オストメニア大戦

居眠り

文字の大きさ
上 下
17 / 53

第17話 アルワラ本島沖海戦

しおりを挟む
 第3艦隊を指揮するナラはたかが艦砲射撃と侮り、全て部下任せということを決しなかった。
彼はこの攻撃を実行するにあたって、自身の知識の総力を上げて以下の作戦を考えた。
まず駆逐艦7隻をアルワラ本島側を除く戦艦の外周に配置し、哨戒任務にあたらせる。
これは大慌てで反転してくるであろう敵艦隊を早期発見、対艦戦闘を速やかに行える様にする為である。
続いて重巡と軽巡を砲台陣地に向けて接近させ、砲撃を実施させる。
射程が戦艦ほど長くない巡洋艦は接近せざるを得ないのだが、これは敵砲台陣地からの反撃を受ける盾役になってしまうというデメリットがある。
しかし戦艦2隻だけで砲台陣地を殲滅するには些か時間がかかる。
そこで後々艦隊決戦をする時に後背の憂いがあってはならないと考えたナラは早急に破壊したかったのだ。
そして最後に駆逐艦3隻を戦艦の護衛に残す。
重巡の水偵も先に発艦させておくので近距離から中距離の索敵は完璧だと疑わないナラだったが、ザンボルトの意見は違った。
それは航空機による攻撃を加味していないからである。
この作戦案での艦砲射撃中は全体的に艦隊がばらけてしまうのでその間にもし敵航空機が襲いかかってきたらひとたまりもない。
艦載機の攻撃は無いと思うが基地航空隊は来襲するだろうとザンボルトは予想していた。


〈第1砲台〉

「撃てぇー!」

21センチ単装砲が火を噴くと同時に砲台のカーリス兵達は耳を塞ぐ。
轟音とともに放たれた砲弾は放物線を描いて重巡の艦尾に命中した。

「艦尾に命中!」

「火災発生!」

「消火作業、急げ!」

重巡ダイラントの艦長が冷静にダメージコントロールを図るが火の回りが早い。
艦尾付近が一気に火に包まれ、逃げ遅れた乗員達が次々と火ダルマになって海に飛び込んでいく。

「やったぞ!」

砲台陣地側はその様子を見て大いに歓喜したがもう1隻の重巡がこちら目掛けて発砲した。

「敵弾飛来、伏せろぉー!!」

重巡の20センチ砲弾が目の前の海に落下して盛大な水飛沫を砲台兵士達に浴びせかける。
砲台兵士達の硝煙臭い体を海水が洗い流してくれたが、新たに海水の臭いが軍服にまとまり付く。
だがそんなことを気にしていられない。
生か死か。
蔵田は一心不乱に21センチ砲を次の重巡に向け直す。

「蔵田ァ!撃てぇー!!」

「ッてぇー!!!」

茂地原の合図とともに引き紐を引く。
同時に2隻目の重巡も主砲を一斉射し、放火された僚艦の代わりに反撃を行った。
蔵田はその砲撃の衝撃で地面に叩きつけられた。


〈ルンテ第3艦隊旗艦アムストガルト艦橋〉

「敵砲台陣地の掃討、完了しました。こちらの被害は重巡1隻小破炎上中、軽巡1隻中破です、司令」

多少被害が出てしまったが砲台陣地を破壊出来たことに満足気なナラは新たに港湾内の砲撃を命じた。

「作戦参謀!偵察機を港湾上空に向かわせろ。各施設、及び敵艦艇に攻撃を加えるんだ」

「はッ!…重巡ダラレルに通信。偵察機を射出し、弾着観測の任にあたらせろ!」

通信士官が復唱し、被害無しの重巡ダラレルから偵察機がカタパルトより射出された。
現在、午前9時45分。
何か基地でアクシデントでもあったのだろうか。
ザンボルトはまだ基地航空隊が来襲して来ていないことに安堵していた。
この調子で事が進めばなんとかなるか…?
そう思っていたがそこまでの豪運は第3艦隊の誰も持っていなかった。

「こちら偵察機Y-3!港湾内を視認。燃料タンク3、軽巡1、駆逐艦1、護衛艦4確認。位置は………ん?なんだ、あれは?」

「どうした?何が見える?」

突然報告を中断し、何かを不審がる声を伝えるパイロットに艦橋内は1人を除いて怪訝そうな表情になる。
ただ1人、ザンボルトは血の気が引いた様に真っ青になって無線機を作戦参謀からひったくり、パイロットに直ちに退避せよと伝えようとした。
だが。

「う、うわぁ!!こちら偵察機Y-3!敵航空編隊を視認!数は少なくとも30以上!雷装、爆装もいる!!」

「偵察機Y-3!現空域より退避せよ!繰り返す、退避せよ!!」

「む、無理だ!敵戦闘機が!クソッ、後ろに付かれた!」

「…!」

「引き離せない…!ぐわッ!被弾した!グランディー!グランディー!(ルンテ語でメーデー)チクショウ、墜ちる!!制御不能!!嫌だ、死にたくない!」

無線機から聞こえる断末魔に艦橋内の者達は一斉に港湾上空に目を向ける。
そこには火を噴き上げ墜落していく偵察機Y-3と大量の航空隊が見えた。
視線を驚きを隠せないナラに戻したザンボルトは、急いで戦闘態勢を取るように促す。

