復帰した。
理由が理由だったので叔父のドクトラからは口頭注意、もとい慰めを受け、部下達からはかなり心配された。
アンカー自身は
「心配かけた。もう大丈夫」
と言い、安心させたがその顔色はあまり良くなかった上、2つの問題が身に降りかかった。
1つは平和大橋破壊作戦の参加命令。
謹慎明けでも容赦なく戦場に送られるのは現在の戦況を鑑み、仕方のないことだと言える。
…が。
「少佐。説明してくれ。この方は?」
「はい。ルートランド共和国海軍のエカテリーナ・ウェインライト中将閣下です」
「違う、そうじゃない」
目の前でビシッと敬礼している女性に返礼し、詳細書類を手渡しつつ無礼ながら軍帽を取って髪を弄りながらアンカーはげんなりした。
「少佐。彼女の現待遇は?」
「はい。連絡将校として我が艦隊に一時的に配属されるそうです」
「一時的ねぇ…ちなみに両政府はなんと?」
「両政府共に認可済みです司令。逃げ場はありませんよ」
「…」
まさか第一印象を最悪にしてしまった(と思っている)彼女が連絡将校としてうちに来るとは…。
しかも当て馬じゃないかと(彼女には言っていないが)愚痴った提督の下に就かせるか普通。
…とりあえず挨拶せねばなるまい。
[その節は無礼を働き、申し訳ありませんでした。…ようこそ第2艦隊へ。司令のアンカー・ラインです。しばらくの間よろしくお願いします]
[…!ルートランド語が話せるのですね。改めまして、エカテリーナ・ウェインライトです。ルートランド共和国海軍第110任務部隊より連絡将校として参りました。あの時のことは気にしておりませんわ、ライン中将。以後、よろしくお願いします]
[お許し頂き、ありがとうございます。ルートランド語は祖父が言語学に精通しておりましたのでルートランド人とも接する機会はありました。おかげさまで他にも2、3カ国語話せます]
[なるほど。言語はお互いを繋げる架け橋ですからね。私もルンテシュタット語を通訳官の彼女から学びたいと思っております]
[それは良いことですね。よければ簡単な本を差し上げますよ]
[本当ですか?それはありがたい。是非頂戴したいものですわ]
[あとで部屋に届けさせます]
[感謝いたします]
「なんか…仲良さそうに話してるなぁ」
「そうですね…」
普段、部下のイグロレやベストロニカ達に見せない素顔が見れた気がして彼らは少し嬉しかった。
「何言ってるかさっぱりだけどあいつが楽しそうならいいか」
「そうね。アンカーの小さかった頃の笑顔によく似てるわ…あと私もルートランド語話せるわよ」
「え(急にマウント取られた…)」
イグロレが「マジかよ」とアルリエに視線を向けたが、彼女はそれを無視して懐かしげに幼馴染みを見ているとその当人がこちらの視線に気がついた。
「おい。どーしたんだ?」
「「「いいえなんでも」」」
3人とも口を揃えて業務に戻った。
リーエルは航海長や艦長達と忙しそうに航路計算を行なっていたので一連のエピソードには残念ながら気がつかなかった様だ。
「さて、作戦内容だが…」
そうアンカーがベストロニカから渡された書類に目を通そうとした時。
「おぉい!どうして僕の出迎えがないんだ!どうなってるこの艦は!?」
まるで狸の様な恰幅の良い体つきに騒々しい声を出す男が急に艦橋に登ってきた。
階級章を見るとどうやら大佐の様だ。
「貴官は誰だ?」
「僕は栄えあるルンテシュタット王国王太子、エスメール・グリゴリー・デル・ロマノスキーだ!」
自信満々に胸を反らせて答えたが残念ながらその王室パワーはアンカーの心には全くと言ってよいほど届かなかった。
「そうか、やっと来たのか。で、敬礼は?」
王太子を前にしても全く動じないアンカーに少し驚いたのか、エスメールは1歩後退りする。
しかし流石1国の王太子。
すぐさま反論に移った。
「貴様が誰だか知らんが僕は王太子だぞ!先に敬礼をするべきなのは貴様ではないのか!?」
「笑わせるな!」
「!?」
突然の怒号にエスメールはさらにもう1歩後退する。
「貴官は何をしにここに来た?王太子だの王族だのは艦の上では無意味だ。大佐という階級を持っているのなら、己の立場を弁えろ!」
「…!」
おそらく怒鳴られたことがないのであろう。
自尊心と伸びきった鼻をへし折られ、顔を俯かせた彼はドスドスと艦橋を降りて行った。
「…プライザー中尉!時間はあるか?」
「ハッ!問題ありません、閣下」
「ならあの狸に部屋を案内してやれ。…慰めや助言はいらんぞ。士官学校を仮にでも卒業した身なら、あの態度は流石に腹が立つからな」
「了解しました」
そう言ってリーエルはエスメールに続いて艦橋を駆け足で降りて行った。
はぁ…全く。どういう育て方をしたらああなるんだ?
すると一連の騒動に興味無し。と言わんばかりに外を見つめていた艦長が呆れ果てていたアンカーに声をかけてきた。
「ライン司令。王族とは皆あんなものじゃよ」
「ガーゴイラ艦長…まさか俺の心を読んだのか?」
「ほっほっほっ。読まずとも見え見えですぞ」
「…恐れ入った」
「まぁ…あの王太子が使える使えない以前の問題を己で理解、納得しなければこの艦から下ろしますぞ?」
「無論だ。そこは艦長の権限だからな」
そう言うと退役寸前の彼は満足そうにペン回しを始めた。
さて、国の醜態を連絡将校に見られた側としてはなんとも言えない。
通訳が既に伝えた様で表情の種類に乏しい彼女も苦笑していた。
[…あー。申し訳ない、ウェインライト中将。見苦しいものをお見せしましたな。気分転換に艦内と部屋の案内をさせましょう。バラストロング大佐、頼む]
[了解しました。どうぞこちらへ、閣下]
[ありがとう]
ウェインライトと通訳は礼を言って艦橋から去った。
「いいんです?艦内の案内なんて」
「いいさロックラー大尉。どうせ見られても困るものなんてこの艦にはないよ。お古な中型空母なんだからな」
「おや司令。それはわしの嫁に対する冒瀆と受け取りますぞ」
「いや待って違うそういう意味じゃな…」
アンカーはその後、艦長権限を行使され、昼食抜きになった様だ。
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