「司令、艦隊を集結させて下さい!このままではいい的だ!」

「わ、分かった。全艦、旗艦を中心に集結!対空戦闘よーい!」

「対空戦闘よーい!」

砲雷長が慌てて艦内に知らせ、艦隊には通信士官が無線で命令を送る。
だがここまで接近されれば間に合わない。
第3艦隊は圧倒的不利な状況に陥ったのである。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

戦場立志伝

居眠り
SF
荒廃した地球を捨てた人類は宇宙へと飛び立つ。 運良く見つけた惑星で人類は民主国家ゾラ連合を 建国する。だが独裁を主張する一部の革命家たちがゾラ連合を脱出し、ガンダー帝国を築いてしまった。さらにその中でも過激な思想を持った過激派が宇宙海賊アビスを立ち上げた。それを抑える目的でゾラ連合からハル平和民主連合が結成されるなど宇宙は混沌の一途を辿る。 主人公のアルベルトは愛機に乗ってゾラ連合のエースパイロットとして戦場を駆ける。

The Outer Myth :Ⅰ -The Girl of Awakening and The God of Lament-

とちのとき
SF
Summary: The girls weave a continuation of bonds and mythology... The protagonist, high school girl Inaho Toyouke, lives an ordinary life in the land of Akitsukuni, where gods and humans coexist as a matter of course. However, peace is being eroded by unknown dangerous creatures called 'Kubanda.' With no particular talents, she begins investigating her mother's secrets, gradually getting entangled in the vortex of fate. Amidst this, a mysterious AGI (Artificial General Intelligence) girl named Tsugumi, who has lost her memories, washes ashore in the enigmatic Mist Lake, where drifts from all over Japan accumulate. The encounter with Tsugumi leads the young boys and girls into an unexpected adventure. Illustrations & writings:Tochinotoki **The text in this work has been translated using AI. The original text is in Japanese. There may be difficult expressions or awkwardness in the English translation. Please understand. Currently in serialization. Updates will be irregular. ※この作品は「The Outer Myth :Ⅰ~目覚めの少女と嘆きの神~」の英語版です。海外向けに、一部内容が編集・変更されている箇所があります。

コード・ナイン

OSARAGI
SF
現代日本。 日本を取り巻く安全保障環境が混沌を増す中、日本国安全保障庁は人体と機械技術を結合させ人力を超えた強力な兵力を得るため、【サイボーグ・ウルトラ作戦】を実行する。 そんな中、被験者達の待遇への不満から被験者達は日本政府へ反旗を翻すこととなる。 日本政府を裏切り唯一脱出に成功した主人公は、日本に留まらず全世界を敵に回す事となった。 1人で世界と戦わなければならない孤独、 その悪魔の力故に人として生きれない絶望を描く。

蒼穹(そら)に紅~天翔る無敵皇女の冒険~ 四の巻

初音幾生
歴史・時代
日本がイギリスの位置にある、そんな架空戦記的な小説です。 1940年10月、帝都空襲の報復に、連合艦隊はアイスランド攻略を目指す。 霧深き北海で戦艦や空母が激突する! 「寒いのは苦手だよ」 「小説家になろう」と同時公開。 第四巻全23話

暑苦しい方程式

空川億里
SF
 すでにアルファポリスに掲載中の『クールな方程式』に引き続き、再び『方程式物』を書かせていただきました。  アメリカのSF作家トム・ゴドウィンの短編小説に『冷たい方程式』という作品があります。  これに着想を得て『方程式物』と呼ばれるSF作品のバリエーションが数多く書かれてきました。  以前私も微力ながら挑戦し『クールな方程式』を書きました。今回は2度目の挑戦です。  舞台は22世紀の宇宙。ぎりぎりの燃料しか積んでいない緊急艇に密航者がいました。  この密航者を宇宙空間に遺棄しないと緊急艇は目的地の惑星で墜落しかねないのですが……。

勇者の如く倒れよ ~ ドイツZ計画 巨大戦艦たちの宴

もろこし
歴史・時代
とある豪華客船の氷山事故をきっかけにして、第一次世界大戦前にレーダーとソナーが開発された世界のお話です。 潜水艦や航空機の脅威が激減したため、列強各国は超弩級戦艦の建造に走ります。史実では実現しなかったドイツのZ計画で生み出された巨艦たちの戦いと行く末をご覧ください。

NPCが俺の嫁~リアルに連れ帰る為に攻略す~

ゆる弥
SF
親友に誘われたVRMMOゲーム現天獄《げんてんごく》というゲームの中で俺は運命の人を見つける。 それは現地人(NPC)だった。 その子にいい所を見せるべく活躍し、そして最終目標はゲームクリアの報酬による願い事をなんでも一つ叶えてくれるというもの。 「人が作ったVR空間のNPCと結婚なんて出来るわけねーだろ!?」 「誰が不可能だと決めたんだ!? 俺はネムさんと結婚すると決めた!」 こんなヤバいやつの話。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

処理中です...